蝕むものの正体
どうもアゲインストでございます。
こんな時間の投稿で申し訳ない。どうしても納得できる説明にならずにここまで時間がかかってしまいました。
魔力汚染。
主に攻撃魔法などによる負傷で起こる、本来自分が持つ魔力とは違う魔力が体に残留してしまう現象だ。
これが起こる原因として、攻撃を受けた側の耐性が関わってくる。
前提として、本来攻撃魔法にはそんな副次効果はない。あくまで攻撃魔法は純粋な破壊を目的としたものである。
俺たち人間に関わらず、生物には他者の魔力を拒絶する機能がある。攻撃魔法に対しても、この機能を意図的に高めることによって身を守るということができたりするのだ。
しかし、この耐性を越えるような高い魔力による攻撃に対しては抵抗しきれず、体に損傷を負ってしまうことになる。
そして、魔力というものの性質の一つとして魔法としての構成が崩れた指向性のないものは、固体や液体に浸透しやすいというものだある。
これは抵抗の意思のない状態であるならば人体であっても例外ではない。
体の抵抗を突き抜けた攻撃魔法は、その役目である破壊を行い霧散していく。本来ならこの時点で攻撃を受けた対象は死亡またはあの世に片足を突っ込んでいる状態である。この状態になってしまうと魔物と体組織が違う俺たち人間は体に魔力を留めておくことができなくなり、結果として何の魔力も持たない死体が出来上がるのだ。
しかし生き残った場合、霧散してしまった魔力は拠り所を求めて近くにある比較的保有量の多い人体へと集まってくるのだ。このときに意識のない状態だとこれらに対する抵抗はほとんどなくなってしまうため、傷口などから簡単に侵入していまう。
この体外から侵入してきた魔力が自分の魔力と反発することで体に悪影響を及ぼす。
これが本来の魔力汚染であり、少数ながらも治療に成功している例が存在しているので全く未知の症状というわけではないのだ。
しかしこれは、あくまで通常の例であればだ。
仮にも神獣などと呼ばれる存在だ、そんな奴の魔力が普通なわけがない。
キリンの野郎、厄介なんてもんじゃねぇぞこれ。
魔力汚染について知識のなかったマチルダのために、俺が知り得る情報を話しながらも診察を続けていた。
正直言って俺も本物を見たのは初めてだ。王都での勉強の中に珍しい症例を纏めた本を読んでいなければ気付かなかっただろう。
しかし、この体に根付いている魔力の様子を見る限りそうとしか診断できない。
「トトンさん。一応あんたにも確認してもらいたいんだが」
「ううむ……リーズさん、本当に魔力汚染なんでしょうか? 自分たちもその可能性を考えなかったわけではありません。しかしどんな治療を施しても改善はしなかったのです。ですから自分たちは違う症状だと仮定して診察を続けてきたのですよ」
トトンがそういうのも無理はないか。
医師である自分が違うと診断したものに、素人が実はこうだったなんて納得できるものじゃないだろう。
だが俺とて何も確信がないままに魔力汚染と口にしたわけではない。
「あんたが真剣にこの人たちのことを診てきたのは分かるさ。でも俺だって無責任にこんなこと言ってるわけじゃない。今からその根拠を見せるが、ちょっと危ないかもしれんから離れといてくれ」
「ちょ、ちょっとあなた何をするつもりですか!?」
「マチルダ、頼んだ」
「任せろ。トトンさん、こっちに」
「や、やめなさい! 私の患者に何をする!!」
暴れるトトンをマチルダに拘束してもらい、俺はドイル氏の胸元に手を置いて自分の魔力を送り出した。
その瞬間にだ。
「っと!」
置いていた手のところからバチッ!! と音を立てて衝撃が発生した。鋭い痛みを感じてパッと手を離す。
「やっぱりな」
「い、今のは……」
俺の手を襲った衝撃。
体内でぬくぬくと過ごしていたキリンの魔力が、自分を排除しようとする明確な意図をもった俺の干渉によって反抗してきたのだ。
それはさながら寄生虫のようであり、この魔力汚染がただでは済まないことの証明であった。
こんなことは初めてなのか、トトンは今起こったことを理解しようとして頭を巡らしている。
「本来魔力汚染といっても難解な症状というわけではない。本人に抵抗の意思があり正しい治療を行えば治る可能性は十分にあるもんなんだがな。だがこの夫婦の場合は違う」
体の末端だけのベンとは違い、自分たちの息子を守ったことによって全身にその強力な魔力を浴びている。
張り巡らされた火傷のような痕は全てその魔力によるものだろう。
「なんてったってキリン様だ。災害級の存在の魔力なんぞ俺ら人間がどうこうできるもんじゃねぇ」
絶望的だな、こりゃ。
「トトンさんよ。あんたのところに魔力の扱いに長けた人材ってのはどんだけいるんだ? 体内の魔力を排除できるような繊細な使い手だ」
「……あなたのような現象を起こせた者は自分を含めてこの治療院には存在しません。また、そんな技能は自分たちには不可能です」
俺の質問に対してトトンが述べた結論は、端的に言えばノーである。
重い沈黙が俺たち三人を包む。
それは、この二人を治す術がないことを示していた。
読了ありがとうございました。
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