6話 広瀬先輩
オーディション当日。
僕は朝イチで鍵を開けねばならないので、皆より10分早く学校にいく。
顧問の滝沢先生から鍵を貰い、音楽室で今日のタイムテーブルをボードに
書き込んでいく。一通りいつもの仕事が終わったので、今日のオーディションの準備に取りかかる。机を並べ、ジャッチペーパーといわれるコンクールで使うような、10点満点の審査用紙を審査員席に配っていく。
ジャッチペーパーといっても皆初心者なので、観点はなく、ただ点数をつけるだけのもので、その点が結果に直結するわけでもない。いわば整理のためのメモと言ったところかな。ちなみに僕考案。
みんながくる前に新入生の希望楽器を一足お先に確認。
したものの、名前が分からないのであんまり意味はなかった。ただ、トランペットの倍率が想定より高い。単純にそこは嬉しいね。
部員たちが集まってきた。オーディション用の楽器を用意し新入生の登校に備える。パートリーダーと幹部はオーディション会場になっている1-1にあつめた。
「各パートの人数配分を確認するね。
フルート2人、クラリネット4人、これにはバスクラも含むね。サックスも4人。トランペットは3、ホルン2、トロンボーン2。ユーフォとチューバは1人ずつ。打楽器は3人。これが一番バランスよくふってあると思うんだけど、1人分余るんだよね。どっか欲しいとこある?」
「ホルンかクラだな。その方がサウンドが厚くなる。」
ホルンパートを率いる充希は部内トップの秀才。音楽の知識は学校一だ。
「そしたらクラかな?3年は少ないし。いい?かりん?」
「いいよ、そーしよ。」
「そしたらこの編成にしよう。オーディションは公平に。オッケー?」
「はい。」
流石、2年間一緒にやっただけある。話がさくさく進んでありがたい。
今回、運営は2年リーダーのカノンと指揮者のタクトに任せてある。時期部長筆頭候補のため、実力をはかるいい機会だ。
パン!パン!
部活では手を叩く=喋るから静かにしろ で5年くらい前から決まってる(らしい)。
「それではオーディションを始めます。審査は各パートリーダーと幹部、顧問の滝沢先生が務めます。運営は2年生のタクトとカノンに任せてあるので二人の指示をよくきくように。1人10分がめやすです。名前順に入ってくるようにしてください。部屋への入りかたは失礼のないよう、各自考えて。
それでは始めます。最初の方、5分後に来て下さい。」
「今年は皆出来いいなぁ。」
「そうだね。半分までやった感じ、コンクールメンバー入りも期待だね。」
「あー、ホントに楽器のレベルは高いけどコミュニケーション能力がな。」
次の子、『七海瑠莉』綺麗な名前だ。フルート希望か、第2希望はクラリネット。THE女の子の選択だな。第3にトランペット。よっしゃ。
「今年トランペット希望多いのってやっぱり部長効果?」
「でしょ。」
「なわけないでしょ。」一応、否定しとく。
「次、ななうみるりさん。」
「失礼します。あの、ヒロセ?先輩…。すいません、ななみ、です。」
あ、あの子だ。名前、瑠莉ちゃんって言うんだ。
「あ、ごめん!失礼しました。では七海さん、まずフルートからどうぞ。」
「はい。」
彼女は緊張した面持ちでフルートを持ち、指の置場所を確認。少し目を細めて、あの瑞々しい唇に吹き口を当てる。ゆったり息を吸ってー
うん、綺麗、上手い。
オーディション終了後、審査員で話し合ってパートを決めていく。
「ねぇ、休憩の後の子すごくなかった?」
「フルート吹いてた子?あの子はフルートで決定じゃない?どう?村田」
「うん、僕もそれがいいと思う。いいですか?滝沢先生?」
「決めるのは君らだ。ぼくが評価したいのはそれよりちゃんと名前を訂正できたところかな?」
「あー」
「今年はクラリネットの出来が思ってたよりよくないな。面倒みきれる?ホルンに回す?」
「いや、2人とも音量でる子っぽかったから、変えるならユーフォの方がいいかな?」
「そしたら後ろから3番目!うちにほしいな。」
「いいよ、そうしよう。」
「それではオーディション結果を張り出します。今年は奇跡的に全員、第2希望におさまりました。今回使ったジャッチペーパー、希望表は処分します。審査員は口外しないように。では!発表!」
「確認したら明日の朝、学校に来たらミーティングの後、楽器を出さずにパートごとでお話をする時間をとります。連絡先の交換をして欲しいので、携帯持ってる人は持ってくる。そうでない人は、電話番号をメモってきてください。あ、携帯の扱いはくれぐれも注意して。最悪、停部だから。」
ミーティングの後。
「先輩!あの、るりちゃんが話があるっ、あるそうです」
「焦らないでいいよ、知らせてくれてありがとう。七海さん、話って?」
すっごい恥ずかしそうなんですけどー。俺なんかした?
「あの、お名前、教えて下さい!」
「?」
あ、名前きかれてる?ん?パニック、あー、平常心。
「あぁ、ヒロセカエデ。
『広』いに、瀬戸内海の『瀬』に、木へんに風で『楓』、
『広瀬楓』だよ。」
「広瀬先輩。」
「そう、よろしくね。」
やばい。頭撫でたい~!かわいい~!
頭のなか決壊してるわ、今日寝れるかな?
後ろで1、2年にキャーキャー言われてる。さて、これは七海さんに向けてか?
それとも俺か?いや、この空間なら七海さんの方だな。
帰り道。今日もアスカちゃんとだ。
「ねー!カエデくんやっぱモテモテじゃぁーん。」
「いや、あれはるりちゃんに…ゴニョゴニョ、うーん、意外とね!」
「あ、認めたー!明日バラすかなー」
「やめて…それは…。」
「こりゃ七海ちゃんに盗られるかなぁ…。」