リーズ・ナブルの新たな出会い
どうもアゲインストでございます。
リーズ・ナブル第三章、ダボンナ王国独立編最終章、開幕でございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
それではどうぞ。
―――ほう、お前さん。ここいらじゃ見ない顔だな。大方ここの噂を聞き付けてやってきたんだろう? いやなに、俺もここはまだ日が浅い方でな、儲け話についてならどうだい一緒に。
何? おいおいそんな成りして商人さんだってのか、いや、それならそれで都合がいいってもんだ。儲け話に支障はねぇよ。
今、ここは俺たち冒険者にとってかなりホットな場所になってる。 元はただの国境沿いの街だったんだが、ここの近くにあるモノが出現したことによって多くの実力者が集まって来ている。
そう、―――ダンジョンだ。
ダンジョン。魅惑の存在。欲望の深淵。栄誉への近道。
どれほどの言葉を尽くせばその存在を言い表すことができるのか、人の数だけあるその幻想はまさに千変万化と言えるだろう。
何?
ダンジョンをよく知らない?
おいおい、まさかそんな人間がこの世界にいるだなんて……まあいい、ここであったのも何かの縁だ。ダンジョンのことについていくつか教えてあげよう。
まず、このダンジョンというものがそもそも何なのか、ということからだが……先ほど言ったように人によって答えが変わる。まああえて言うならば突然その土地に出現する地下施設の総称だよ。
そう、地下施設。
何故そういった形を取るのかは明らかになっていないが、おおよそその構造は似かよっていて煉瓦状の壁によって構成されているんだ。
これが小さいもので地下三階、大きいものだと……そうだね百階ぐらいのものが昔にあったとか。
さて、次はダンジョンに出てくる敵について話そうか。
ん? ああ、敵だよ敵。魔物どものことさ。
ダンジョンごとに出てくる存在は違うけど、共通しているのは階層ごとに種類が分けられていることかな。より深く階層を潜ればそれだけ強い魔物に出会うことになるだろう。
この障害を乗り越え、最下層に到達した者にはダンジョンの主との対決が待っている。そして主を倒し、ダンジョンを制覇した者にはその難易度に見合った報酬を手に入れるのさ。
それこそが、俺たち冒険者をダンジョンへと駆り立てる最大の理由なんだよ。
どうだい、今俺はこのダンジョンの攻略に望んでいる。リスクもあるがリターンもでかい。
協力してもらえるというのなら、君にもそれなりの報酬を約束するよ。乗る? よろしい、では今から俺たちはチャレンジャーだ。何、ダンジョンへ挑戦する者たちのことそういうだけのことさ。
よし! 今日はいい日だ! 酒でも飲んで友好でも深めようじゃないか!! はははははは!!!!
―――とある冒険者と商人の一幕
王都、イナナキと街を経て、丘を行く一台の馬車。
搭乗者は二人。
名も知らぬ御者と、冒険者リーズ・ナブル。元軍人の付与魔法使いである。
イナナキでの騒動から早数日。御者の操る馬車に揺られ、次の目的地へと進行を続けていた。
かの地での過酷な活動により疲労していた体も移動の合間にそれなりに癒えてきてはいた。
しかし、人が直接管理していない土地故か単独で活動している彼らを格好の獲物と見て襲いかかる存在がおり、少なくない数のそれに対処に当たるために動かざる得ないので、本格的に回復できていない状態でもあった。
勿論、魔物避けの機能のある馬車のお陰である程度遭遇を免れているが……こんな世の中だ、襲撃者とは魔物だけに限定されない。
理性と欲望の天秤があり、そのバランスを欠いた存在は他者を容易く傷つけるのだ。
「…リーズ様」
「あいよ」
監視眼に定評のある男、御者の短い合図にリーズが応じる。
手前の丘を越え、道の先にはもう少しばかり高い次の丘がある。その丘は木々が生い茂り至るところに影が形成されている。二つの丘の窪みに差し迫ったところで声が掛かったということは、この森に襲撃者がいるのだろう。
おそらく斥候の小さな影を見逃さなかったのだろう、この男相手に視界の範囲内から偵察するとは無謀もいいところといったところか。
既にその存在がバレているなど知らず、今ごろ仲間と襲撃の算段でもつけているのだろう。ご愁傷さまといっておくべきか、いやここはその選択を選んだ不運を哀れむべきか。
馬車は襲撃者の存在など知らないとばかりにとことこと進んでいく。そしてとうとう森の中へと入っていき、完全に姿を影の中へと沈めていく。
木々が生い茂り木漏れ日が散漫とした光を地面へと照らす道筋。そんな森の中をしばらく進んだ時である。
―――ヒュンッ!
風を切り、何かが向かってくる音が響いた。
襲撃である。相手は先に御者を始末するべく弓矢によって先制攻撃を放ってきたのだ。
矢じりがまばらな日光を反射し、キラッ…キラッ…と信号でも送るかのように御者へと襲いかかる。まさに死を知らせる先触れということか、その狙いは正確に御者の体へと向かっている。
しかし。
「…射手を確認、先の斥候かと」
冷静沈着な御者、これを容易に掴みとると情報をリーズへと伝達する。これには射手も驚いたのか、次弾を放つことができないでいた。
その隙をこの男が見逃すはずがなく、握り込んだ矢を手首のスナップだけで投げ返す。
それはその簡単な動作からは考えられないほどの勢いで飛んでいき、逆に射手の頭を貫いた。
これに動揺した襲撃者の集団は、攻撃に成功したと思い込んでいたために中途半端に木の影から身を乗り出してしまっている。
そしてそれが彼らの敗北を決定着けることとなる。
「…数は六、全員軽装」
「―――了解、無力化する」
馬車の横扉を開け放ち、即座に屋根の上に飛び上がるリーズ。
対象の六人を確認した彼は、既に仕込みを終えていた手の中の武器を解き放つ。
「っふ!!」
その数襲撃者と同じく六つ、それぞれの腕で全方位に投げられたそれは狙い違わず襲撃者たちへと突き刺さった。
「ぐあっ!」
「いてぇ!!」
「この野郎!!」
攻撃を受け呻き声をあげる彼らだが、特段それ以上のダメージを受けた様子はない。この程度ならば問題はないと改めて襲いかかろうとした彼らの足は、しかし自身の意思に反し前に進むことはなかった。そしてすぐさま全身に麻痺のようなものが広がり、その場に這いつくばることとなる。
襲撃者、いやもう盗賊たちといっていいだろう。彼らが襲ったのは羊の皮を被った狼どころか毒を持つ猛獣であったことをこの時やっと理解したのであった。
森の魔物に注意しつつ、盗賊たちを拘束して並べていく。体が動かない彼らを連れてくるのは苦労したが、抵抗されないだけましである。
「さて、顔をよく見せてくれよぉ」
「畜生!! てめぇ何をしやがった!!」
「まあまあ静かにしなよ。生きていられるかは俺の匙加減なんだぜ?」
「くそっ……!」
悔しそうに悪態を吐くこの集団の頭であろう男、髪を掴んで引き上げた顔には傷跡が走っている。作りも凶悪そのものだが、そんなことはリーズには関係なかった。
「どうだ」
「…少々お待ちを」
御者の男が行っているのは懸賞金が掛かっているかどうかの確認である。過去に悪事を働いた人間が罰を受けずに逃げ出したり、凶悪犯として認知された場合、その人相書きと罪人であれば焼き印の数字が書かれたものが冒険者ギルドで共有される。
それぞれ罪の重さによって懸賞金が掛けられ、はれてお尋ね者となるわけである。こうした奴らを専門に活動する冒険者もおり、彼らを追い掛ける姿からハンターとも言われている。
さて、御者がその確認を行っている間に、盗賊たちの身に何が起こっているのか説明しよう。
まず、リーズが投げつけたものについて。これは棒状に加工された魔物の爪である。
これには元々あった魔力によって貫通効果が付与されており、相手の装備にもよるが人体であればほぼ突き刺さらないということはないというくらいには強力な爪杭となっている。
これに『不動ガエル』という魔物が持つ毒線から得られる毒より麻痺効果を付与している。
爪杭によって貫通させられた体は、その魔力による抵抗も貫通されてしまう。そして抵抗を下げられた体に毒が広まり、麻痺によって無力化された、というわけである。不動ガエルの毒にはそこまで強い効力はないため、四肢が痺れる程度で話したりすることは可能なのだ。
「…ありました。どうやらそこまでの相手ではなかったみたいです。何度か被害が出ているようですが、全員合わせても金貨二十にもなりません」
「そうか。なら頭以外は置いていこう、森の肥やしとなるがいい」
すんなりとしたリーズの非道な決定に動揺が広がりまくる盗賊たち。馬車にはまだスペースがあるとはいえ、こんなに連れていけるほどの余裕はない。必然的に一番賞金の高いボスを連れていくしかないだろう。
「悪人としての道を選んだ以上、こうなる覚悟はできていただろうが。つまりお前らも死ぬんだよ、この世の摂理に従ってな。自分が実現したことは他人にも実現できるってお婆ちゃんから習わなかったか?」
「生まれたときにはいなかったわ!! ていうかお前本当に人間か!? 俺たちだってそこまで残酷なことしねぇよ!!」
「うるせぇな、今さら置き去り程度でビクついてんじゃねぇよ。お前らだって散々人殺してきたんだろうが。俺は自分の手を汚すのは心が痛むから自然にやってもらうだけのことだ」
これが悪人を裁こうとする男の発言である。まさしく外道である。
しかし、この世界ではそんなこともまかり通るのが世の常である。勝者こそがルールなのだ。
「そんじゃあお前は馬車へボッシュートだ。後は麻痺が抜けるまでに襲われないように祈ってろよ」
「「「鬼! 悪魔!! 外道!!!」」」
「悪いが俺は元軍人だ。悪人に掛ける慈悲はねえ」
こいつらみたいな存在のせいでしなくてもいい仕事が増えるのだ。残業の芽は叩いて潰す。リーズ・ナブル、軍人時代の恨みをここぞとばかりに晴らそうとしていた。
さてそれではボスを馬車に運び込もうかというところで、少し離れたところから何かが動く物音が聞こえてきた。
その音に反応いたリーズは素早く警戒態勢へと移る。再び爪杭を手に忍ばせた彼の目の前に予想外の存在がしばらくして出てくるのであった。
「誰だ、お前」
「あ、あの……その、お話がありまして……」
それはいささかみすぼらしい格好をしていたが、一目見てどんな人間かがわかる格好をした栗色の瞳の少女であった。
―――三角帽子に大きな杖、黒いローブ。
まさしく魔法使いという装いをした少女。彼女との出会いが後々にとんでもない事態になっていくのだが、この時のリーズはまさかあんなことになるなどこれっぽっちも思っていなかった。
今はただ、この場違いな少女の出現に困惑するだけである。
読了ありがとうございました。
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