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(更新3)

【ガンズ】


ザップと二人、裏口から厨房に入る。


「おや?どうしたね?」


「ただいま。熊さんに土産だ、よかったら料理に使ってくれ」


十階層から運んできたトログロダイトを三匹、料理長へ見せた。


「お!いいのか?売り物だろ?」


「売る分は確保してるからな、これはいつも世話になってる礼さ」


狩ってきたトログロダイトの残りは今頃ドラスが東の宿屋まで運んでいるだろう。あっちにはドラゴニュートやリザードマンが結構居るそうだから、いい値で売れるはずだ。


こっちには妃殿下や御付き侍女がいるからな、売りつける訳にもいかない。


「コイツはみてくれが悪いが味の方は抜群だからな、料理のしがいがある」


「運ぶのは一苦労だかな、身体中ベトベトだ」


「喜んでもらえりゃ狩った甲斐があったってもんだ」


そんな風に三人で話し合っていると、食堂からサーラが入って来た。


「料理長、注文入りま…ギャアァ!」


丁度サーラの目の前にトログロダイトの顔があった。


悲鳴をあげてたたらを踏むサーラの足許にはトログロダイトから滴り落ちた粘液が…


「…い!痛~い!」


音を立てて盛大に尻餅をつく。


思わず三人で噴き出してしまった。


「ぁ痛たた…。な、何ですかその気持ち悪い生き物は?」


「失礼な、高級食材だぞ?」


「一匹なんと金貨二十枚にもなる代物だぜ?」


笑いながら憤慨してみせるザップの顔を凝視するサーラ。


「は?え、えぇ?金貨にじゅう…嘘でしょ?」


俺達の顔とトログロダイトを何度も見返し呆然とする。


「わ、私の給金一月に金貨三枚…」


「随分高給取りなんだな」


いや、嫌味ではない。雇われ人夫の一月の給金は金貨一枚になるかどうかだ。


冒険者としてダンジョン探索をすれば大金が手に入る。が、危険と隣り合わせ。命と天秤にかけているから手に入る訳で、真っ当な仕事ならそんなものだ。


「それをガンズさん達がタダでくれるんだ。気持ち悪いとか失礼だぞ?」


「タ、タダで?」


「仲間が五匹ばかり東に売りに行ったけどな」


熊さんやザップの言葉に、今にもサーラは目を回しそうだ。


「…はぁ、私も冒険者やろうかな」


「止めとけ、この程度で悲鳴をあげてる様じゃ無理だ。さ、解体するから手伝ってくれ」


「えぇぇ~!」


厨房を後にしようとした時、冒険者の一人が顔を出した。


「すんませ~ん、飯まだ?」


「ああぁ!忘れてた!ごめんなさ~い!」


…なんとも賑やかな娘だ。




【サウル】


《ビーストマン》


我国で最も人口数の多い種族の一つ。獣人とも呼ばれる。


外見の特徴としては狼が後脚で立ち上がった様に見える。


男性は頭部が狼的な形状であるのに対し、女性は短吻の為、猫科に近い形状となっており、男女の区別は比較的容易である。


全速で走る際には四足走行をし、尻尾でバランスを取る。


寿命は約百年、幼年期は約十五年程。


〈歴史〉


ビーストマンは、ヒューマンの自然進化後にヴァンパイアが品種改良して作出した種族である。


背景として、ヒューマンに対する護衛、また対ドラゴニュート及びヴァンパイア同士の勢力争いの為の戦力としての作出であったと伝えられている。


現在ヴァンパイアに従属してはおらず、その人権は保証されている。後述のライカン・エルフも同様である。



《ライカン》


正式名称ライカンスロープ。東側諸国には人狼と伝わる種族。


ライカンは任意に人化・獣化を行う能力を持ち、人化状態ではヒューマンに、獣化状態ではビーストマンに準じた姿に変身する。


獣化した際、ビーストマンとの判別として、尻尾を持たない事、男女共に長吻で狼様の頭部を持つ事があげられる。


寿命は約百年、幼年期は約十五年程。



〈歴史〉


ライカンはビーストマン作出の際に生まれた突然変異種を祖とする。


彼等の変身能力はヴァンパイアのヒューマン狩りにおいて猟犬的役割を担うに適していた為、重用された歴史を持つ。


ビーストマンとライカンは血縁である為、両者が婚姻を結ぶ事は珍しくない。


その際に産まれた児は母親の種族となる。



《エルフ》


我国では近年入植した種族。森林地帯を好んで住む。


外見的特徴として、ヒューマン様の姿に準じる。また肌の色、髪の色などいくつかの部族特徴を持つ。


ヒューマンとの区別は耳の上部が長く尖り、また足が手と同様に物を掴める形態になっている。その為長時間の地上移動を苦手とする。


森林地帯に適応しており、弓による狩猟を営む。我国においては多数が林業に従事している。


特に精霊魔法の素養が高いとされる。


寿命は約千年。幼年期は約二十年。


〈歴史〉


エルフ自身にもほとんど失伝している事ではあるが、エルフもまたヴァンパイアの品種改良によって作出された種族である。


ヴァンパイアの血液補充用に作出されたと記録がある。


その後、ヒューマンの爆発的増加を受け、ヴァンパイアはエルフを開放した。これはエルフを飼育するよりもヒューマンを狩猟した方が簡単だった為である。


開放されたエルフはヴァンパイアの勢力域を逃れた為、近年まで我国にはエルフが不在であった。


近年は東側諸国による弾圧を逃れ我国へ入植する者が増加する傾向にある。




────────


「ふむ…こんなものか」


一族が作出した元従属種族の説明は一纏めにした方が解りやすいだろう。




【ヴィーシャ】


「お待たせしました、カップをお選び下さい」


手頃なマグカップで血液を受け取る。


一口含んでみると以前に比べだいぶ良くなっているのが解る。


新鮮だ、と言っていい。


「良くなったものね」


「ありがとうございます、御意見を受けてあれから改善されました」


その節はありがとうございますと、よく見ればあの時私が文句を言った相手だった。私の事を覚えていたのだろう。


「…これからまたお世話になると思うわ、それじゃあ」


ごちそうさまと血液配給所を後にした。


配給所の隣に予定されている採血囚用の収容所もだいぶ出来上がってきていた。


工事の人足も、以前通った時ライカンやビーストマンだけだったのが今はドワーフやエルフの姿が目立つ。


「今は内装工の仕事がメインでして」


休憩中の働き手に訊いてみると、そんな答えが返ってきた。


「内装って必要なものかしら?要は牢屋でしょ?」


「いやぁ、採血囚の場合健康面を考えないとね。ただ飯食わせて運動無しじゃ血液が脂っぽくなるんだそうで」


「そういう御指示でして、怪我しないよう病気にならないよう、内装には手のこんだものになりますよ」


…なんだか家畜みたいね。


重罪人は死刑か採血刑か選択出来る。


死刑を選ぶ者が一定の割合でいるのも頷けるわ。採血囚は終身刑な訳だし。


「ヴィーシャ、ひさしぶりに来てくれたね」


兄様に顔を見せる。配給所に行って家に顔を出さない訳にもいかない。


「今日は一人?黒エルフの従者がいただろう?」


「えぇ、彼女の奴隷身分を開放しましたから」


「ほぅ、そうなのかい。だが従者である事に変わりはないだろう?いけないな、独り歩きは」


王都での自分の重要性を考えなければいけないよ、今や一貴族の娘ではなく国の重要人物なのだから。


…と嗜められた。


「然程の事はしておりませんわ」


「いかんな、自分では大した事をしていないつもりだろうけど、回復魔法は国家事業になっているのだから、気をつけたまえ」


帰り際に護衛を付けようとする兄様をなだめ、なんとか独りで宿屋まで戻った。


「お帰りなさい」


ノラに出されたお茶で一息つく。


兄様の話をすると申し訳なさそうにノラは頭を下げる。


「気が利かなかった。確かに兄上様の言う通りだ」


「よしてよ、私の顔が知られてる訳でも無し」


だいたい、ヴァンパイアである私に誰が何を出来るというのか?




────────


「そりゃしょうがないんじゃないか?」


チャーリーとステラの治療院で回復魔法の講義をする。


細分化回復魔法はなかなか開発が進まない、現在は光神教の神殿で発見された展開図を解析して二人に教えている。


「気の回し過ぎなのよ、私に何かある訳無いじゃない」


「いや、誘拐だの暗殺だの有ってもおかしくないぜ?」


チャーリーまでそんな事を言う。


「まぁ、西門の辺りだったら何も起こらないでしょうね。でも他に出掛ける時は誰か一緒に行く方がいいですよ」


ステラにまで心配されるとさすがに気になってくるわね…


「解ったわ、じゃあ遠出の時はノラかガンズに頼むとしましょう」


取り合えず二人にはそう言って安心させた。


「ごめん下さい!治療いいですか?」


「ぃ痛えぇ!畜生!」


「おっと患者だ」


チャーリー達の治療の腕をみる。だいぶ術式展開が早くなった、やはり実地で魔法を使っていると早く展開出来る様になるのだわ。


今度ノラを治療院で訓練させよう。うちのパーティーはめったに怪我をしないから訓練にならないわ。



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