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ダーリンはサイクロプス

「ただいま!」


「おかえりなさいララ。」


「体調崩してないか?」


「久しぶりお姉ちゃん。」


リーゼとララが抱き合って再会を喜ぶ。グレゴールも精悍な顔に似合わず目尻に涙を浮かべて喜んでいる。ララが村を出て7年が経っている。もうララに幼さはなかった。リーデルも気恥ずかしさを感じながら出迎えた。精霊は森の中を散策してている。リーデルが成長し、死にかけることが減ったため、精霊はリーデルから離れる事が多くなっていた。


「今日は結婚の報告に来たわ!」


「まじで!?」


グレゴールの涙が悲しみの涙に変わった。リーデルも覚悟はしていたがショックを隠せない。


「あらあら。どんな人なのかしら?」


「入ってきて。」


「はじめまして。モリブ・ビーンズと申します。」


 グレゴールの涙が止まって、かわりに目が見開かれた。リーデルは現実味がなくなり、かえって冷静になった。入ってきた男はグレゴールより大きい。2mはあるだろう。筋肉に覆われていて、古代ギリシャで見られるすねの辺りまで隠れるキトンを着ている。右手には刃に皮の袋をかぶせた薙刀を持っているが当然使用する際とは違って逆手だ。おそらくサイクロプスの作法なのだろう。


「サイクロプスって魔族じゃなかったかしら?」


 魔族と生物の外見が似ていても内部は全く異なる。収斂進化というやつだ。よって魔族と生物で子供ができることはない。一部例外を除く。もちろん生物どうしでも子供のできるできないは種類の組み合わせによる。異性としてお互いを見られる種族同士ならばだいたい子供ができるといわれている。


「ぎりぎり亜人ですよお義母さん。」


このサイクロプス、なかなかしたたかである。


「亜人なら子供できるし、心配しなくて大丈夫よ!」


「絶対にララを幸せにします。どうか認めて下さいお義父さん!お義母さん!リーデル君!」


「ま、まま、まあこんなところでは落ち着いて話せないだろう。おおお奥に来たまえ。」


「ありがとうございます。」


居間に誘導するがグレゴールは相変わらず緊張しっぱなしだ。反対にモリブは胸を張って堂々と歩む。一切軸がぶれない。美しささえ感じる。


「た、タイム!少し待っていてください。」


リーデルがグレゴールとリーゼを引っ張って別の部屋に連れて行く。父、母、息子の家族会議が始まった。


「親父どう思う?」


「正直予想外すぎて戸惑っている。」


「母さんは?」


「驚いてしまったけれど、あの子が選んだ人ですもの。しっかり見きわめてあげるつもりだわ!」


二人とも何も聞かずに反対と言うつもりはなさそうだ。リーデルも複雑ではあるがララには幸せになってほしいのは二人と一緒だ。だからこそ厳正に審査する必要があると決意を固める。


「ところで二人はお姉ちゃんに、その、いい相手の選び方とかって教えたの?」


「俺は俺以上の強さと誠実さのあるやつを選べと言った。」


「私はララを大切にしてくれる優しい人なのが大前提だわ。それと仕事にできるような能力のある男性にしなさいと言ったわ。」


「わかった。ひとまずその観点でそれぞれ評価してみよう。」


3人は居間に戻った。

 まず強さだが、見た限りあのサイクロプス、モリブは強い。単純な肉体の強さならばグレゴールにも匹敵するだろう。


「モリブ・ビーンズさん、ご職業は何をなさっておいでかな?」


 質問しておきながらグレゴールはモリブの答えを想定していた。サイクロプスは見た目の恐ろしさからは想像しにくいが種族全員が優秀な鍛冶師でもある。ただし、サイクロプスは多種族に自分の打った武器を渡さないためあまり知られていない。刀剣や槍の刃の切れ味ではドワーフに負けるが、サイクロプスにはドワーフも扱えない数種類の金属を加工できる技術がある。


「ヨーコです。人間で言うと王子です。」


「王、子?」


「ですが国より村の方がしっくりくる人数しかいませんよ。」


思わず誰かの驚きが口からこぼれてしまった。グレゴールかリーデルだろう。


「王子なら人間との結婚なんて認めてもらえないんじゃないですか?」


「いえ。全員黙らせました。ララさんが。」


「うちの姉がすみません。」


リーデルの頭の中でララがサイクロプスを投げ飛ばす姿が浮かんでくる。ララと組手をしていたころが懐かしい。一度も勝てなかったので早く忘れたくもあるが。


「いえ、おおよそ慣例通りのやり方でしたから問題はないです。僕の父が、我との決闘で勝ったならばその結婚認めてやろう、と僕に言ったのですがララさんは自分が言われていると勘違いしてしまったのです。父を思い通りに投げて転がすララさんにみんな目が点になっていましたよ。それ以降誰も文句を言わなくなりました。」


人間から見れば恐ろしいサイクロプスだが、サイクロプスから見れば人間が異形だ。しかしサイクロプスは人間と比べて強さにあこがれる傾向が強く、自分よりも強い者には純粋な敬意をしめす。当然恐怖の対象にもなっているだろうが。


「サイクロプスに武術の概念がなくて良かったわ。筋力は相手にならないもの。」


「武術というものはいったいどなたが考案なされたのですか?お義父さんですか」


「俺じゃないぞ。そしてまだお義父さんじゃない。起源は俺も知らないが数百年前、大国はまだなかった時代にすでにあったらしい。どれだけ武術がすごくても使いこなすには時間がかかるがな。俺も真髄にはほど遠いよ。」


「なるほど。人間の強さの秘訣ですね。」


「まあな。本物に会いたければゼンメル山脈に行くんだな。」


「我々にはあの寒さは堪えますね。」


「確かゼンメル山脈のアウフラウフ大森林と反対の端に住んでいるんだったよな。」


「はい。あちらは火山地帯になっています。魔力は火属性を持ちやすいので猛暑ですよ。」


共通の話題でグレゴールの心が少し開かれた。


「ところで、王子でなくなってしまったら貴方はどう生きるおつもりでしょうか?」


「王である父と故郷の皆も認めてもらえましたので王子でなくなりは・・・」


「王子とは王の子であるというそれだけの意味です。水泡のごとく突然消えることもあります。そのときに貴方自身に何ができるのか知りたいのです。」


リーゼが言ったことは王子に直接言って良いことではないだろう。これが人間の王子であれば間違いなく無礼打ちされてしまうよう危険な発言だ。サイクロプスの王子モリブでもその辺りの感覚は変わらない。しかし、リーゼは自分が経験したかのような説得力を持っていた。モリブはそれを感じて素直に答えた。


「なるほど。わかりました。僕は鍛冶ができます。作った物はこちらです。」


モリブは持ってきた薙刀をリーゼに渡す。リーゼはハンカチを噛むことで唾が飛ばないようにし、渡された薙刀の革袋をとって刃を観る。刃の裏表をしっかり観ていたが、革袋を被せてグレゴールへ渡した。


「これは・・・・。わからないわ。グレゴール、お願いね!」


「まかせろ。」


「試し切りをしていただいても構いませんよ。」


グレゴールも自分のハンカチをかんで刃をよく観察したあと家の外へ出る。バアトルの家のドア前まで来た。

 

「バアトル!鍛錬棒貸してくれ。」


バアトルがドアを開けて出てくる。ときどきグレゴールは鍛錬棒を借りることがある。今回もトレーニングのためだろうとバアトルは何も疑問に思わずに棒を持ってきた。


「ああ。いいぞ。」


「こう突き出すように持ってくれ。」


「こうか?」


 グレゴールはバアトルの持つ鍛錬棒をめがけて薙刀で切り裂く。もう一度薙刀の刃を見てグレゴールは戦慄した。刃こぼれが一切ないのだ。


「・・・・。なるほど。とてつもないな。君の技術は。」


「お!?おほおおお!?」


並の刀剣を千本叩き斬っても刃こぼれしないのではないかと思わせる。皆の視線が薙刀へ向く中、バアトルは自分の二つに増えた鍛錬棒を見ている。


「お義父さん、次は刃こぼれするように切ってください。」


「いいのか?これほどの刃を。」


「構いません。」


「おい俺は構うんだがあ?」


バアトルが切られた棒をグレゴールに向ける。単純に鋼で作られただけの棒なので折れた後にもう一度溶かせば修復できるが、劣化してしまう。鍛錬用の棒でしかないのでそれは許容できるのだが、やはり自分の物を人に壊されるのは腹が立つ。


「後で弁償してやるってば。それよりもこの薙刀の性能に興味ないか?」


バアトルは腕を組んで少し考えたが、頭をかきながら言う。


「・・・・後で必ず弁償しろよ。」


バアトルも武器には興味を持つ側の人間だ。家から5本の鍛錬棒を持ってきた。


「<頑強化>いいぞ。」


「ぬんッ!」


グレゴールは薙刀を全力で振り落とす。先ほどと同様に棒は切れてしまった。手応えは大きくなったので薙刀の衝撃も大きいはずだ。それでも刃こぼれはない。


「逆にしねえか?薙刀を棒で横からぶん殴った方が早いだろ。」


今度はグレゴールが薙刀を構えて、バアトルが力一杯に鍛錬棒でそれを叩く。バアトルが十数発叩いてやっと薙刀の刃が欠けた。


「それで、どうなるんだ?」


「欠けた刃を見ていてください。」


全員の視線が薙刀に向く。


「治ってる!」


リーデルが目を丸くして驚く。ララがそれを見て得意げに笑う。


「この刃は蓄えた魔力で自己修復できます。規則ですので詳しくは言えませんがある植物の樹液の効果です。」









「よくわかった。いい相手を見つけたな。安心したぞ。」


「さすが私の娘ね。」


しばらく話した後、グレゴールとリーゼの二人はモリブの人柄も認めた。リーデルも複雑ではあるがララの幸せそうな顔を見てうれしくなる。


「それで、リーデルも村を出るの?」


「そういえば17歳の頃のララよりも今のリーデルの方が強いんじゃないか?」


「へえ。リーデル。組手してみる?」


過去の雪辱を果たす良い機会だ。断る理由などない。


「いいよ。」





寒い。布団から出たくない。

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