準決勝 side ケイン
どうもアゲインストでございます。
遂に激突する二人、ケインvsジョンの準決勝でございます。
相対的な二人の戦いの結末や如何に。
今回はそんなお話。
それではどうぞ。
ようやくだ。
僕今、これ以上ないってくらいに興奮している。
あの時からずっと燻っていたんだ。ずっとずっと、なりたい自分になれないことに。
クランの長として周りの皆を導く偉大な父がいた
その側で優しくも厳しく僕を育ててくれた母がいた。
とても幸せだった。ずっとこの生活が続いていくんだと、そう思っていた。
でもそれは、ただ僕が信じていただけのことだった。
「―――……だぁああああ!!!」
この相手は強い。
その実力が父さんに及ぶってのも納得できるくらいには、強いのだろう。
でも、それがどうしたっていうんだ。
速度を最初からMAXだ。この後なんて考えている余裕がないのが分かっているのなら、この一戦に全身全霊を込めることに何の躊躇もない。
「そんな状態でどこまで対応できるかな!!!」
「……っ!?」
静かな構えでジョンの周りを縦横無尽に駆け巡る。その構えがほぼ虚勢であることはこれまでの戦いで分かっている。
あの神業のような回避も体力のなさをカバーするために行っていたんだろう。それができるだけの技量は脅威だったけど、それならやりようはあるんだ。
「チマチマ出方を見るなんてことはしない! 対応できなくなるまで攻めて攻めて攻めて! 抉じ開けてやるよぉおおお!!!」
相手より勝っているところで勝負する。
絶対に勝ちたいと思うのなら、そうするべきだ。
父さんから教えられたことだ。
力には種類がある、それを見極めて戦うことが戦士としての第一歩であるってね。
「あんたの技術が十なら僕なんて一か二くらいのものだろうさ!! でもね、力とスピード、体力ってんなら話は別だ!! 避けられる防がれるって分かってるならそれ込みで攻撃するだけ! ちょっと動いただけで息切れするようなあんたが動かざるしかない状況を作ってやる!!」
自然現象じゃないんだ、人間がすることには限界がある。その上限だってその日の都合でいくらでも変わる。
例えば僕が最高潮で、副長が不調な状態で戦ったなら勝てる確率ってやつは格段に上がる。
実力が離れている相手だろうと、そういった条件が重なれば勝てないということは絶対にないとは言えなくなる。
常に近くから斬りかかり、避けられても別の角度から攻撃する。
相手が動いていない時間を作らせないように、剣だけでなく足払いやタックルなんかで体勢を崩すように仕向けることも忘れない。
先手を取り、行動の主導権をこちらで握る。
それでも上手く回避を続けられ、一度も相手の体に触れることはない。しかしそれでいい、一撃食らわすまで何度でもやってやる。
「そらっ!! そらっ!! そぉらぁああ!!!」
「……っ!…っ!!………っ!!!」
息も着かせないような連続攻撃を繰り出したけど、それでも届かない。でもその動きにだんだんと余裕がなくなっているのが見て取れる。
(これでいい…! 全身めちゃくちゃ痛いけど、ここで勝てなきゃ意味がない!!)
自分の戦闘を支える身体強化もただでできるわけではない。ここまでの戦闘で魔力を消耗しているし、全力を出し続けることで体に対する負担がかなりのものだ。
結構な痛みが全身に広がっているけど、それを掻き消すくらいに僕の心は燃えていた。
「ははっ!! 全然当たらないや! こんなにやって一発も当たらないなんて、やっぱりあんた凄いよ!! それでこそ戦い甲斐があるってもんさ! こんなに楽しいのはどれくらいぶりだろうか、あのお兄さんもよかったけどあんたは別格だよ!!」
長剣の一撃を放つ度にどんどんと鋭さを増していくのを感じる。この攻略が困難な相手になんとしても切っ先を届かそうと足掻き、それに応えるように体が動く。
長剣の重さをまるで感じない、まるで手の一部になったみたいだ。
足がこれまで以上によく動く。今の僕は馬の脚力と人の機敏さを持っているといっていい。
これだけじゃない、もっともっと先まで行ける。この戦いで僕は確実に進歩している!!
「もうこの際あんたが誰だって構わない!! ありがとう!! あんたがここに来てくれて、僕はさらに強くなれた!! 感謝しかない!! こんなことしか言えないけれど、本当に感謝してるんだ!! ありがとう!! これなら……これなら僕は―――」
ずっとずっと、それを目指して頑張ってきた。
父さんが倒れて、母さんが倒れて。
僕は目に前が真っ暗になった。
どれだけの人に診てもらっても、全く目を覚ましてくれなかった。
どうしようもないって、じゃあどうすればいいんだよって僕は何度も考えたんだ。
目を覚まさないけど、それでも生きてはいる両親。呼び掛けたって意味がないって分かってるけど、それでも奇跡が起こるんじゃないかって瞼を瞑っている父さんに語り掛けた。母さんの好きな花を飾った。
そんな日々を過ごしている内に、僕はふと思うことがあった。
クランは、「青き鬣」はこれからどうなる?
父さんという支柱を失ったクランは、これからどうなる?
運営は副長がいればまだ何とかなるとはいえ、他のクラン員はどうするべきなんだ?
何よりも、父さんに変わるクランの長がいるのか?
クランを治めるに足る実力がある奴が、今のクラン内にいるだろうか? いや、居ない。
一番の候補である副長はクランの立て直しで手一杯だし、その他の連中は実力を買われていた奴らが半分以上キリンにやられてしまったせいでトップに見合うような奴は居ない。
これでどうやって、クランの形を保つことができるっていうんだ。
このままじゃあ、父さんが受け継いだクランが、母さんが支えてきたクランが、無くなってしまうかもしれない。
もし……もしそうなったら……。
いつか二人が目が覚ました時、自分たちが築き上げたものがなくなてしまっていたら、僕はどうすればいいんだ?
だから、だから僕は―――……
「―――僕は、絶対になってみせるんだ!! 父さんが自慢に思うような凄い冒険者に!! 父さんのクランに相応しい強い剣士に!!!」
決意を込めた一振りは、それまで絶対に届かなかったフードの男の体を捉えた。
決定打となるにはまだ遠い、浅い切り口であったがそれまで一度も攻撃を受けていなかったジョン。ケインの渾身の一撃は、咄嗟の回避が間に合わなかったジョンの左腕を傷つけていた。
「はぁ……! はぁ……!!」
ようやく一撃をジョンに与え、ケインの攻勢はこれからというところであったが、如何せん無茶をしすぎた。
体内にある魔力はほとんど尽き掛けており、急激な動きに耐えられず手足の筋肉は断裂。特に剣を振るう右腕は内出血によって膨らんでおり、激しい痛みが襲っていた。
汗が滝のように全身から流れ、体の震えを押さえることができていない。
たった一撃を到達させるために、払った代償が大きすぎたのだ。
しかし、それでもジョンに向ける眼光には一切の陰りを見せず、痛みが苛んでいようと剣を構えることをやめない。
「……惜しかったな……もうっちょっと踏み込んでれば……はぁ……っ勝負が決まってたかもしれなかったのに」
苦しげな呼吸でありながら、弱音など全くない発言をジョンへと向けるケイン。その姿は十六という年齢からは考えられないような精神力である。
「まだだよ……まだ決着はついてない」
そしてなお勝利を求め前進を始める。
その歩みは遅々として進まず、牛歩の如き速度であった。
しかし、震える足をそれでも動かし進もうとする姿はもはや常人の域を越え、心が体を動かしている状態であった。
「父さんの……母さんの……居場所を守るんだ。僕がやるんだ……僕が守るんだっ……!!」
それはイナナキの街で悪童として認識されていたケインの印象を覆すような、対象のいない訴えであった。必死になって自分の大切な人たちの大切なものを守ろうとする、幼い子供の懸命な願いであった。自分自身に対する誓いであり、その身に余る願望であった。
だからこそ、そこにある間違いに気づかないからこそ、ケインには届かないところにジョンがいた。
「ぁああああああああああああああああ!!!!!」
もうすぐ尽きようとしている全身の力を、気力で集める。
それは無様な一撃であったが、今のケインにできる渾身の一突きである。
気力で立っているような状態のケインには、もうすでに相手に勝つだとかいう考えはない。
ただ、負けたくない。
それだけが今彼を支えている。
「…………っ!!!」
相対するジョンも、その動きに触発されたのかこの大会で初めての構えを見せる。
それは明らかに攻撃をするためのものであり、力みとは無縁だったそれまでの彼の戦い方からしてみれば異質なものである。
まるで鏡写しのように、刺突をするために体を沈ませたジョン。
先に打ち込んだケインの剣がその目に見えない攻撃範囲に入った瞬間、
「――――――」
「え?」
何かを呟いたようなジョンは、これまで見たこともないような加速を行い、一瞬の交差の後ケインの後ろへと駆け抜けていった。
驚くできは、その一撃がこの場にいた誰にも見えなかったことだろう。瞬きの内に移動したとしかいいようがないほどに、その動きは速すぎた。
どのような攻撃が加えられたか分からぬ内に、ケインの意識は体が地面へ落ちていく感覚を覚えながら闇へと沈んでいく。
ギリギリで保っていた力が思考の手綱から放れ、自分の意思ではもう動けないことを悟りながら、ケインは勝敗とは別にジョンがこぼした呟きが気になっていた。
それは、なんだか懐かしいような気がして……―――
「―――勝者、ジョン・ドゥニームぅううううう!!!!!」
しかし、それは司会の告げる勝利者の宣言によって掻き消され、今度こそケインの意識は失われていくのだった。
激戦を制したジョンに対しこれまでにない歓声が観客から挙がる中、倒れ伏すケインの姿をじっと見つめるジョンの姿があった。
その姿は勝利を喜ぶでもなく、その視線に込められた感情を知る者はこの場にはいないだろう。
しばらく救護班に囲まれるケインの姿をじっと見ていたジョンは、まるで断ち切れない思いを振り払うようにして体ごとケインから目を背けた。
大会は残すところ後一戦、決勝の座を競う戦いへと移るのであった。
読了ありがとうございました。
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