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異世界金融外伝 〜若き日の校長と謎の令嬢 朱夏の香りは青春の残り火〜  作者: 暮伊豆


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令嬢の正体

一週間後、私達は無事に船に乗り込むことができました。全滅したパーティー、メンバーが欠けたパーティーもある中、山岳地帯まで行ったのは私達だけ。全員揃っているのも私達だけです。ボルテックスさん達『ママラガン』ですら一人亡くなったそうです。おいたわしいことです。


殿下には成果を報告し、買取などの相談はサヌミチアニに着いてからとなりました。また、殿下からこのまま王都まで来ないかとも誘われました。悪くない話ですが、まだ保留にさせてもらってます。


船は南へと進路をとっています。海の匂い、山の香り、強者の薫り。今回の旅は様々な臭いを堪能する結果となりました。こんなにも心踊るものだったとは……


「おうジャック、イザベルが例の話しをしてえってよ。」


「ええ、行きます。」


さて、一体どのような秘密があるのでしょうね。




「さて、どこから話したものか……まず私の本名だが、イアレーヌ・ド・ゼマティスと言う。もちろん王都の出身だ。」


「これは驚きました。ゼマティス家ですか。」


「知ってんのかよ?」


「ええ、と言いましても一般常識程度ですがね。ゼマティス家は王家の魔法指南役の家系です。故に『魔道貴族』とも呼ばれております。爵位は低いですが、畏怖されている貴族ですね。」


「そうだ。そのゼマティス家だ。私は現在の当主の長女、マーシナルは我が家の護衛隊隊長の二男だ。」


「マーシナル・ガルドリアンだ。」


マーシナルさんに関しては予想通りですね。とても護衛が必要とは思えませんが。


「私が勝ちたいと言った相手だが……妹だ……私より十二歳も下のな……」


「そんな、まさか……」


「悔しいが妹は天才だ……あのベヒーモスもあいつなら一人でどうにでもできるかも知れない……その妹の名が、イザベルなんだ……」


「おいおい、冗談言うなよ? オメーの十二も下ってまだガキじゃねーか? それでオメーより強ぇーってか?」


「ああ、まだ十三歳だ。なのに……すでに王都であいつに勝てる奴は、いない……」


「二女イザベル様は天才だ。あらゆる魔法をお使いになられるし、魔力が切れたのを見たこともない。すでに当主たるゼマティス卿をも超えておられる。」


なんと……まさかそのようなことが……

しかし、これで納得しました。あの時の彼女の言葉『私より強く、私より気高く、私より美しい女がいたら! そいつに乗り換えるのか!? おまけに私より十二歳若いぞ?』

あれは妹さん、本物のイザベルさんのことだったのですね。


「私も魔道貴族たるゼマティス家の一員。いかなる相手だろうと負けは許されない。負けるぐらいなら逃げろと教えられている。もしも人前で敗れる姿を晒そうものなら……父上直々に命を絶たれてもおかしくない……」


「けっ! ひでー親だぜ! 俺に任しとけや!」


「そして私は……妹に負けた……あっさりと……」


イザ、いやイアレーヌさんが……なんてことでしょう。


「妹は負けた私に何の感情も抱かなかったのだろう。父上に告げることもなかったし、目撃したのもマーシナルを含むほんの数人だ。しかし私は怖くなったのだ! 自ら挑んだ戦いであっさり敗れる! 十二も歳下の妹にだ! こんな恥さらしがあるか!」


「イアレーヌ様……」


「私は父上から制裁を受けることも怖かったが、何より底知れぬ妹が怖くなったのだ! そして恥も外聞もなくゼマティス家から、王都から飛び出した……かくなる上は強くなるしかない。イザベルを超える強者を、恐怖を、この身に刻み込むしかなかったのだ!」


「俺はそんなイアレーヌ様を放っておけず、同じく飛び出したというわけだ。」


「へぇ、面白そうじゃねぇか! おうジャック! このまま王都に行くぜ! 王太子に誘われてんだろ!」


「そうですね……クタナツでゆっくり体を治してからかと思いましたが、それもいいですね。」


私もドノバンも、負けて見えるものもあるでしょう。それに王都ならば槍の流派、破極流の本部道場もあることですし。修行にはちょうど良いかも知れませんね。


「だから私はクタナツに来たのだ。そして超克すべき名前としてイザベルを名乗ったのだ。イザベルのように強くありたいという願いもあったがな。」


「それで、イアレーヌさんはどうなさるのですか? 王都に帰ってしまわれるので?」


「ああ、帰る。今さらいくら恥を上塗りしようが構うものか。イザベルとの差が縮まったか、それとも広がったか……確かめてくれる!」


「オメーが負けたら俺がやってやんぜ! 俺がテメーの妹に勝ったら嫁になれよ?」


ドノバンらしいですね。


「ふっ、ならば私が勝てばお前は私の従者になってもらうぞ?」


「へっ! オメーが勝つんならそれでもいいぜ!」


「フフフ、お前はバカな奴だな。」


「へへへ、オメーほどじゃねーさ!」


二人はどちらからともなく、笑い出してしまいました。それがあまりにも楽しそうだったものですから、私もマーシナルさんも釣られて笑い出してしまいました。




「魔物だー! キラーホエールの群れだ! 近寄らせるな!」


やれやれ楽しい時間というものは続かないものですね。持ち場に着くとしましょう。


『全員聞けぇ! 我が名はイアレーヌ・ド・ゼマティス! 魔道貴族の誇りにかけてあの魔物どもを一撃で殲滅してみせる! 見ておれ!』


『拡声』の魔法を使ってまでの決意表明ですか。

理解できずにポカンとする冒険者達とは対照的に、ゼマティスの名に反応した近衛騎士達と宮廷魔導士達。特に宮廷魔導士の方々にとってゼマティスの名は避けて通れないのでしょうね。ギラギラした目でイアレーヌさんを観察しています。さすがに殿下だけは表情に変化がありませんね。




『轟く雷鳴』




海を割るような轟音、どこまでも高く昇る水飛沫。


数分後、水面に残されたのは力なく腹を見せて漂うだけのキラーホエールの群れ、そして波の音。

潮風と混ざり合って異臭を放つ、雷の残り香がやけに印象的でした。







あれから三十年近く経ったというのに私は毎年のように思い出してしまいます。

暑い夏、そして雷が落ちる度に。

己を曲げずに駆け抜けた、凛々しい彼女の横顔を。

次で完結です!

思いのほか、長くなってしまいました。


挿絵(By みてみん)

イアレーヌ・ド・ゼマティス©︎秋の桜子氏

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