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3杯目 酒豪ライフへの一歩

 私の騎士になる宣言のあと、食事を終わらせたリールパパとエリスママは「いい子にしててね」と告げてから奥の部屋にこもってしまった。騎士になるって言った瞬間、エリスママは卒倒しそうな顔をしていたし、少し心配。生まれて初めて発した言葉が「お酒」だったり、騎士になると言い出したり、エリスママにはずいぶん驚きを与えてしまっているようだ。反省反省。


 にしても、騎士学校には女の子が通っている(リーグお兄ちゃん談)らしいし、どうしてそんなに驚くことがあるのだろうか。そんなに変なことなのかな、女が騎士を目指すのって。それって男女差別じゃない?


「リリス、本当に騎士になるのかい?」

「うん! おんなのこはきしになれないの?」

「ううん、そんなことはないんだけど……」


 優しく声をかけてくれているけども、リーグお兄ちゃんは少し困った顔をしている。やっぱりなにかまずいことでもあるのだろうか……この世界、というよりこの国のしきたり的な問題なのか、宗教的な問題なのか。


「お前が騎士なんて無理に決まってるだろ」


 ふん、と鼻息を荒くして、リドリーが言い放つ。でも私は耳を貸さない。

 私がお酒を飲むためにならどれだけでも努力することをリドリーは知らない。月に家にまともに帰れる日が7日間くらいしかなかったあの残業地獄を私は乗り越えてきているのだ。働いたお金はほとんどお酒代に消えていったが、逆にそれがあるからこそどんな残業も苦にならなかった。

 それならばどんな苦労が待ち構えていても、その先人生でお酒が飲めるのであれば私は耐えて頑張っていける!


「どうして騎士になりたいなんて言ったんだい?」

「そんなにいけないこと?」

「いけなくはないけど……女の子が騎士学校に来るのは精霊使いになるためで、騎士科に女の子はいないんだよ」


 そこで私はまたおったまげた。なんだって、精霊使い?

 精霊ってあの精霊?目に見えなくて、いろんな力を持ってる、あの?

 それって魔法みたいなものかな。もしそうなら精霊使いって言うのも楽しいかもしれない。ただし、問題は騎士と同じようにお酒を飲めるかどうか、正直そこをクリアしていないなら私にとっては何の価値もない。


「せいれいつかいになってもおさけはのめるの?」

「え、まさかリリス……お酒が飲みたいから騎士になりたいの?」


 おっと失言。

 お国のために立派な騎士を目指しているリーグお兄ちゃんには、お国ではなくお酒のため、なんて不純な動機でしかないだろう。ここでリーグお兄ちゃんに全力で反対されると、とても困る。なにせ今一番優秀で我が家の期待を背負っているのだ。当然パパママの信頼も厚い。


 私はあわてて頭を振った。


「ちがうよ。きしはかっこいいから。わたしもおにいちゃんみたいになりたいの」

「そっかー! リリスはかわいいなぁ!」


 私はリーグお兄ちゃんがシスコンで、私をデレデレに可愛がって甘やかしたがっていることを知っている。けども、本当にちょろいな、お兄ちゃん。私ちょっと心配になるよ……。

 デレデレとしながら私の頭を撫でているリーグお兄ちゃんに精霊使いの詳細を聞こうとしたとき、甘やかされる私に敵意を向けながらリドリーが言い放った。


「でも、留魂儀で神石を持ち上げられない奴は騎士になる資格はないじゃん。リリスには無理だと思うけど」

「んー、まあ……そうだねぇ」

「え? ……え??」


 な、なんだってー?!?!

 どうしていつもリドリーは私に爆弾を投げつけてくるのか。そうか、だからみんな口ごもっていたんだ。その神石というものを私が持ち上げられるわけないって思っているから!


「それができないときしになれないの?」

「うん、そうだね。それが持ち上げられる人じゃないと騎士になれないし、神石が光った色によって契約できる精霊の属性が決まるんだよ。だから神石が光らないし、持ち上げられない人は精霊使いにも、騎士にもなれない掟なんだ」


 絶望&絶望……一瞬放心したように意識が飛んでいく。

 せっかく酒豪ライフの希望が見えたと思ったら遠のいていく。


 だがよくよく考えてみる。私は酒豪ライフをそんなに簡単にあきらめる気はない。そうだ、それは逆に言えばその神石さえ持ち上げられれば私でも騎士になれるということなのでは……。

 飛ばしかけた意識を何とか保ってうんうん唸り出した私を見て、リーグお兄ちゃんは心配そうに目の前で手を振る。が、今の私には目障りでしかない。お願いだから少し考えごとに集中させてほしい。


 石が光れば精霊使いになれて、石を持ち上げられたら騎士になれる。石の光らせ方は知らないけれど、持ち上げるための道はわかる。筋力トレーニングだ。精霊使いが無理でも、騎士はなれる。体を鍛えて石を持ち上げるだけでいいのだから。


 私は俯いて考えていた顔をあげた。そして留魂儀で石を持ち上げて騎士学校に行く資格を得た2人の兄の体格を見る。少なくとも、リールパパ並みの体格にならずとも石は持ち上げられそうだ。この際、女の子だからとかそんなことは言ってられない。留魂儀で、私がお酒を飲める人生か、飲めない腐った人生になるのかが決まるのだ。


「リリス?」

「わたし、きょうからトレーニングをするわ!」


 心配そうにしているリーグお兄ちゃんに満面の笑みを向けてそう言い切ると、突然背後で大きな笑い声がした。びっくりして振り返るとそこにはリールパパとエリスママの姿が。どうやら、娘が騎士になりたいらしい会議は終了したようだ。


「はっはっはっ、いいじゃないか! リリス! いい返事だぞ!」

「リリス、本当に騎士を目指したいの? 女には生まれながらに精霊と声を交わす力が備わっているの。だから男社会である、騎士の世界にはいく必要なんてないのよ?」

「せいれいつかいは、すごいの?」

「精霊使いは騎士のサポートをするのよ。補助や治癒、時には戦ったりもするけれど……基本は騎士の方のお世話をするの」


 ということは騎士より立場は低いのだろう。それならば、飲めるかわからない精霊使いを目指すより、騎士を目指す方が手っ取り早いのではないか。そうすればめくるめく、酒豪ライフが私を待っているのだ!


「ううん、リリスはきしになる! きしになる!!」


 鼻を膨らませ、断固として譲らない、と言い張れば、不安げに見ていたエリスママはあきらめたように深いため息をついた。

 ごめんね、エリスママ……それでも私はお酒を飲みたいんだぁ。


「わかりました。ならあなたの選んだ道を応援しましょう。これから留魂儀までに神石が持ち上げられるように、お父様が鍛えてくれるそうよ。お父様はいつも居ないけれど、お父様がくれる訓練をきちんと毎日するの、できる?」

「できる!」


 肩を掴んでじっと私の目を覗き込んでいたエリスママは、私の意思が揺らがないことを確認すると、小さく頷いてリールパパを見た。


「リリス、それじゃあ毎日このメニューをこなすんだ。さぼるんじゃないぞ。男の子は生まれてから騎士になるために毎日鍛えているんだ。お前は女だし、訓練も遅れて始めることになるからメニューは倍になる。きちんとこなさないと、騎士にはなれないからな」


 リールパパが紙に書いた訓練メニューをくれる。私でもわかるようなわかりやすい言葉で書いてくれてはいるが、ようするに体力づくりと筋力トレーニングの数々だ。この訓練一つ一つが酒豪人生に繋がっているんだと思うとたまらなくなる。ようやく私は酒豪ライフの一歩を踏み出したのだ。

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