リーズ・ナブルは決断する
どうもアゲインストと申します
報せに現れた後輩
凶報に対してリーズのする選択とは
そんな第八話でございます
人間の中にも序列があるように、魔物の中にもそれが存在する。
特に顕著な例として、ドラゴンというやつがいる。
こいつらは遥か昔から生きてきたような古龍と言われるものから新生龍という比較的若い連中までいる。
こういった、あからさまに危険な奴らは高位の魔物として俺たちはその動向をどんなときでも警戒している。
しかし、自然というやつは恐ろしいもので、生存競争の中でこういった存在に自らを高めるようなアグレッシブな奴がいたりする。それは突発的であったりして、時々考えもつかないようなタイミングで人類の生活圏にその姿を現すのだ。
その脅威を存分に発揮して、限りない災厄を撒き散らすために。
ハナセのもたらした情報は、緊急も緊急、早く対処しなければ多大な犠牲者が出てもおかしくない、そんな可能性を嫌でも想像させるものだった。
だが、わからないことがある。
そんな事態には国軍の総力をあげて対処するべき一大事だ。それを何故、こいつらみたいな支援部隊に対応させているんだ。
「何があった? 詳しく話せ」
「そ、それが…」
ハナセが語る内容は、詰まりながらではあったものの簡潔で的確なものだった。それを聞き終えた時、俺は思わず自分の顔を手で覆ってしまった。それはなんというか、なんと言えばいいのか。
「…一割は俺のせいか」
高位魔物の出現に慌てた常駐部隊は、それでも職務を果たすために王城の正規軍に報せを走らせていた。
だがそれを受けた軍に、それに動かせる人員がいないのだ。
亜人最前線。
そこに出兵させているのだ。
人類皆の望みとうそぶき、無謀な行軍に参加しているのだ。
みんながみんな、そんなことに夢中になっているもんだから、人間同士で争うことよりもモチベーションが高く、危機感が足りなくなっている。
それでも最低限の常備軍はいる。実戦に出せないような新人も。
それが今回問題となっているのだ。
「…怪我してんだったなぁ」
昨日のゴブリン退治でその新人に出た怪我人のせいで、即応できる部隊はいない。希少な回復魔法の使い手も、あの人数を相手にしてはてんてこまいであろう。
常備軍を出せばいいだと?
城の防衛に怪我人しかいなくなるんだぞ。いいわけあるか。
なんだ。つまり、そういうことなんだろう。
「…お嬢様だな」
「そうなんです! あの人いきなりきて『全員来い!』って!」
負傷した部隊の補充に、こいつらを連れていくことにしたわけだ。
「俺に、って話からだな」
「ご名答かと」
あの貴族のお嬢様、よほど腹に据えかねてやがったか。やっぱりきちんと顔出しときゃよかったのかね。
まあいい。
今はそんなことを後悔している場合じゃない。
「数は?」
「番で一組。一頭は常駐部隊の連中と総隊長が請け負ってます。でも、何て言うか、どうにも見たことがない奴らしくて」
そうか。それなら安心できる。あの人仕事だけはできる人だからな。任せておいて問題はないだろう。
正体が分からないというなら森の深部からか。ゴブリンどもの大群はこのせいか。抜かったな。
しかし。
「お前らだけの方がヤバイな」
「はい。だから先輩…その」
「わかってる」
新米騎士様の指示で動かざるを得ない状況にいる、か。階級の問題があいつらの動きにどう影響するか。ああ、目の前にその情景が浮かんでしまう。上手くいくわけがない。絶対に上手くいかない。俺が保証する。
「…思いきったことしやがる」
呆れるしかない。戦闘を主目的としないから支援部隊なのだ。それをお供にバケモン退治とは、頭沸いてやがんだろ。
どうするか、なんて迷ってる場合じゃない。即断即決で行動しなければ。
「ハナセ。お前は先に行け」
「じゃあ先輩…!」
「ああ…行くしかねぇだろ」
頭の中でプランを立てる。あいつらの出来ることは大体わかっているし、お嬢様もそこまでできる方ではないのはあの時に見させてもらった。
その上で、正直に言おう。
「火力が足りない」
この時期に番になっているようなタイプの魔物だ。気性も荒くなっているはず。長引けば面倒だ。速攻で倒したい。
そのための人員も、一応だが目処がたっている。
だがそれは、俺が自由に使える手札ではない、という問題がある。
「少しやらなきゃならんことがある、足止め頼んだぞ」
「うっす!」
俺の頼みに先ほどまでの弱々しい態度を一変させ、力強い顔をして立ち上がるハナセ。隊のなかで一番足が早いこいつなら、みんなに報せて戦況を保たせることをしっかりとしてくれるだろう。
「じゃあ、俺行きます!!」
お願いしますね!!
そう言い放ち振り返ることなくギルドから駆け出していく。疑うような素振りをまったく見せないだからな、あいつ。
答えなきゃな。仮にも先輩なんだから。
「…ユンゲルさん」
「おう」
でだ。
俺は今からしなきゃならない。
「仕事を頼みたい」
「高いぜ、俺は」
「十分わかっているさ」
俺は懐からさっとそれを取り出す。
「金貨二百枚。前払いだ」
「ほう?」
出し惜しみ無し。
そんな余裕なんぞない、一刻も早くこの男を引き込まねばならん。
「あんたを働かせんのに、これでも安いくらいだ。
だろう、『業拳』ユンゲル・ハワード」
この類い希な戦士の存在を、使わない手はないのだから。
俺の条件に、ユンゲルは無邪気なほどの笑みを浮かべてくる。気づいたのか、というよな、悪戯好きな悪童のそれだ。
そんな男の正体に、会話の途中で気がついたのだ。
ユンゲル・ハワード。
業拳の二つ名。
その名前は、最上位ランク冒険者に刻まれていた。
それは、人類でとんでもなく強いことを意味する、もっとも簡単な称号であった。
そんな相手を、俺はなんとしてでもあいつらのいる戦場に連れていかねばならんのだ。それも、可及的速やかに。
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