リーズ・ナブルは存分に
どうもこんにちわ、作者のアゲインストでございます。
久々にお昼の更新となりました。
戦闘の続きとなっております。
それではどうぞ。
俺がリーズという名前を共に、この世に生を受けてから、実に二十二年という歳月がたった。
その間に変わったものは数知れず、いろいろなことを経験してきた。
その中で、特に変わってきたものをあえて挙げるならば、やはり、
「……これ、だよなぁ」
両の拳と両の足。
それを振るって外敵に対処する。
それは、俺が貧民街で生き抜いていくことを決めたその日から、ずっと使い続けてきた武器だ。
しかし、最近はそれを使う機会がとんとなかった。
「おらぁあああ!」
「はい、いらっしゃい」
あの胡散臭い男に軍に引き入れられ、俺は軍人としての技能を身に付けなければならなくなった。
一応それなりに剣や弩を使えはできるようになったが、それを使う機会が来なかった。
その前にナインハルトのやつから、ちょっと薄暗い仕事に従事させられていたためにそんなものを持って動き回るわけにもいかずに、今度はナイフやら小物の扱いを覚えるはめに。
「この野郎!!」
「はい、どうもね」
それが落ち着いたと思ったら、お次は支援部隊に所属させられる。
そこですることと言えば、戦いとはほぼ関係のないことのオンパレード。塹壕を掘ったり、倒した魔物の剥ぎ取り、死体の処理などまあ雑用雑用の日々であった。
そんな日々を繰り返す日々、そしたらいつの間にか第二部隊の隊長になって、さらに戦い方が変わってしまう。
「くそが!」
「ふざけんな!!」
「まったくもって同意だ、でも寝とけ」
一人でなくなったのだ。
守らなくてはならなくなった。
そういう立場なのは百も承知、与えられた役職に不満を漏らしてやり続けるような人格でなかったことが幸いしてか、それなりにできるようにはなったと思う。
だが。
「…いいね」
実に、いい。
そうやって、戦うことをしていても、闘うことから離れていた俺には。
今こうやって、剥き出しの殺意で来てくれる、この機会がありがたかった。
周囲にあった部下という壁、上司の壁、立場の壁、生まれの壁。
それがどんどんと、捲れていっている。
「死ねや!」
「ぶった切る!」
「殺す!」
「舐めやがって!」
「ちくしょうが!」
「ぶっ飛ばす!」
「イカれが!」
「囲んで殺れ!」
「錆を落とすには、もってこいだねこりゃ」
もともと、ギルドの依頼がてらにしようと思っていたこと。
これから一人で旅をするというのに、今まで通りの戦い方で通用するとはとても思えなかった。
問題なのは、一人でも闘えること。
最低限目標を達成するまでに生き抜くこと。
そのためには、支えたり、守ったり、溝浚いをすることをある程度止めなければならない。
『敵を倒す』
そのためには、攻撃力を持たなければならない。
それを一番に発揮できるものといえば、俺からしてもれば、これだった、という話でしかなく。
鈍ってないかを確かめるのに、これ以上ないほどの条件がぽろっと出てきてくれたもんだから。
「まあでも、それだけじゃあないんだけどさ」
もちろんそれだけが理由でこんなことをしているわけではない。
そんな個人的なことを理由に、この場に望んだわけではない。
そんな我欲で、こんな騒ぎを起こせるほど、俺という人間はできてはいないのだ。
「…………何故だ」
「あん?」
思案に浸り、歩みを止めて拳の握りを確認していたらだ。
そんな台詞がふと、耳に入り込んでくる。
その『あり得ない』という感情がマシマシな声の主に目を向ければ、あれだけいた人の壁、暴力の行使者たちの姿がすでになく。
本陣空っぽ、旗首残して―――壊滅状態。
それまで血気盛んでいたものたちが、落ち葉のようになって地面に転がっている。ピクリとも動かず、全員が意識を失っている。
そして残された男は、目の前の光景がもたらす事実に体の至るところを震わして、
「―――ふざけるな!!!」
―――怒っていた。
「ふざけるな! な、なんだこれは!? あ、あれだけ…あれだけいたんだぞ!!」
目の前の理不尽な光景に、素直に怒っていた。
ダールトン=スペルチナが、今回このようなことをした経緯を簡単に説明するのなら、その根源、嫉妬心と自尊心によるものだろう。
自分よりも劣るはずのものが、評価され。
男の自分よりも女であるはずのものが、評価され。
―――我慢がならなくなったのだ。
自分だってと、それを見せつけたいがために始めた挑発は、対象が変わり本来の目的を果たせなくなった。
代わりの相手になった男、ラインホード家と何らかの繋がりがあること男に勝つことで、あの生意気な女にせめてもの苦しみを与えたかった。
それが―――どうだ?
「ふざけるな! こ、こんな…こんなもの誰が認めるものか!!」
かき集めてきた兵は、全て無力化された。
それも、攻撃を受けてから拳、蹴撃によって返り討ちにあった。
しかも、どれもが一撃によるもの、どれもが的確に急所を貫いている。
それがまだ、ユルゲン・ハワードのような英雄ともいえる者であるのなら納得ができる。
だがそれをしたのは全く聞いたことがないような、平凡とも言えるような男の所業である。
「何なのだ…お前はいったい何なんだ!!?」
恐ろしく見えないことが何よりも恐ろしい。
脅威に見えないということがここまで恐怖に思えるなどと、そんな体験をすることになるなど考えもしなかった。
進行をやめてただ佇んでいる姿が、ここまで恐ろしい。
「くそっ! くそぉおおお!!」
もうなりふり構っていられない。
使わなくとも勝てると踏んでいたが、そんな余裕はもうない。
ダールトンはその奥の手に手を伸ばした。
焦燥に駆られた頭では、目の前の敵をどうにかすることしか考えられず。
事態はまた、別の局面へと移っていくのだった。
読了ありがとうございました。
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