3話「先輩…」
「新入生の皆さんこんにちは!部長をやらしていただいてます、3年生の『広瀬 楓』と申します。今日は来てくれてありがとう。皆さん、音楽が好きな人が大半かな?書いて字の通り、『吹いて、奏でて、楽しむ』部活なので早速、楽器体験をして貰おうかな。」
部活の女子たちが可愛く書いたホワイトボードのまえで、いつもより声のトーンをひとつ上げて(いつも地声より高くしてるけど)、ついこのまえまで小学生だった後輩たちに優しく説明をする。何としてでも入部してもらわねば。
「楽器体験」と聴いた途端に目をキラキラさせる1年生。こういう子達が入ってくれるといいなと良い部活なるんだな、とか思いながら、みんなの希望パートを挙手制で聴いていく。
「それでは、パートリーダーの先輩についってってねー!あ、トランペットの子は僕について来て。」
一年生二人、背が低い男の子と、その子よりも背が高い女の子が不安そうに僕についてくる。まだこの年だと女の子の方が背が高いなんて当たり前か。「緊張しなくていいよ?」とか、「なんでトランペットがいいの?」とか他愛もない、去年もしたような、話をしながらパート練習をしてる1-3の教室に案内する。
「1年生が来たぞ~!」ハイテンションの2年生がバタバタと騒いでる。
「うるさい、もう先輩なんだからね」と、3年生が咎める。
うちのパートは3年が二人、2年が三人の五人。男は各学年に1人づつ。他は女の子。これでも男女比はちかいほうだ。
「んじゃ、僕は入れ替えの準備しに行ってくるから、あとよろしくね、ハルカ」
「いってらしゃい、カエデ」
ハルカ、砂川遥はトランペットパートのパートリーダーだ。僕の本性を知ってる人間の1人で、絶大な信頼を置いている。おとなしいが、頼りになる姉さん気質のやつで、部員からの信頼も厚い。丸投げしてもノープログレムだ。いつも申し訳ないな。
そんなことを考えながら、各パートに次どこに行くかを指示してると
「先輩…」
後ろから袖を掴まれた。振り替えると女の子だった。上履きからして一年生。見覚えある。仮入部にきてる子だ。ひとりできて、僕が話し始めてから話し終わるまでずっと僕の目をみてた子だ。
吸い込まれるようなやさしいクリっとした目。ちいさいが整った鼻、瑞々しい唇。目鼻立ちのいい、綺麗な整った顔だ。透明感のある白い肌。頬はうっすら赤く染まっている。背は僕の胸ぐらいだろうか?肩ぐらいの長さのすこし茶色がかった艶のある髪を後ろで束ねてる。
うん、かわいい。世に言う小動物系と言うやつだろうか。守りたくなる系というか、ギュっとしたくなるというか、の子だ。同級生にはいないな。
だが、そんなことを後輩に悟られるわけには行かない。何てったって「イケメンの楓先輩」だもの。
「どうしたの? 君は… 仮入部に来てる子だよね?」
彼女はコクりと頷く。
「どの楽器に行くことになってたの?」
「フルート…」細い声で答える。うん、声もかわいい。
「わかった、じゃ、一緒に行こっか。」
放っておけるわけもなく、フルートパートがいる教室までつれていく。ザ・職務放棄だ。
2-4のドアをガラっと開ける。
「おい、シン!おまえなにやってんの?1年生置いてくとかありえねーから!」
「ごめん、人数が多くてぇ…」
「あっ、そうですか」
確かに多い。5人、この子を含めて6人。羨ましい。
村田信太郎。フルートのパートリーダー。4人いるフルートのなかで唯一の3年生にして男。リーダーとは名ばかりで、ものをあまり強く言えず、いつも後輩たちに主導権を握られている。
「そしたら、よろしくね、」
部長の職務を思いだし、急いで教室をでる。
放課後、ミーティングを副部長に任せ、顧問のところに今日の活動報告をし、学校の戸締まりをする。ほぼ全ての教室をつかう我が部は鍵を持っているがために、幹部が全教室の鍵がしまってるか確認しなければいけない。
しかも居残りを防ぐため、残ってる生徒を追い出すのも吹奏楽部部長の仕事だ。
その日の帰り道。
「名前、きくの忘れた。」