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あやしい果実

一週間に一回投稿できるようにしたいですが、難しいですね。

リーデルは失意のうちに居た。姉であるララが村を去ってしまったからだ。リーデルの横ではグレゴールも一緒に膝を抱えて座っている。リーデルの住む村は若者が少ない。亜人や魔族の中にはエルフのカニスやその妻のように若そうに見える者も居るが、実際はグレゴールよりも年上のものがほとんどだ。


『まあ、見た目が100歳の実年齢20歳と、見た目20歳の実年齢100歳なら後者のほうがいいしなあ。別に見た目若ければいいなあ。』


『人間は目から得た情報で他者を判断しますからね。貴方がそう思うのも道理です。でも、それならララが居なくなってもそこまで落ち込まなくて良かったのでは?わたしなんて他の精霊に会うの4年に一回ですよ?』


リーデルは3年前に飲み会から帰ってきた精霊がゲロを吐き散らかしながらどこかの山の精霊に文句を言っていたのを思い出した。聞き流していたので詳しく覚えていないが、下手につついてまた愚痴を延々と聞かされるのもうんざりだ。


『いやいや。そうじゃないんだよ。』


「なあ、親父。」


「ああ。これが息子の旅立ちなら単純に喜べたんだろうが・・・・、娘だとそうもいかない。心配で溜まらん。」


リーデルは隣のグレゴールに突然話題を振るが、考えていることは同じのようだ。


『なぜ会話が成立しているのでしょう?わたしと貴方の会話聞こえてませんよね?大丈夫ですよね?キェエエエエエエ!』


精霊がグレゴールの耳元で叫んでみるが特に反応はない。もっともテレパシーのような方法で会話しているので耳元で叫ぶ必要はないのだが。リーデルはだんだんと精霊を人間と同じ感覚で扱ってはいけないということを学んでいる。


『うるせえ!鼓膜に影響はないだろうがそれでも体は反応すんだよ!なんだキェエエって。薩摩の恐い人たちかよ。』


『いえ。こちらの世界の、人間か亜人かは意見の分かれるところですが、人間の種族の鳴き声ですよ。戦うときの。』


『それ気合いとかかけ声じゃないか?』


亜人というのは人間を中心としてそれに近い者の呼称であって、亜人自身は自分たちを亜人と名乗らない。たとえば人間から見ればオークは猪か豚の亜人だが、オークから見ると人間は猿の亜人だ。オークと人間では言葉が異なるため亜人という言葉は使わないがそれに相当する言葉はある。そしてオークから見ると同じ猿の亜人同士だったとして容姿、思考の違いから他の人種に亜人として扱われる人種もいる。エルフは他の種族と比べて多種族を尊重するので亜人に相当する言葉はなく、エルフを含めて”話の通じる者”という意味の言葉で呼んでいる。話の通じない者も時々いるが。


「大丈夫?」


数少ないリーデルと同じ7歳の少女がリーデルの前にしゃがみこんだ。カニスの娘のテリアだ。肩より少し長い赤茶の髪は父のカニス譲りだろう。草木に隠れやすそうな緑色の長袖の上着の袖をめくって着ている。下は膝上までのスカートに黒いレギンスを履いて露出少なめだ。リーデルの、高明の友人は、見えないからこそ見続けられる夢もある、と言っていたが、リーデルもおおむね同意だ。なにより魔獣の皮で作られたであろうブーツを少女が履いているのがまたいい。ギャップ萌えというやつだろうか。


「まあ、なんとか。」


「そうは見えないですよ。ほら、あげる。」


そう言ってテリアはリーデルに果実をわたした。蜜柑くらいの大きさで赤い。リーデルはすでにこの世界でいろいろな果物を食べているが、初めて見る果物だった。


「ありがとう。皮ごと食べられるのか?」


「バアトルさんは皮も食べてましたよ。お父さんも毒は少しだし、食べ過ぎなければ大丈夫って。そのうち耐性も付きますよ。」


「じゃあ食べられるな。」


一人暮らしを始めた若者が賞味期限の切れた食品を食べることにだんだんと抵抗がなくなっていく。そんな現象に近いものがそこにあった。しかし食べてみるとさわやかな甘みが広がり、弱めの酸味が刺激を与えて、


「うまい!すっぱめの蜜柑だな。これどこにあったの?」


「ゼンメル山脈の麓ってお父さんが言ってました。んー!本当においしいですね!」


テリアも皮ごとかじってみたがお気に召したようだ。

ゼンメル山脈はアウフラウフ大森林の北側に広がっていて人間界と魔界の境界の一つだ。強い魔力に覆われていていて、氷属性を持ちやすい。その上標高が高くくしゃみをする前に鼻水が凍る。それ故に一定の標高を超えた場所では寒さに耐性のある魔族や魔獣しかいないと言われている。植物すら生えていない。つまりアウフラウフ大森林は生物同士の生存競争の激しさという点で危険だがゼンメル山脈ではその自然環境が生物に牙を剥くのだ。

老人が住んでいるという噂もあったが、20年前人間の国家、シンソカン帝国が正式に当時の名の知られた冒険者や志願者の中から選抜し、120人の調査隊を派遣したものの遭難。生きて帰ってきたものはそのうち7人のみであった。この結果を受けて帝国は一切の調査資料を封印し、ゼンメル山脈に人間が存在するはずがないという結論を出した。しかし、この調査隊の派遣自体が不自然であり、未だに都市伝説のように様々な憶測が語られている。


「よし、そこに行こう!」


ゼンメル山脈の麓まではアウフラウフ大森林が続いており、厚着していけばリーデルでも支障なく活動できる。とはいえ、異なる魔力の境界線では異常気象が起きやすい。例えばゼンメル山脈の魔力が氷を生み出し、アウフラウフ大森林の魔力が空気を高温にすれば至る所で水蒸気爆発が起こる。

精霊が羨ましそうにリーデルを見ている。精霊は四年に1回の飲み会で出だされる料理や酒のように特殊な方法で調理されたものの他は食べられない。だから毎回飲み過ぎる。


『そんなに美味しいんですか?』


『うまいっ!もっと!もっとだ!』


『ちょっと。聞いてます?もしも~し?』


「ふふふふ。フハハハハお代わりだァッ!」


「あはははは!足りません!こんな少しじゃ足りないんですよォオオオッ!」


2人はよだれを垂らしながら雄叫びを上げるがグレゴールはまだため息をついている。2人は何かに取り憑かれた様に森の奥へ消えていった。

このときグレゴールが2人の様子の異常に気がついていればリーデルが怒られることも、グレゴールが妻に半殺しにされることもなかっただろう。


読んでくださってありがとうございます。

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