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令嬢と魔境の料理

「いたぜジャック! エビルトレントだぁ!」


私達の進行方向およそ二百メイル先、そこに大木の魔物『エビルトレント』が待ち構えていました。今回の私達の目的、その前哨戦に相応しい相手と言えるでしょう。


「ドノバンはいつも通り! イザベルさんは襲いくる枝を払ってください! マーシナルさんはイザベルさんの護衛です!」


「おうよ!」


「心得た!」


「当然だ!」


遮二無二エビルトレントに接近するドノバン。しかし雨あられと魔法が襲ってきます。それは火球であり、落雷であり、氷の刃であったりします。森の中でも構わず火の魔法を使うとは、恐ろしい魔物です。

また、枝や根っこを伸ばしてドノバンを捉えようとしていますが、イザベルさんによって切り落とされていきます。


そしてついに、ドノバンがエビルトレントの目の前まで到着しました。素手で幹を殴りつけるドノバン。当然ながら全くダメージなど与えることはできません。


「おいジャック! ドノバンは何をしている! あれでは拳が……」


「ふふふ、イザベルさん。心配はご無用です。あれは攻撃が半分ですが、もう半分は調査なのです。さて、そろそろ私の出番です。イザベルさん、枝払いをしっかりと頼みますよ?」


「あ、ああ。分かっている……」


ゆるりと歩いてエビルトレントへと向かう私。そろそろドノバンから合図が来るはず……


「ここだぁー! やれぇジャック!」


そう言ってエビルトレントの幹、ある一点を一際強く殴るドノバン。そうですか、そこですか。


「任せなさい!」


身体強化の魔法を使い、普段の三倍の速度で走り抜けます。その勢いのまま……


『螺旋貫』


私の槍がエビルトレントの幹を貫きます。さすがに槍の長さより幹の方が太いため貫通とはいきませんが。


「いつも通りすげぇ威力だぜ。くらいたかぁねぇもんだ。」


「あなたのアシストがあってこそです。別に私なしで倒してくれてもいいんですよ?」


「へっ、出来なくはねぇがよぉ。ちっと疲れるからよ。これからもトドメは任せるぜ相棒。」


「ええ。任せてください相棒。」


ドノバンはただ殴っていただけではありません。殴りながら魔力を流すことで魔物にとって心臓とも言える『魔石』の位置を探していたのです。そもそもこの過酷な魔境にあって、なぜドノバンは素手で戦えるのか。そこには彼にしか使えない技術があるからです。強固な鎧を纏おうとも、ドノバンの前には用を為さない技術が。


「見事だ、ジャック。あそこが魔石の位置か?」


「ええ、ドノバンが見つけてくれました。


「あんな僅かな一点を槍の一撃で……もしや破極流か?」


おや、マーシナルさんはお目が高いようで。


「だいたいそのような感じです。私に槍を教えて下さった方が破極流の使い手でした。」


もっとも技を二、三度見せてもらっただけですがね。あの人は今ごろどこにいるのでしょうか。


「おらぁ、お喋りしてねーで手伝えや! こいつはゼッテー回収するからよぉ!」


エビルトレントは素材の宝庫です。根から葉まで全て持ち帰ります。魔石が取れないのは残念ですが。


非常に硬いエビルトレントですが、動かなければ解体は楽なものです。ゆっくりと時間をかけてでも切断すればいいのですから。


「本日はここで野営とします。皆さんはそのまま解体を続けてくださいね。私は周囲の様子を確認してきますので。」


ここがエビルトレントの縄張りだったことから少なくとも三日はここに近寄る魔物はいないでしょう。しかし油断はできません。周囲をしっかりと警戒しておかねば。





どうやら問題なさそうです。今夜も安眠できると良いのですが。


「おー、イザベルよぉ。オメー料理の腕前はどうなんだ?」


ドノバン、それは愚問です。


「貴様! イザベル様に飯炊き女をさせるつもりか!」


「あ? 料理が上手ぇーか下手か聞いてんだけだろぉ?」


「ふむ。言われてみれば食事はずっとジャックが用意してくれていたな。いいだろう。たまには私がやってやろうではないか。」


「期待してますよ。イザベルさん。」


彼女は上級貴族。ならば料理の腕前は当然……





「待たせたな。食べてくれ。」


二、三日前に仕止めたオークの肉ですか。ただ焼くだけでなく、部位によって調理法を変えているようですね。このような魔境でよくここまで凝った料理を作れるものです。食欲をそそる香りが堪りませんね。


「いただきます。まずはこれから……」


これはオークのハツ、心臓ですか。ほほぉ、鮮度抜群ですね。マーシナルさんの魔力庫はやはり素晴らしい性能なようで。新鮮なハツに芳しい調味料で食欲を増進させてくれます。


それから、好き嫌いが分かれるレバーですか。私は好きですが……旨い。火の入れ具合が絶妙です。生に近い風味と食感、それに香ばしい焼きが入って……絶品です。


三品目は、豪快なヒレのステーキですね。敢えて味付けは岩塩のみ、オーク肉の旨味を存分に味わえと言うわけですね。


「うめー! やるじゃねーかよ! 貴族のくせに料理できるたぁよ!」


ドノバンが無知なことは、この際置いておきましょう。逆なのです。上級貴族だからこそ、料理が上手なのです。俗に言う『貴族の嗜み』と言うやつです。


「どうだ。見直したか。ドノバンも平民のくせに舌が肥えてるではないか。ジャックのせいだな。とても平民とは思えぬ味付けをしているからな。」


「ただの私の好みで味付けをしただけですよ。これからもイザベルさんの料理、期待していいですね?」


「ああ。任せてもらおう。マーシナルも私の料理が食べられて嬉しいだろう?」


「え、ええ。ありがたいことです。」




昨夜は雷の匂いが充満してましたが、今夜は肉の匂いですか。イザベルさんとマーシナルさんの間にはどんな匂いがすることでしょうね。きな臭くならなければよいのですが。

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