リーズ・ナブルとKY、または敵対者
日朝に、俺、更新。
満を持して!
てなわけで三十三話投稿です。
式典のほうは概ね順調に進んでいた。
旨い料理に旨い酒、楽しい余興に場を盛り上げる音楽。
リティアの話を聞こうと集まってくる者たち、そのなかにいるいかにも粉を掛けてきそうな連中にそれとなく視線などで牽制を入れ、彼女の立場を侵さない程度に自己紹介をする。
俺の前歴が軍人であることを知ると、もしや関係者かと勘ぐる人もいたがそれはきっぱりと今回の件とは違うことを告げる。
ユルゲンを連れてきたことはリティアの功績となっている。あくまで俺は協力者であって、討伐には直接関わってはいない、ということになっているのだから。
せいぜいユルゲンに事態を知らせにいった程度、こうして彼女と共にいるのはそれが評価され、慣れない場所に立つであろう俺に対する気遣いでしかないこと。
そういったことをさも真実のように話していれば、話題がほしいだけの連中はリティアの寛大さに歓心し、さらには俺にもある程度配慮をしてくれるという感じだ。
そんな感じで人の波を捌いていたのだが、まあ空気を読めないというか、今回のことを気に入らない人物というのはいるもので。
それが権力的に上位のものだと、さすがに相手をしないわけにはいかないのだった。
「―――やあ、俺も交ぜてくれないかな?」
会話と料理を楽しんでいる俺たちを囲む集団の外から、その声は聞こえてきた。
その声の主の存在に気がついた者たちは、驚いたように、そして怯えたように次々と道を開けていく。
真っ直ぐに開いた人の壁は俺とリティアにその人物の姿をあらわにさせる。
「やあリティア君」
「…ダールトンか」
人の声としては最悪な類いだ。
男の貴族然とした佇まいに反比例するように、その声がなんとも気持ち悪い。気安い言葉が似合わない。
そんな男がこちらへと近づいてくる。
「いやはやよくやったものだね、君如きが」
「私だけの功績ではないことは周知のはずだが?」
「あんな雑兵どもに肉壁以上の価値はない。君だってそう考えて時間稼ぎに終始していたんだろう?」
粘りつくような悪辣さが、隠す様子もなくこちらを攻撃してくる。
ちょっと口開いただけでこうも人の神経を逆撫でできるなんて、こいつよっぽどだぞ。
「君の判断は実に正しい。自分では倒せない高位の魔物を野蛮な冒険者に倒させて、自分は安全な位置で高みの見物をする。実に賢いやり方だよ」
「…何が言いたい」
「よくやったと言いたいのさ。少ない労力で実に賢く事態を収拾して、君は俺たちよりも先に素晴らしい功績をあげることができた。おめでとうと言っておこうじゃないか」
周囲の視線にさらされながら、ダールトンという男はそれをまったく気にすることなく嘲りの言葉を重ねていく。
ひたすらに毒を吐くこの男は、どうやら彼女が自分よりも早く功績を認められたのが気に入らないみたいだ。それをこの場で堂々と言える精神が理解できないが、話の様子から察するに同じような時期に騎士になった奴なんだろう。
「その男も、金で雇った協力者なんだろう? 軍の情報を知っているのなら、あぁも迅速に動けたことにも納得できる」
「…つまり?」
遠回しの言い方に、さすがのリティアもイライラしているようで。
眉間にシワがより、醸し出す雰囲気に不穏なものが混じり始めるがそれに晒されているダールトンはまったく堪えている様子はない。
むしろその気色の悪い笑みを深めて、こちらに指を指しながら口を開くのだ。
「軍の上層部が下すはずの判断を無視し、独断専行した。このことを考慮せずに手放しで君のことを褒め称えるのは如何なものか、というかとさ」
いちゃもんつけてきたのはそのためだったのか。
つまりはまあ、リティアのやったことに対して不服ということか。
これはまあ、あれですな。
「…浅いな」
その根元にあるものに馴染みがある俺には、その程度の浅さに思わず言葉が漏れる。それは今まで沈黙を保っていた俺のこの言葉は、意図して無視していたであろうダールトンの気を引いたようだった。
「…今、なんと言った…貴様」
「浅いと言わせていただいた、気に障ったなら申し訳ない」
喧嘩を売ってきている相手に、俺も表面上は真面目な態度と言葉で応じてやる。台詞にはたっぷりと挑発の意図を含ませて。
「…誰にものを言っているのか分かってのことだろうな!」
「さて、そもそもどなたですかな? 自己紹介もなく初対面の人間の前に…なんとも失礼な方ではないですか、そうですよねラインホード嬢」
地位が下であることを存分に使わせていただこう。お前なんぞ知らんのだから、俺にとってどうという人間ではない。知っている人に聞こう。
「そうだな、お前は知らなくても無理はない。この男はダールトン=スペルチナ、私と同じ十人長で以前から何かと突っ掛かってくる傍迷惑な奴だ」
「君と同じ公爵家の人間だと言うことを忘れるな! だいたいだなぁあ!!」
公爵家のダールトン君は同じ階級にいるリティアにもっと言いたいことがあるようだ。
「―――女如きが! 騎士を名乗るなど烏滸がましいのだ!!!」
リティアをピシリと指で指し、この場でもっとも言いたいことをいったであろうこの男。
様々な悪感情に支配された顔は喜色に染まっている。それを向けられているこちらとしては本当に迷惑でしかない。
しかし、こいつはこの場がどんな場所かを忘れているようだ。
「―――それは僕の父の考えに、異議ありってことでいいかい?」
それは俺たちの頭上から聞こえてきた、この流れをぶったぎるに相応しいお方からの声であった。
この場にいた全員が、その声が聞こえてきた方向を見上げる。
入場口から登場されたのは、最近よく見た女性を傍らに侍らせた、これもまた最近御目見えしたことのあるご仁の特徴をもっている、紅い瞳の男性。
プリシア=ラインホードと共に現れたのは、この国で最も高貴な血統の継承者。
「来たばかりでね、詳しいことを聞こうじゃないか」
ジョナサン=ダボンナ=モリアーテナ。
この国の第一王子である人物が、何ともタイミングのいいところで現れてくれたのだった。
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