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よろしくお願いします。

 ララとリーデルが向かい合う。武器は持っていない。周りでは観客として村のみんながそれを見ている。娯楽の少ない村だ。このような試合があれば皆おもしろがって見に来る。


「始めッ!」


「いくよ!」


グレゴールの開始の合図とともにララが右拳で突きを繰り出す。魔法を使うには時間が足りない。リーデルはそれを左腕で受け流し、右拳をララの横腹に突き込もうとした。


「うげっ!」


ララはその拳を左手で掴んで止め、右肘でリーデルの首をはさみ、そのまま地面に叩きつけた。


「まだだ!」


リーデルは地面に叩きつけられる瞬間に体をひねってララを投げ返した。ララは投げられはしたが空中で一回転し、リーデルの手から離れた。互いに跳び下がって距離をとる。


「成長はしたみたいね。お姉ちゃんうれしいわ!」


「お姉ちゃんこそまだ強くなってるのかよ・・・・。<砂塵>、<水弾>。」


「<風砂刃>」


 リーデルが細かい土を錬成し、風を吹かせることでララの視界を奪う。リーデルは大精霊の目で温度感知ができるため、有利な状況を作れるはずだ。しかし、ララがリーデルの錬成した土を5mm程の粒に錬成し直したことで視界が遮られなくなった。さらに風で高速回転する砂粒がリーデルの放った水弾を削るように散らす。リーデルは続けて7発の水弾を放つが全て竜巻に巻き込まれてララには届かない。


「<幻霧><雲水行脚>」


リーデルは霧を発生させる。ララは白い霧に覆われたが、霧が発生するのとほぼ同時に竜巻によってかき消されてしまう。


「砂埃も霧もおなじよ。ってリーデル?」


霧が発生してから晴れるまでは一瞬だった。その一瞬でリーデルはララの視界から消えていた。


「もらったッ!」


ララの背後に現れたリーデルが太ももを狙って回し蹴りを入れる。リーデルはララの強さをよく知っている。手加減をするつもりはない。


「やらん!」


しかし、ララはその蹴りをしゃがみながら右手で横に受け流し、足を掴んで空中に放り投げる。リーデルの蹴りの威力とララの腕力があわさって、リーデルが四番バッターに打たれたホームランボールのように飛んでいく。


「あらら、過去最高記録じゃないかしら?」


投げた本人すら驚いている。リーデルはとっさに受け身をとるが勢いが強く、数十回転したあとようやく止まった。受け身は成功したが、かなり転がされてしまった。


『何やっているんですか?人間ボーリング?』


『ララと組み手しているんだよ!』


丁度リーデルが転がされているところに精霊が帰ってきた。


「そこまで。」


グレゴールが試合を止める。観客からは拍手が送られている。ララに賭けた者が多すぎて賭けは流れたので少し盛り上がりに欠けている。


「どうだったララ?」


「17歳のわたしよりは強いわ。魔法の詠唱から発動までの時間差もないし、体術も及第点ね。村の外なら最強とまでは行かなくてもかなり上位のはずよ。さすがわたしの弟ね!」


グレゴールがうなずいてリーデルの肩に手を置いて言う。


「ああ、安心して外で人間生活を学ばせられるな。リーデル、頑張れよ!」


「説明求む!」


リーゼがリーデルの方を向き、説明を始める。リーデルには試合に気負いができないように何も知らされていない。


「あなたもララと同じように外へ行って、広い世界を知っておいた方が良いと思うの。もしかしたら、あなたにとってこの森よりも外の方が住みやすいかもしれないし。この森で暮らすにしても外の社会のことを知らないと困ることも起こり得るわ。」


「まあ、確かに。前から考えてはいたし、わかった。行ってくる。」


リーデルは精霊と村の大人たちから外の話は聞いているが、実際に見ないとわからないことも多いはずだ。今のところは目立った動きのない人間や魔族の国もいつ動き出すかわからない。すぐにでも情報収集をはじめたほうが良いだろう。


『魔族の方はもう動いてますよ。』


『え?』


『さっき見てきたら集団で行動している魔族がいました。まあ、まだまだ入り口で右往左往していますが。魔族も種族間の関係も安定していませんし、今のうちに人間側を処理するのが良いと思います。』


『ついに俺の動くときが・・・・。楽しみのような、恐いような。』


しばらく異世界転移させられた理由を忘れて生活してきたが、これからは余裕がなくなっていくだろう。


「テリア、わたしも外へ旅立たせるには良い頃と考えています。」


カニスがテリアに言う。いつも優しそうに微笑んでいるカニスだが、今は真剣な表情になっている。寂しさや不安があるのだろう。


「以前から言っていたように、長命なためエルフは時代の変わり目に遭遇しやすいのです。森の中だけにいては外の変化に置いて行かれるかもしれません。テリアもリーデル君と一緒に旅立ちなさい。」


「はい!心の準備はできています!」


テリアはリーデルと違い、この試合でリーデルの成長が認められれば森の外へ旅立つことを聞いていた。

ウルカの一族である魔族たちもウルカに別れの言葉を述べている。


「ウルカ様、どうかお気を付けて。」


「危険を感じたらすぐにお戻りくだされ。」


「人間に正体がばれないようにしてくだされよ。絶対に。」


「むやみに名乗らないでくださいよ?いろいろご自重してください。」


「ウルカ様必ず帰ってきてくださいね!」


老若男女問わず、かなり心配されている。両親のいないウルカは一族の皆に育てられた。ただいずれ族長になるものへの感情だけではないだろう。


「ウム。待っていろ。お前たちの族長にふさわしくなって帰ってくる!そのときこそ我らがピュルトン族再興の時だ。」


「はっ!お待ちしております。」


次の日の朝、リーデル一行は村を出た。










「と、まあ村を出たわけだが、ウルカは何しに人間の国へ行くんだ?」


「知的生物は国という仕組みを作って久しいが、魔族が国を築いたのは最近だ。まだまだ数の多い集団でしかない。我が魔王となり、国を作ったときに備えて人間の国の仕組みを学びたいのだ。」


「留学みたいなものか。」


「りゅうがく?たぶんそうだ。それに魔界へ行くのはまだ早い。今行っても殺される。」


 ウルカは楽観的ではあるが、今の実力で魔界へ突撃するほどバカではない。そもそもウルカはこの森へ、一族とともに逃げてきたわけだが、そのときは魔獣に襲われて全滅しそうになっている。どういうわけかその魔獣が急に死んでしまったため助かり、その後彷徨っているところをグレゴール、バアトル、カニスの三人に保護された。自分の力が足りていないのは痛いほどわかっている。


「それで、テリアは外の社会状況を知るためであったか?」


ウルカがテリアの方を向く。


「はい。もし優れた技術が開発されていたり、新物質が発見されたりしているなら学びたいです。」


『みんなしっかりした目的が有るのかあ。俺どうしよ。』


『わかりません。精霊なので。』


『あのなあ高校生にも、』


『16+14=30歳。』


『足すなって言ってんだろ!』


リーデルが就活の時期に困っている学生のような雰囲気を出している。人間の社会常識を学ぶという目的は良いとしても、真の目的である戦争を止める方法など知らない。リーデルは人間の国へ行っても何をして良いのかわからなかった。


『とりあえず常識を学ぶことは重要でしょう。それから考えれば良いのではないですか?頑張ってください!』


自分の命運がかかっているのだが相変わらず計画性がない。リーデルはこんなのに呼ばれたのかと頭を抱えたくなった。


『わたしはここまでしか見送りできませんが、貴方の行動は常に見ています。まじめにやってくださいよ?』


『はいはい。・・・・ちょっと待て、ON、OFできるようにしてくれ。』


『あのう、理由はなんとなくわかりますが言ってみてください。』


『あのートイレとか?』


『彼女ができたときのことを気にしているんですよね?』


精霊はリーデルの言う理由を無視して迷わず本当の理由を言い当てる。精霊と始めてあった頃と違い、今なら考えていることがダダ漏れになってしまうことは無くなったが、今度は付き合いが長くなってお互いの思考が読めるようになってしまった。体が年頃になりつつあるリーデルにとって厄介きわまりない。


『はい。』


『できたことないのに。』


『はい。それは関係ないだろ!』


『わかりました。問題なければOFFにします。じゃ、よろしくお願いしますね。』


『ああ。』


(しばらく会えないと思うとさび、精霊!?もういない!)


精霊はあっさりとリーデルの側を離れてしまった。


(・・・・別に、別に寂しいなんて思ってないし。)


一行は進む。




 とうとう話すことが無くなり、しりとりを始めてしばらくすると一軒の家を見つけた。そこはかとなく怪しさが漂っているがまだ森は続く。日が暮れ始めていたためこの家で一晩過ごそうという話になった。


「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」


リーデルがドアをノックすると返事があった。


「はいはい。どなたかのう?」


出てきたのは白髪のおばあさんだった。女子中高生が食パンを咥えて走る道角のように曲がった腰のせいで、リーデルと目が合わない。無理矢理顔を上げようとして首がぷるぷる震えている。


「そんなにがんばって目を合わせようとしなくてもいいですよ。血圧高くなって倒れられても困るんで。」


「そうかい。ご用は何ね?」


「一晩泊めていただけませんか?食事はもちろん自分で用意しますのでどうか。」


「いいよ。泊まっていきね。」


意外と簡単にうなずいてもらえた。リーデルたちはおばあさんの後ろについて家の中へ入る。外から見ると木で作られた壁に穴や隙間があり、粗末で古びた家だったが、入ってみるとやはりぼろかった。


「これも食っていいで。」


おばあさんは3人に鶏肉と野菜のスープを作ってくれた。

 

 夕食を食べ終えるとリーデルが熱湯の魔法を使い風呂を沸かして、順番に五右衛門風呂に入った。風呂から出た後はおばあさんと話して過ごした。


「それで実の取り合いになってテリアが俺に襲いかかってきたんですよ。」


「はー、人は見かけによらないねえ。」


「あれは!あれは実のせいでおかしくなってしまっただけです!」


「あの実はおいしいからな。テリアの気持ちもわかる。」


「ウルカさんまで!」


「え、ウルカもあの実食べたのか?」


「うまかった。」


「ウルカは胃が丈夫なんだねえ。」


バアトルたちも実を食べたときに精神が操作されていなかったので、耐性は獲得できるようだ。

 久しぶりに他人と話したというおばあさんは嬉しそうに笑ってくれた。夜も深くなった頃、おばあさんと3人は別の部屋で布団に入った。




 3人の話し声が聞こえなくなってからしばらくすると、おばあさんがムクリと上体を起こした。



また来週投稿します。

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