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(更新11)

【ノラ】


主人の借りた馬車を返しにフェレグラン邸に着いた。


「…いいことノラ、返したらすぐ引き上げるわよ?」


主人は何やら渋い顔をしている。


馬車を厩舎へ預け、主人が屋敷の扉を叩く。一応返した事を連絡しておかないといけない。


扉が開いて中から執事が…


…違った。執事ではなく厳つい顔の男性だ、ヴァンパイアの歳は見て判らないがそれなりに年輩の人。


「げっ!」


「『げっ!』とは何だ『げっ!』とは!親の顔を見て言う言葉か!」


主人の御父上だった。


「…馬車をお返しにきました、それでは」


「待たんか!その様な対応があるか、仮にも貴族の娘が!」


声が大きい人だった。


「…失礼しました。では、フェレグラン伯爵には御機嫌麗しゅう」


「何を他人行儀に事を運ぼうとしておるか!屋敷に入れ、この前の続きだ、逃げおってからに」


「…お説教ならお門違いですわ、私は勘当の身、説教される謂れはありません」


「親に向かって何をほざく!」


「親子の縁を切るから勘当と言うのです、そちらでしょう縁を切ったのは」


「あ!こら待て!」


主人は踵を返しさっさと通りへ出た。私も一礼して後を追う。


「全く…早く領地に戻ればいいのに」


「主人…御父上は勘当を解きたいのでは?」


そうでなければ『屋敷に入れ』とは言わない、出ていけと言うのではないだろうか?


「…ソリが合わないのよね、あの人とは昔から」


「何故主人は勘当などされたのか?」


主人はまた渋い顔をする。


「…チビと婚約させられそうになって断ったからよ」


チ…陛下との婚約を断った…なるほど。


「まぁね、顔に泥を塗られた様に感じたんでしょ。『勘当だ出ていけ!』『こんな家言われなくても出ていってやる』…ってね」


その時の光景が容易に想像出来る。


「ま、もう暫く勘当されておくわ。その方が研究も進むし」


主人はそう言って笑った。




【サウル】


《ドワーフ》


近年自然進化した種族の一つ。


短躯で筋肉質、山岳地帯を好んで住む。


生態として二~三子を一度に出産する。


寿命は二百年程、幼年期は二十年程。


〈備考〉


サイクロプスと共に鉱山に住み、鉱業・金属細工などを営む。


男女共に髭を生やしているとの噂があるが風聞であり女性に髭は無い。


注:近年進化したとの表現は旧い種族の歴史からみての事である。



《ノーム》


ドワーフから早い時期に分化した種族。


ドワーフよりも更に短躯。ただしドワーフの様な筋肉質ではなく、魔力が高い。


寿命は百五十年程、幼年期は二十年程。


〈備考〉


ドワーフと違い森林地帯を好んで住む。


他種族に対し非常に友好的であるが、自分達の集落に魔法で目眩ましを施し、交流を最小限にしている。



《ヒューマン》


最も近年に自然進化した種族。


高い繁殖力があり、爆発的人口増加を動力源として短期間に大陸全土を席巻している。


寿命は百年程度、幼年期は十五年程。


〈注意事項〉


ヒューマンは肉体的・魔力量・寿命と知的種族としては弱い部類に入る。


その為、他種族に対する恐怖心・猜疑心が非常に高い。




────────


この辺りの種族は数が多いが歴史が浅いからろくな資料が無くて困る。


さて、知的種族の事は書き終った。


「次は準知的種族の事を書くか、それとも我国の地理歴史がいいか…」


順番でいけば準知的種族についてか。


準知的種族、要はゴブリンだのオークだのの事だが、更に資料が無い。


この者達を調べている研究者が居ないからな、無いのも当然なのだが。


直接会って話を訊く…王都に居らんな、田舎にしか居らん。


ま、急ぐ事でもないか。




────────


急ぎの書類仕事も終わり、ぽっかりと時間が空いた。


忍びで外に出るのは忙しい時にこそ面白味があるものなのだ。為すべき事を終えた後では詰まらん。


さて…暇だな。


子猿でもからかうか?


いや、子猿は今宿屋だった。詰まらん。


執務室を出て気晴らしに王宮内を見回ってみるか、散歩代わりに。


廊下の窓は王都北側に面している。目の前に断崖絶壁、防衛上有効な峻険たる山を背に王宮は建てられ、王都は裾野に広がる形だ。


…しかし岩肌しか見えない窓というのは如何なものか?


明かり取りの役には立っているが、面白味に欠けるな。


廊下をすれ違う文官や侍女、貴族達と挨拶を交わし、中庭へ。


中庭は北山の峻険さを忘れさせる様な穏やかな眺め。季節の花がそこかしこに咲いて、芳しい薫りが鼻をくすぐる。


花とは言うもののおそらく他国から来たヒューマンの大使等が観れば、少々寂しく感じるだろう。あちらに一輪、こちらに二輪という具合。


だが知的種族のほとんどがヒューマンより鼻が効く。なのでワサワサと花が咲いていると、暴力的に匂いがきつく感じるのだ。


中庭には緩やかに曲がり枝分かれした小道がはしり、木々の枝葉で陰が差す。


訪れた者達が歓談や密会などを楽しめる様にベンチや東屋も配置されている。


余は池の畔に据えられたベンチに腰掛けると見るともなしに池に遊ぶ魚などを観ていた。


「おや?サウル、奇遇だねぇ」


余を呼び捨てにする者など一人しか居らん。


「叔父貴がこんな処に顔を出すとは珍しい。王宮に用事か?」


「やだなぁ、回復魔法の研究会だよ。君が発足したんだろ」


そうか、失念していた。


「忘れちゃ困るよ…さっき終わってね、帰るのにも早い時間だからぶらぶらしてたのさ」


「なんだ叔父貴も暇潰しか」


「まぁね、それよりどうだい?この『身体』、新品なんだよ」


「…叔父貴の身体は死体だろう?新品も何も…む?」


つい顔を歪めたが、叔父貴の『身体』は以前にも見ている。


「それは元から使っているものだろう?新品だなどと人を担ぐなら余が初見のもので…」


「ふっふ~ん、でも新品さ。新しく造ったんだから」


新しく?造った?


「まて叔父貴、意味が解らん、造った?死体を?」


「これは『培養器』ってもので造ったのさ、死体じゃない。元から生きていないからね」


「…けったいな」


つまりどうやってかは知らんが肉体を造ったと?


「なんだってそんな代物を造る必要があるのだ」


「ほら、回復魔法さ」


「は?」


「回復魔法のお陰でダンジョン内の死亡率が下がってね、光神教がいた時より。これから回復魔法は更に普及するから、僕が使える死体が減っていく事が予想されるだろ?だから自前で造った」


「人を造る装置…と考えていいのかそれは?」


例えば、少数種族が災害などで絶滅の可能性が出た場合、最小限の人数をその装置で増やす。


あくまでも自然に人口が増えるまでのつなぎ。勿論その装置で造られた者達も我国の国民として扱う。


「いや~、それは無理。そんなうまいことにはならないよ」


「何故だ?」


「だって『万民協和』もまだまだなんだよ?」


むう、それを言われると確かに現実的では無いか。


「まぁ今のところ培養器は僕以外に使い道が無いよ」


ふむ、つまり今のところ叔父貴専用の玩具という事か。


「まぁ、これは陛下、公爵殿下」


叔父貴との話の途中で現れたのはドーラン子爵夫人とその取り巻き数人、貴族の夫人や令嬢。


「ヴェラ夫人か、これは華やかに咲き誇る風情だ。皆の美しさに当てられて、中庭の花が俯く事だろう」


見え透いた世辞でも、言われれば嬉しいらしい。皆キャアキャアクスクスと騒がしくなる。


「ありがとうございます陛下。…そうですわ、陛下には御願いしたき儀が御座いました…よろしいでしょうか?」


「ふむ、何か?」


「私、夫亡き後領地経営を行っております事、陛下も御存じと思います。残念ですが不幸にも夫との間に子がおりませぬ、まずは私がいったん子爵位を継ぎその後養子を迎えたいと存じます」


「ふむ…子爵領はゴース王国と国境を隣接する土地だったな」


「はい、陛下の御威光によりましてゴースとの同盟のなった今、領地は安定しておりますわ」


「ふむ、余が即答する事は出来ぬが、近い内に会議で計ろう。まず大丈夫とは思うが念の為な」


ありがとうございますとドーラン子爵夫人は礼を述べて取り巻きと共に離れていった。


「…つまり彼女は爵位と領地を夫から身ぐるみ剥ぐ訳だね」


「叔父貴、物証が無いのだ、泳がせるしかない…しかし子爵領を食い潰されるのは困るな」


元々子爵領は肥沃な土地ではなく、ゴース国境だ。浪費女が欲しがるだろうか?




【クラウス】


「はい、ありがとうございます」


最近は客も増えてきたのう。


宿屋が冒険者ギルドを立ち上げて新人の育成を始めたお陰じゃな。


訓練の一環でベテラン達のパーティーに新人を組み入れてダンジョン探索をしておるらしい。


それで得た稼ぎで新人達が店で買い物をしてくれとる。


「はい、いつもどうも。お買い上げありがとうございます」


…いつも?どうやらミーシャ目当ての客もおる様だ。


「よ!親父さん」


「こんにちわ」


ザップとノラか。珍しい組み合わせじゃの。


「なんじゃ冷やかしども」


「私は冷やかしじゃないぞ、矢の補充を買いに来た」


「ついでにミーシャを引っ張っていくんじゃろ?」


ま、ミーシャが外を歩くのはよい事じゃ。放っておくと一日中店から出ないからの。


「じゃ小父さん出掛けてきますね」


客足も引けた頃二人は出ていった。


「親父さん、ドレスデンの噂を聞いてないかい?」


店に残ったザップが儂に訊く。


「奴隷屋か?ふん、聞きたくもないがの。聞こえてはくる」


客商売しとると聞こえてくるもんじゃ。


「ドレスデンの手下が最近…ほれ、なんじゃったか…毒殺された貴族の」


「ドーラン子爵か?」


「おぉそれじゃ。その子爵様の領地に顔を出しとるらしい」


「なんでまた?」


「知らんよ、ただそこはゴースとの国境じゃからな、人狩に丁度いいんじゃろ」


国境をまたげばこの国の法に触れんからの。


ゴースでも人狩は違法じゃが、国境近くで『仕事』をすれば逃げるのも簡単じゃろうて。


「ふ~ん…それで子爵夫人に近付いたって事か」


「なんじゃあの男、未亡人にくっついとるのか」


「らしい、が、それだけの理由で組むかねぇ?」


国境近くの領地を根城にして人狩、夫人は上納金をせしめる。


「足りんか?組む理由に」


「ドレスデンの取り分が足りねぇな…ま、いいや。ありがとよ親父さん」




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