2.森の日常
わたしはララ。アウフラウフ大森林で暮らす普通の10歳の女の子!え?普通の女の子は剣も鎧も身に付けないって?
何言ってるのよ。だって素手で魔獣に勝てるわけないじゃないの。この鎧は近所のおじさんが魔獣の鱗で作ってくれたのよ。できるだけ全身を覆いつつ、動きの邪魔にならないし、通気性もいいの!それにこの明るすぎない赤色が気に入ったわ。
今日はお父さんと、隣の家のバアトルさん、お向かいのカニスさん、それと昨日の赤ちゃん(命名リーデル)も一緒に夕飯を探しに来たの!
「おーい、スライム系統の魔獣が木の上にいるから落としちまってくれ。やり方はこの前教えた通りにな。俺たちはこっちの魔獣狩っとくから。リーデルに怪我させないようにな。」
お父さんさんは魔獣に大剣を向ける。魔獣はトカゲと牛の中間のような外見で。背中の両方の側面にトゲトゲを生やして尻尾がハンマーみたいになっている。固そうな鱗で覆われていて、大きさはわたしの家くらいかな。
「わかったわお父さん。見ててねリーちゃん!」
スライムは液体のようなドロドロ?ベタベタ?した魔獣。遅いから地べたにいるなら避ければ良いだけなんだけど、ときどき木の上から落ちてくるのよね。皮膚に付くと肌が荒れたり、腫れたりするから厄介なのよ。顔について耳の中とか、鼻、目の中に入られると高熱を出したり、失明したり、死ぬこともあるのよ。
「火の魔力と水の魔力を同時使用して熱湯!」
空中に現れた魔方陣から湯気を出しながら水が噴き出して、スライムに命中した。上手くできたわね。熱湯を浴びたスライムは木から落ちてどこかへ消えた。
「やった!リーちゃん、わたし上手くやれたわ!」
「よくやった!ご褒美にこれをやろう。」
お父さんが切れた魔獣の尻尾を振り回しながら笑っている。それはあんまり要らないかな。
「ララちゃんも上手くなったじゃねえか!」
ギエァァァッ!
バアトルさんが魔獣を鋼鉄の棒を水平8の字に殴りまくりながら褒めてくれた。オーク族の人たちって皆こんなに強いのかな。
「おめでとうございます!2つの魔力の使用は高い集中力が必要ですから、できる人はあまり居ませんよ。さすがですねララさん。」
「みんなが練習を手伝ってくれたおかげだよありがとう!」
カニスさんも、魔法で地面を沼にして魔獣の足を埋め、なおかつ私たちに身体強化魔法をかけ、魔法の打ち上げ花火と爆竹でわたしをお祝いしながら褒めてくれた。
この辺りは木が大きくないから花火がよく見える。
この人何種類の魔法を同時に使えるんだろう。エルフ族はやっぱりすごいなあ。
俺、大谷高明は人間の少女ララの鎧の中へ入れられて狩に連れていかれた。背中に俺の入るスペースがあり、まるで巨大ロボットの操縦をしているような気分になって少し面白がっていると、ララが俺を狩へ連れていくと言い出した。周りの大人が止めると思っていたのだが...なぜ誰も止めようとしない?優しそうなララのお母さんでさえいってらっしゃい、と微笑んでいた。
やはりこの森の住人は変人だらけなのだろう。
森の中を進んでいくと魔獣に遭遇した。あれは魔獣というよりアンキロサウルスではないだろうか?テレビの恐竜学者ドキュメンタリーで見たアンキロサウルスの一種類に似ている。それをララ一行は一方的に仕留めていた。
『何度も言いますがこの森に普通の人が入るとすぐに死んでしまいます。まあ、この人たちはこの森の人間、亜人、魔族の中でも強い方たちですが。』
やはりこの森は俺が守る必要なんて無いのではないだろうか。そんな風に考えていると何本もの木の枝がこつこつと音を立て始めた。なにか大量に降ってきたものが枝に当たっているようだ。
まだ、魔獣だろうか。俺はスキル、精霊の目を使って周囲を探ってみる。しかし使うまでもなく状況は把握できた。
「まずい、積乱雲だ!今のうちに走って帰るぞ!」
余裕でアンキロサウルスを殴っていたバアトルが叫ぶとみんなの顔がみるみる引きつる。雹が降り始めた。しばらくすればこの辺りに落雷が発生するだろう。この人たちなら大丈夫なんじゃないか?
「わかったわ!」
5人は帰り道を急ぐ。鎧の中から精霊の目を使い続けている俺は恐怖を通り越して驚愕していた。1キロメートル後ろでは巨大な雹が森の木々を押し潰している。
『実はアウフラウフ大森林には大量の魔力が漂っているのです。故に魔力に引き付けられて来た強力な魔獣の巣窟になっているのですが、漂う魔力が何らかのきっかけで属性を持ってしまうことがあるのです。例えば水属性なら今のように積乱雲を発生させて雹、雨、雪や雷を発生させます。火属性なら猛暑や火事、土属性なら毒物、養分など様々な物質、風属性なら大嵐ですね魔力の濃度は場所によるので、災害の規模も変化しやすい属性も場所によって変わります。』
なるほど。なら、村はおそらく漂う魔力の少ない場所なのだろう。そうでなければ、今後安心して寝られなくなる。
ともかく今日の狩りを見て思ったことは体を鍛えることの必要性だ。このまま成長しても精霊から借りた魔法とスキルだけでは心もとない。というか生きていけない。これだけ強い人たちがいるのだから教われば俺も強くなれるだろう。
『そうですね。ぜひよろしくお願いします。それと貴方にわたしが魔法を渡したのは森へ人間か魔王の軍が進行してきてから、それか貴方が16歳になってからということにしましょう。それと異世界から来たことは伏せてくださいね。』
どうしてだ?
『何かあったときに異世界に頼ればいいという依存してほしくないのです。』
わかった。
『16歳になるまでは引き続き、わたしが自分の分身を飛ばして人間界と魔界の様子を観察しておきますね。』