エピローグ
はて、おかしいですね?
もうとっくに雨は止んでいるのに。雷が止みません。
うるさいぐらいに落ち続けています。校庭の方でしょうか?
「キャハハー、らくらーい!」
「キアラまじウケる!」
「いや、臭ぇよ!」
「いや、うるせぇし!」
なんと……
わずか七歳の女の子が……
あの時のイアレーヌさんの極大上級魔法『轟く雷鳴』をも上回る下級魔法『落雷』を撃っています。それもイアレーヌさんと違って溜めもなく、連続して……
「あーっ校長せんせーだー!」
「チィーっす!」
「いや、こんにちはだろ!」
「いや、さよーならだし!」
「こんにちは。今のはマーティンさんの『落雷』ですか?」
「はーい! そうです!」
「すごい威力でしたね。いつ覚えたのですか?」
「さっきでーす! シビルちゃんが空から落ちてくるアレを見て落雷って言ったからー! アレは神様の小言だって言ったから使ってみたくなりましたー!」
見様見真似で……
「そうなのですか? ミシャロンさん?」
「そーっす。キアラのやつ魔法を使いたいお年頃なんっすよねー。」
貴女も同じ七歳ですけどね。
「ではマーティンさん。最後の一回にしましょうか。騒音で周りから苦情が来てしまいますからね。」
「はーい! ごめんなさーい! じゃあ最後ー、らくらーい!」
校庭には大穴が開き、土が燃えるとでも表現すれば良いのか、焦げ臭いでは済まない異臭が漂っています。
「君達四人はこの大穴を直してから帰りなさいね。」
「はーい!」
「チーッす!」
「いや、キアラがやれよ!」
「いや、シビルもだろ!」
キアラ・ド・マーティンさん。
平民上がりの下級騎士、マーティン卿と結婚しイザベル・ド・マーティンとなったあの、本物のイザベルさんの二女です。
また『二女』ですか。
イザベルさんがおっしゃるには、魔力では、すでにご自身をも超えられているとか……
もう私のような年寄りが昔語りをする時代ではないのでしょう。
ドノバンは「死ぬまで青春だ」なんて言ってましたが……
「校長せんせーさよーならー!」
「チーッす! 終わったっすー!」
「いや、やったのはキアラだろ!」
「いや、シビルは見てただけだし!」
はは、土の魔法であっさりと修復終了。やはり私はもう引退ですかね。
「はい、さようなら。気を付けてお帰りなさい。」
「ねーねー、校長せんせー! 今度ベヒーモスの話を聞かせてー!」
「ウチも聞きたいっすー!」
「いや、キアラため口ぃー!」
「いや、俺も聞きたいし!」
なぜ……この子達がベヒーモスのことを?
あ、そうですか。マーティンさんのお兄さんから聞いたのですね。
「ええ、今度の社会科見学の時にでも、歩きながら話してあげますね。」
ふふ、我ながら単純なものですね。楽しくなってきました。
後から知ったのですが、あの時のベヒーモス、あれで幼生だったとは……魔境とは、恐ろしい所です。
あの子達が修復した校庭から新鮮な土の匂いが漂っています。夏の風、来年からはこの香りを思い出すのでしょうか。
死ぬまで青春、そして今は朱夏……ですか。




