リーズ・ナブルとベン・ブリッチ
どうもアゲインストでございます。
現地の冒険者、ベン・ブリッチに誘われ食事へと赴いたリーズ。
何となく似たような人間の存在が脳裏に浮かぶなか進む会食、話はリーズのことに関してになっていた。
今回はそんなお話。
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何となくの流れで始まった、ベン・ブリッチとの会食。
次々と運ばれてくる料理は色鮮やかで、何より量が多い。さすがは冒険者御用達の宿屋、客の好みにきちんと合わせたものばかりだ。
最初に飲んだ飲み物、これも旨い。
度数の低い酒らしく、昼間に飲むものとしては最適なんだとか。あくまでこの男が言うには、だが。
腹が満ちてくれば機嫌も良くなるもので、それまでさんざん好き勝手されてきたこともまあ、許せるくらいには満足してきていた。
「いやーいい食いっぷりだなお前さん!」
「まあ、あんたがいうだけのことはあったな。かなり好みだ」
「まあそれもこれもお前さんのおかげだけどな!」
あ、でもよう、と。
そこで何か気になったのか、食事の手を止めて質問をしてきた。
「本当にいいのか、掻っ払った金貨二十枚の内半分、俺が納めちまって?」
それはここにくるまでに話したことであった。
もともと俺は半々で分けようと考えていたのだが、ベンの方はそうは考えておらず、依頼料の約二倍である金貨五枚で手を打つとのことだったのだ。
理由としては、やはり矜持というべきか。
達成してもいない依頼でそれ以上をもらうのは冒険者としてどうかと、そういうわけであった。
俺としては相手の仕事を邪魔した手前、さすがに少なすぎると思い山分けを提案し、先輩の顔を立てるためだとかをどうこう言いくるめてお互いに同額を懐に納める、ということにしたのである。
「別にいいさ。これであんたらに目をつけられないならそれで儲け物だろうしな。先に行きたいんだが、これが原因で足止めを食らいたくないんだよ」
「先って、どこまで」
「最前線」
「最前線て…聖国か?」
「まあ」
はあ…と気の抜けたような声を漏らすベンの顔は俺の意図が分からないというような表情だ。
まあ、わざわざ安定しているところから血生臭いところに行こうなんて、俺の風体を見ればそうは思えないだろうさ。
癖のある茶髪をいじりながら、その目には少々探るような色を浮かばせている。
「ユルゲン・ハワードがわざわざ面倒を見るような奴が……前線にねぇ」
「まあ、それについては運がよかったというべきか。正直、いろいろ気を使ってもらって借りが増えていくばっかりなんだよ」
「いや、何やったらそんなことになるんだよ」
ベンの疑問ももっともである。
あの大英勇が一個人にこんなに関わるというのはとんでもないことなのだ。それを事も無げに言う俺の存在は結構謎であろう。
「この前、王都で騒ぎがあったろう?」
「ああ、あの有名な魔物の森から遂に上位の魔物が出たってな。ユルゲン・ハワードが倒したって……あっ! もしかして関係者なわけ!?」
「俺って実は元軍人、討伐に参加した連中はそんときの部下でした」
「嘘!? ってことは!」
「俺が戦場へと導いた、これ一応オフレコね」
「まじかよ!!」
うわー…えー…、など。とても信じられないといった様子である。まあ信じる以前にこんなことは戯言の類いと判断されても仕方あるまい。
「一応証拠がこれになるんだが」
「何? これ以上お兄さん驚かせる何があるっての」
「その英雄からの激励の手紙」
「馬鹿ちゃう?」
懐に大切にしまっていたそれを手渡して見せてやれば、震える手でそれを受けとり内容を確認していく。
短い文だが、俺に対する期待と旅の無事が書かれた手紙。
名前を騙る愚を犯すような者がいるわけはなく、ギルドの印がある以上本物であることを疑う余地はないだろう。
「すげー…」
「まあ、これもオフレコで」
あまりおおっぴらに言うことではないしな。
「だからってわけじゃないが、まあそういうこともあってあんたと言い争うわけになっちまった。悪かったよ」
「いや、それなら仕方ねぇな。そんな大先輩からの依頼だってんなら達成しねぇわけにはいかねぇしよ」
「だからって組織に属している人間とやるべきじゃなかったさ。ギルドの扱いにちょっとムカついたのもあるが、もっと穏便に納めることだってできただろうさ」
どっかに行く度にこんな騒ぎを起こしていては何時まで経っても目的地にたどり着けない。最悪どこぞで野垂れ死ぬかもしれない、もっと考えて動くことを覚えなければ。
「そんなわけで、今回はあんたのお陰で穏便にできたんだ。それに対しての恩返しというわけさ、報酬は遠慮なく貰ってくれ」
実際この男でなければまた違った展開になっていた可能性が高く、もっと面倒な事態になっていた場合、まああの演技のことが実際におきていたかもしれない。
「はー…いろいろ抱えてるわけだ」
「最初はもっと身軽な予定だったんだが、気がついたらって感じだよ」
俺のその言葉に何かを感じたらしく、面白いものでも見るような目でこちらを見るベンは、それまで忙しなく動かしていた手を目の前に差し出してきた。
「どうやらお前さん、運のいい男みたいだ。そんなあんたと会えたことに、改めて感謝しよう」
そういえばお互いに自己紹介をしていなかったと、そこではたと気付いてその行動の意図を理解した。
「魔鉄級、リーズ・ナブルだ」
「クラン「青き鬣」所属、同じく魔鉄級、ベン・ブリッチ。短い間だがよろしく」
こうして、イナナキという新しい土地で俺はそうそうに知己を得ることができたのだった。
幸先がいいと言えばいいのだろうか、しかし退屈はしなさそうだということは、この男の目を見れば分かることだった。
だがしかし。
「――――――こんなところに居たのかい? いけないな、十位如きが報告をサボっちゃ」
そういうときに限って、良くないことは起きるもんなんだと、俺もいい加減学ぶべきだったのだろう。
声のした背後に顔を向ければ、店の明かりを反射して輝くそれを振りかぶっている―――
―――長剣を持った男が、歪んだ瞳で俺を見ていたのだった。
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