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(更新4)

【ガンズ】


九階層から戻ってきた。俺は血抜きした四匹の鳥竜を肩に担ぎ直してダンジョンを出る。


十二階層が未だに通行止の為、実質十階層で打ち止め状態だ。十一階層は実験場なので基本的に魔物が居らず、宝箱も無い。


俺達にとって十階層はトログロダイト狩りの為の階層になっている。乱獲は避けようという事で毎回十階層には行かない。


「早いとこ十三階層に行ってみたいもんだぜ」


とザップは言うが、そこは未知の領域。今やパーティーは六人、慣れてきたからこの人数で十階層まで行けているだけで、本来ならもう少し数が欲しいらしいのだが。


「ザップ殿、募集をしている現状ではかえって通行止で丁度良いではないですか」


「ドラスさんの言う通り、今は我慢しましょう」


「って言うがな、今のうちに人を入れて九階層辺りに慣れさせておきたいね、俺としては」


そうすれば通行止が解除された時点ですぐに動けるというのがザップの意見だ。


「…他のパーティーから引き抜くのは厳しいわよ。大抵役割分担が決まっているのだし」


「そうなんだよなぁ…」


そんな風に話ながら宿屋に戻る。俺はまた鳥竜を土産に厨房に顔を出した。


「熊さん、これ土産な」


と、声を掛けながら厨房を覗くと、狐もといチャル女史が戻っている。


チャル女史は二人の侍女を従えていた。


「やぁチャルさん、お帰り…そっちの娘達は?」


「あ、ガンズさんどうも。この娘達は宿屋付きになる予定の者ですわ」


という事は、サーラは王宮に戻ったという事か。


「いえ、私とサーラと持ち回りで王宮と宿屋のお世話をさせていただきますわ」


新人の侍女は二人、リザードマンと…ヴァンパイア?


リザードマンのマイラは妃殿下の侍女ではないそうだ。


水没林から最近王都に来たのだという。この宿屋には妃殿下達がいるので王宮より居心地がいいらしい。


それに対してヴァンパイアのリリアは宿屋に廻されたのが不満らしい。


まぁ、侍女の募集で王宮勤めだと思っていたのが冒険者用の宿屋では不満にもなるか。


リリアの場合、ヴァンパイアといっても貴族ではなく平民出だ。王宮なら貴族の殿様や御曹司とお近づきに…と考えていたのかもしれないな。


「さ、二人とも仕事よ。卓を拭いて。もうじきお客さまが来ますよ」


厨房から熊さんと新人の仕事ぶりを覗く。


二人ともそつなくこなしているが、愛想のいいマイラと比べるとリリアの態度がいまいち良くない。


「あのヴァンパイアの態度はどうだろうな」


ちょっと困った様に料理長は言った。


「大丈夫さ熊さん、すぐ改まるだろう」


「ガンズさん何でそう思うね?」


俺はその理由を教えた。少し考えればすぐに気が付く話だ。


「貴族とお近づきになりたかったんだろうあの娘は。ならここに居ればそのうち陛下と御対面する」


料理長は豪快に笑った。




────────


「…平民のヴァンパイアの場合、男はおとなしいけど女は上昇志向が高いのよね」


俺達が飯の時に座る卓は厨房の出入口のすぐそばにある。


特にここと決めている訳ではないが、この宿屋を常宿にしている他の冒険者達は俺達の席と思っているらしく、大抵空いている。


ダンジョン十階層前後まで潜るパーティーは俺達だけらしく、敬意を表しての事らしい。


他によく空いている席はといえば、お忍びで陛下が来られた時に座る食堂奥の角卓。俺達の卓の隣にある。


ヴィーシャが新人のヴァンパイア侍女を眺めながら、つまらなそうに言った。


「…男の場合貴族に叙せられる機会なんて無いから。その点女は玉の輿を狙うのよね」


「はは~ん、王宮付きから外されたもんで、膨れっ面してる訳か」


ザップがニヤニヤと笑っていると、もう一人の新人マイラが料理を運んできた。


「オマチドウサマデス、ゴユックリドウゾ」


まだ共通語に慣れていない口調だが給仕仕事は悪くない。


「お、あんがとよ!…おいドラスどうだ?いい娘じゃねぇか?声掛けてみな」


「私はそんな事はしません、種族が違います…ザップ殿じゃあるまいし」


皆で腹を抱えて笑っていると。


「狐!飯を食いに来たぞ!おぉ奥、そなたも食事にせよ」


…今日だったのかお忍びの日は。


甲冑を着込んだ骸骨とゴル部隊長を伴に連れた陛下が食堂の扉を勢いよく開けて入って来る。


「陛下万歳!」


冒険者の一人がジョッキを振り上げると飯を食っていた全員がジョッキ片手に声を出す。


「陛下万歳!」


「我等が陛下に乾杯!」


「陛下!お疲れ様です!」


…まぁ冒険者達が畏まる訳もなく、思い思いに手を振ったり陛下と妃殿下に口笛を吹いたりと騒ぐなか、陛下は澄ました顔で片手を挙げて応えながらいつもの席につく。


俺達も会釈をしながらジョッキを挙げてみせた。あまり派手にやるとヴィーシャがへそを曲げる。


厨房を振り向くと料理長が俺を見てニヤニヤとしていた。


その理由は簡単。


リリアが固まっていた。


まさかこんなところで陛下が来るとは思っていなかったのだろう。


…ひょっとしてチャル女史は陛下が来るのを知っていて新人侍女を今日宿屋に連れて来たのか?


「ご、ごご御注文はイイ如何なさいます?」


呂律が回っていない。リリアの顔から冷や汗がダラダラ流れているのが見える。


「うむ、余と奥の食事を頼む。それからゴル部隊長にも。あぁ、爺には黒茶だ」


「は、ハハはいただいま!」


慌てて厨房に飛び込んでいくリリアを訝しく御覧になった陛下が俺に声掛けた。


「…おいガンズよ。あれは何だ?余が何かした訳では無いな?」


「はっ、陛下。あの者は今日が初日でございます」


「あぁ慣れてないのだな」


陛下は興味を失ったらしく妃殿下と会話を始めた。


「よ!こっちの席いいか?」


ゴルと骸骨のお偉いさんが俺達の卓に来る。


「夫婦水入らずって言うだろ?邪魔になるからな」


「…邪魔した方がいいわよ未成年者なんだから」


ヴィーシャが鼻をならしてそっぽを向く。


「まぁいいじゃねぇか。えぇと?ゴルさんだっけ?そちらの御方は…?」


ザップに髭の骸骨が頭を下げる。


「おぉ、失礼した。皆様方のお姿はこちらでよく拝見しておりましたが、名乗りをあげる機会がありませんでしたな。吾輩、グレゴリウスと申します。若、陛下の骸骨兵団を束ねております」


グレゴリウス…とは豪気な名だ。


覇王グレゴリウス。


かつて大陸の東側を一代で統一し帝国をなした王の名がグレゴリウス。


もっとも覇王の死後一代でその帝国は瓦解し現在の諸国乱立になったとか。千年程昔の話だ。


「吾輩その覇王…の頭蓋骨でありますよ」


全員間の抜けた顔でグレゴリウスを見た。ゴルだけが笑っている。


「覇王の記憶は残っておりますがな、生前の魂ではありませぬ故別人とも言え申す、今の吾輩は陛下の爺やでございますよ」


カラカラと笑う骸骨。


訊けば覇王の骨は千年の時を経て頭蓋骨を除き全て崩れていて、今はゴーレム化した甲冑に頭蓋骨を繋げているのだとか。


やはり、というか公爵様がその様に造ったらしい。


「公爵様は無茶をするな」


「お陰で後生を楽しめておりますよ」


話が途切れた時、丁度リリアが陛下の席に給仕する姿が見えた。


ガチガチ、という擬音がぴったりなくらいにあがっている。


「…大丈夫ですかね?」


エドが少し訝しげに言った。


ノラやドラスは我れ関せず、ヴィーシャやザップは何か失敗して面白い事になるのを期待している。


「お、御待たせしました。ごゆっくりどうぞ」


「うむ、御苦労。そなた今日が初日であるそうだな?あまり気負わず勤めるがよい」


「殿の言う通りです。宿屋付きは遣り甲斐のある仕事、貴女の希望とは違うでしょうが宜しくお願いしますねリリア」


「は、はい!陛下、妃殿下、頑張ります!」


これでリリアの態度もましになるだろう。


そのやり取りを見届けた俺は厨房の熊さんに笑ってみせた。




────────


翌日。エドと訓練をする約束で、裏の空き地に行くと、下働きの爺さんが若いミノタウロスに仕事を教えているのが見えた。


「爺さん、こっちにも新人さんかい?」


「やぁガンズさん、やっと儂も隠居が出来るよ」


「どうも…」


ミノタウロスは口数少なく会釈する。


「儂の後釜のミルズさんじゃ。こちらはガンズさん、常宿にしてる方だよ」


王都にミノタウロスは珍しい。


「出稼ぎか?よろしくな」


「ガンズさん、遅くなってすみません」


エドが来たのでその場を離れ、二人で訓練を始める。


普段は目立つ言動を控えているエドだが、ダンジョンでの実戦では前衛として盾役もこなせば攻撃的な剣も使う。切り替えが上手い。


流石に冒険者を三年以上も続けているだけの事はある。


エドは回復魔法だけでなく攻撃魔法もいけるらしいのだが、元の世界の流儀な為にこちらでは使った事が無い。


「ダンジョンの中なら使えるのだろう?」


以前訊いてみたのだが、ダンジョン以外でうっかり使いそうになるので自ら自粛しているのだそうだ。


もし魔法を取り混ぜて戦えば、かなり手強い相手になるだろう。


組手を終えて汗を拭いていると、先程のミルズが薪割りの手を休めてこちらを見ていた。


興味があるのだろうか?


ミノタウロスといえば農耕種族だ。忍耐強く穏やかな気性で荒れ地を開墾する。


俺達オーガの居留地にもかなりの数が住んでいると云う。


まぁ、エド達の世界では逆に気性の荒い猛烈な戦いをする魔物らしいが…変な世界だな。


「ミルズ、興味があるのか?」


「……そうですね」


「珍しいな」


「オレ、冒険者になりたくて」


俺の驚いた顔を見て、ミルズは頭を下げた。


「すみません…忘れてください」


薪割りを始める。


「もし良ければ稽古をつけてやるぞ?なぁエド」


「えぇ、一緒にどうですか?」


ミルズは薪割りの手を止め、少し考えた後かぶりを振った。


「いえ、やはりいいです。すみません」





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