水色の空
そよ風が吹き辺り一面の草花がザワザワと騒ぐ。
太陽の日差しを浴び僕は横になっている。
誰かを待っているわけでもなくただこうしていたいからしているのだ。
目を閉じ耳をすませる。
ザワザワと聞こえる音は遠くなったり近くなったりと臨機応変だ。
「ねぇー僕。この世界から出たいと思わないの?」
黄色の髪をなびかせながら少女が僕に問う。
この世界から出ることさえ考えたことはなかった。
ここよりいい所なんてあるのだろうか?
ずっとこうしていれば僕は幸せなんだ。
「向き合うのが怖いんだ」
意地悪そうにいう少女はニヤニヤしながら僕の横に座る。
向き合う?なにに?僕は何かしなくてはならないのか?
「みんな待ってるよ。君の帰りを」
僕の帰りを待っている?誰が僕を待っているというのだ。
僕を知っている人なんてこの世に居るはずがない。
「忘れてるのね。」
僕は何かを忘れているのか?知らない。何も知らない。
僕は何も覚えていない。
「大丈夫。君のそばには私が居てあげるから」
どうして?僕のそばにいるの?こんな僕のそばなんかに。
「1人は寂しいもの。1人で出来ないことなら2人ならできる。君はもう1人じゃないから。」
君は一体…誰なんだ!??
「私の名前は………飯田千遥」
飯田千遥?初めて聞く名前だ。いや忘れただけで出会ったことがあるのかもしれない。綺麗な黄色い髪に釘付にされてしまう。
「あなた自分の名前分かる?」
名前?そんなの簡単さ。僕の名前は……あれ。なんだっけ?
なぜだ、なぜ思い出せない。僕の名前は…。
考えても答えがわからない。頭の中がまるで空白のようだ。
「自分の名前まで忘れたの?あはは」
笑う彼女をみて何も言えない自分。
忘れているのは事実だ。だけどなぜ自分の名前を忘れているのだろう。
「貴方自身が全て忘れようと望んだからよ」
彼女は真面目に答えた。
僕が望んだこと?なぜ、なんのために?
「貴方が生きていた世界は敵だらけ。そこから逃げたくて貴方は全てを忘れることを強く望んだ。だから私が…消してあげたの」
君が…僕の記憶を消した??
僕が望んだ?全くわからない。
ただ一つ分かることはこの現状で頼れる存在は僕の記憶を消した張本人しか居ないということだ。
「君に新しい名前を付けてあげるね」
そう言い出すとうーんと悩みハッと閃いて彼女は僕をみて微笑んだ。
「太陽一!いい名前でしょ?」
タイヨウハジメ…ちょっと変な気もするけど今日から僕の名前になりました。
飯田千遥は僕と同じくらいの身長でまだ子供のような気がする。
「この世界はね、前太陽が住んでいた世界とは似ていて違う。もう一つの人生だと思って頑張って見よう!」
手を引っ張られ立ち上がる。
風が吹きキラキラ揺れる黄色い髪。
僕はどうしてこんなにも釘付けにされるのだろうか。僕の記憶を消した張本人でもあるのになぜこんなにも警戒しないのだろうか。
「行こう。」
どこに?そう思いつつも彼女の手をしっかり握り彼女の行く先へついて行く。
「ちょっと怖いけど一瞬だからね」
ニコッと飯田千遥は笑うと緑色の草原に黒い穴が開き吸い込まれるように落ちていく。
「うわぁーーー!」
でもそれは本当に一瞬だった。
咄嗟に目をつぶっていたがぎゅっと閉じた目を開くとそこには緑色の黒板に20台ぐらいの机。どこかの教室のようだ。
「この学校に私と貴方は通うの」
意味がわからない。なぜいきなりここに連れてこられたのか。
「何も手続きとかしてないじゃないか」
「大丈夫。もうプログラムされてるから」
プログラムって…ここはそういった世界なのか?
「言ったでしょ?前いた世界とはちょっと違うって」
ここが僕の第2の人生というなら受け入れるしかないか。
「さぁ、座りなさい。他の生徒が来るわよ」
座れと言われてもどこに座ればいいかわからないじゃないか。
冷静になり1つ1つ机を見ていくと机の右端に紙が置かれておりそこに名前が書かれているのに気づいた。
タイヨウハジメ
「あった僕の席だ!!」
自分の席がありなぜか無性に嬉しさがこみ上げてきた。
椅子に座り何も書かれていない黒板をみる。
どこかしら懐かしく感じる。
「良かったね。席があって」
後ろを振り向くと飯田千遥は座っていた。
机の名前を見るとたしかにイイダチハルと書かれている。
彼女はやはり僕と同じ年齢なんだろうか?
「私も貴方と同じ13歳。中学1年というプログラムされてるの。ほら、そろそろ友達が来るよ」
友達?僕にそんな存在の人がいるのか?
「おっはよーん!あれ?はるっちもはじめっちも早いね!」
ツインテールの女の子が元気に入ってきた。
「おはよー!里奈ちゃん」
普通に挨拶をする飯田千遥を2度見する。
里奈ちゃんというのはこの子の名前であろう。しかし、初めてあうはずなのに馴れ馴れしくいいのだろうか?きっとこれもプログラムされている内容に違いない。
「どうしたの?はじめっち?」
彼女の席は窓よりらしく僕達の席よりちょっと離れている。
「大丈夫だよ。」
そう、大丈夫。この言葉はなんでも通じる。
「ふーん。ねぇーねぇーはるっち今度の土曜日なんだけどさーーー。」
里奈は飯田千遥の所にいき話し始める。
この席に座り黒板を見てから僕の心はとても気持ち悪い。
緊張だろうか?ずっと心が痛い。
この場所に何かがあるのだろうか?
気がつくとゾロゾロ生徒が登校し教室はガヤガヤと騒がしくなる。
チャイムがなると男性の若い教師が入ってきた。
ネクタイがちょっと曲がっているが気にかけるのは自分だけだろうと見て見ぬふりをする。
「せんせぇー!ネクタイ曲がってますよ!」
いきなり後ろから声が聞こえビクッと驚いた。
飯田千遥が発言したのだ。
「お、おぉ!飯田ありがとうな。」
そう言いながらネクタイを整えHRが終わり先生は去っていった。
「松下先生って彼女いるのかな?」
里奈がやってきた。
「さぁーね?まだ若いしいるかもね」
聞こえてくるガールズトークを盗み聞きしながら僕は机にうつ伏せになる。
この世界で新しい人生を送れというのか。
プログラムされた世界だが僕にとって生きにくい空間だ。