表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪人END  作者: 後華仙
1/1

悪人END

プロローグ

 

 首筋に寒気が走る。


 僕の終焉まであと一歩のところで、上からガラスの窓が割れる音がした。

 顔を上げる気力さえ無かったのに、自然と顔が上がる。


 最初に目に入った長い髪は、菫色になびいていた。黒いコートを羽織り、手にあったのは刀身が紅色の鎌。



 

 その姿はまるで、御伽噺に出てくる死神のようだっった。










第一章


 よく晴れた空の太陽は、今日という日を待ちわびていたかのように眩しかった。

 その太陽を遮る大きな屋敷の廊下の隅で、肩よりも少し長い金髪を赤いリボンで結んだ少年が、書物を持って歩いている。


 すると、後ろで可愛らしい少女の声が少年の名を呼んだ。


「ゼル!」


 ゼルが後ろを振り向くと、高貴なドレスを身に纏った可憐な少女がこちらへ小走りで来る。

 

「ルーヤお嬢様⁉どうしてここにいるのですか?」

 ゼルは驚くと、段々顔が曇っていく。

「…まさかお嬢様、勝手に一人で部屋から抜け出してきたりしませんよね…」

「今回はね、警備が厳しくて抜け出すの大変だったのよ!おかげで抜け出すのに20分もかかっちゃた」

“ルーヤお嬢様”と呼ばれた少女は、ゼルの言葉を遮るように得意げな表情をして言った。

 対するゼルの表情は、今にも死にそうである。

「…明日が何の日か分かっいて、抜けだしたんですか?」 

 ルーヤは誇らしげに、胸を張った。

「もちろん‼明日は、私の16歳の誕生日に決まってるじゃない!」 

「そうですよ‼しかも、16歳からは社交界の仲間入りで、誕生日とあらばデビュタントですよ!人生で一度きりの‼それに、ルーヤお嬢様はサリレット侯爵家の一人娘。どれだけ注目されていることか…」


 ルーヤは、やけに熱血なゼルの言葉を聞かないふりをして、話題をすり替えた。


「それはそうと、ゼルは何でこんなところにいるの?部屋に戻ってくるのが遅いと思ったら、この本は侍女に返すように頼んだはずだけど…」

 ゼルは視線を斜め下に移す。

「えっと…僕から侍女に返すと言ったんです。急ぎの仕事があるらしいので…」


 沈黙が流れる。 


「はぁ…ゼルは本当に嘘をつくのが下手ね。それとも、気づいてもらいたいの?急ぎの仕事なんて、どう考えても嘘じゃない。急ぎの仕事があるなら、こんな離れた図書館の本返しなんて頼まないもの。…その本は侍女に返させるから、もう戻っていいわよ」

 

「…いいえ」


 ゼルは、笑顔を取り繕った顔をルーヤに向けた。

「図書館はすぐ近くですし、ちょうど本を借りようと思っていたので返してきます」

 ルーヤは少し不機嫌つつも、すぐに気を取り直してゼルの隣のに並んだ。

「しょうがないわね、私も行くわ。このまま戻って誰かに見つかったら、言い訳のしようがないもの」

「そもそも怒られるのは僕なんですから、これからは抜け出さないでくださいよ!」

 

 そうして話しているうちに、図書館に着いた。

 

 図書館の扉を開くと、音が存在しない幻想的な世界に来たかと思うほど、とても美しい図書館が目の前にあった。


 五十万冊は平気で超えそうな書物が棚にしまってあり、ゼルは(さすが侯爵家ですね…)と、内心つぶやいた。


 ゼルはカウンターで本を返すと、ルーヤと借りる本を選び始めた。


「そういえば、ルーヤお嬢様が好きな本って、何ですか?」

 何気なく聞いてみたが、ルーヤはやけに真剣だった。

「そうね…ゼルの目の前にある棚から、右側にあるわよ」

「なんで宝探し形式なんでしょう…」

 ルーヤは何かを試すかのような笑みを浮かべた。

「もし見つけることができたなら、二度と部屋から抜け出したりしないわ。見つけられなかったら…これからも部屋から抜け出すわよ」

「それ脅しじゃないですか‼」

 ゼルは声を潜めて言ったが、それでも静かすぎる図書館には少し響いてしまった。



「タイムリミットは二時間。それでは、よーいスタート!」


 右側といっても、三十万冊はある。その中からたった一つの本を見つけなければならない。

(見つかる可能性は低くても、見つけないとこれからもルーヤお嬢様が部屋から抜け出してしまう。それにもしも、ルーヤお嬢様が部屋から抜け出したことがバレたり、万が一のことがあれば…僕がどれだけ罰せられることか…)

 ゼルはそんなことを思いながら、ルーヤが読みそうな本を考えた。

(ルーヤお嬢様が個人的によく読む本といえば“セレニア令嬢と執事の紫のヒヤシンス”っていう、メリーバッドエンドの恋愛小説だけど…どこにあるんだろう?)



 一時間半後…



「はぁ…はぁ…やっと…見つ、け…た」

 ゼルは息を切らしながら、一冊の本を手に取る。

(この図書館、広すぎる!!本当に迷子になるところだった!あとは、ルーヤお嬢様に見せるだけ!!)      


 そして、ルーヤお嬢様のところに行こうとしたとき、先ほど取った本の棚に一冊だけ題名のない本が目に入った。

 本のカバーは、たぶん本当は真っ白だが、墨のようなものでひどく汚れていた。とてもこの図書館の本だとは思えない。

 ゼルは、この本を見つけたのが必然か、偶然か、分からないまま何かに導かれるような衝動に駆られて、この題名のない本も手に取った。 




 一時間五十八分後…




「ぎりぎりセーフね。それで、見つけれた?」

 ゼルは息を整えてから、“セレニア令嬢と執事の紫のヒヤシンス”の本を渡した。

「この本であってますか?」

 そのとき、一瞬だけルーヤの肩が震えた気がした。

(一番好きな本でありますように!!一番好きな本でありますように!!)

 心で祈り続けるゼルの期待を裏切るように、ルーヤが口を開いた。

「残念でした~。この本じゃないわよ」

「えっ!?そ、そんなぁ…」

 力のないゼルの声が、少しだけ響く。

「でも今回は、見つけれたことにしてあげる」

「!?どういうことですか?」

 ルーヤは、ゼルが持っているもう一つの本を指した。

「ゼルが持ってるその本が、私が一番好きな本だからよ。本当に惜しかったわね」

「この題名のない汚れた本が!?」

 ルーヤは驚いたように目を開いた。

「なに言ってるの?その本のどこが汚れてるのよ?それに題名だってちゃんとあるじゃない」

「えっ?ルーヤお嬢様こそ何言って…」

 その本をよく見ると、題名は書かれており、カバーは真っ白でどこも汚れてはなかった。

「“罪と姫騎士の叶わない約束”…?」

(おかしいな、あの時は題名なんてなかったのに。それに墨みたいなもので汚れてた…疲れてるのかな?)

「その本ゼルにあげるわ。読んだら感想聞かせてね!」

 そう言いながら、図書館の扉を開けて歩き始めた。ゼルもその後を続いた。



「一番好きな本なのに、なんで僕なんかにあげたんですか?」

 太陽が雲に遮られ、光が差し込んでいた廊下が暗くなる。

「…ゼルに見てもらいたいからよ。それに…その本はゼルが持っていなければいけない本だから。あっ、結構長い時間図書館にいたから、早く部屋に戻らないとやばいかも」

「それなら急いでくださいよ!!」

 ゼルはルーヤの言ったことが分からなかったが、急いで戻ったため聞きそびれてしまった。


   

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ