リーズ・ナブルときらびやかな世界というやつ
まあ、見れなくはないくらいにはなったよ。
そんな三十一話です。
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貴族社会というやつは、闇と光が同居してできている。
と聞いたことあるんだが、そんなもん常識じゃボケぇ、どこでだって人間がいれば笑いながらど突き合うような関係に発展しないわけねぇんだよ。
それでもその光ってやつが必要な時というのは存在している。平和な世の中においてはそういうことのほうが大切で、薄暗いことに関わりたいなんて思うようなやつは異常なだけだ。
でも、光があれば影ができることを否定してはいけない。
自然なことから目を背ければ、その歪さが己を蝕んでいくんだからな。
「―――栄えあるダボンナ王国の民達よ!」
普段は一般には解放されていない大きな広場にて、そこを埋め尽くすようにひしめき合っている民衆に向け城の出っ張りから呼び掛けるのは、我らが王様である。
「今日こうして集ってもらったのは他でもない! 皆も見たであろう魔物のことよ! 勇敢な者たちの働きによって国に迫っていたやもしれんこの危機を打ち倒すことができた!
彼らがその勇敢な戦士たちだ! その偉業を大いに称えよ!!」
王様の声に従って広場に作られた壇上の上に、着飾った様子の支援部隊の面々、ユルゲン、リティアが出現する。
それに沸き上がり歓声をあげ、彼らのことを口々に称賛の言葉を投げ掛ける。普段は日陰の存在であった元の職場の奴等は嬉しさで泣きそうになっているのがここからでも見えるくらいだ。
リティアもまた誇らしげに、しかし貴族然とした凛とした姿を見せている。
問題はユルゲンのほうでこの中で一番目立っている。その目立ち様は同じ背丈の総隊長なんか目じゃないくらいだ。
「この喜ばしい功績に、我は国をあげて報いたい。皆でこの喜びを共にしようではないか! 国庫の一部を解放し、盛大な催しを用意した! 大いに飲み大いに食い、大いにこの事を祝おう!!
勇敢な戦士たちと共に永久にこのダボンナ王国に栄えあれ!」
『栄えあれーーー!!!』
『ダボンナの戦士に!!!』
『王と共にーーー!!!』
王の宣言により、場の空気は最高潮へと達した。
民衆は歓声だけでは飽き足らず、口笛や踊り出すものまで出てくる始末だ。それは王様が城に引っ込んでもなかなか止むことがなかったのだった。
「…」
民衆の声に応えるように手を振っているあいつらの姿に、俺はどことなく皮肉なものを感じてしまう。
こうして表に立っているが、それは彼らの本来の仕事ではない。俺たちは裏方でのやりくりを専門にしているのだから。
そのことをきちんと理解しているのはいったい何人くらいいるのかなんて心配して、もう関わることは当分ないのにそんなことを思ってしまう自分に苦笑してしまう。
「―――ここにいたか、リーズよ」
そんな風に思考に浸っていると、俺は呼ぶ声が背後から聞こえた。
「これはラインホード公爵、わざわざ御足労掛けて申し訳ない」
「いや、構わん。こんな端の方で何が見えるのか気になったのもあるからな。……その様子だと余程叩き込まれたようだな」
「ええ、皆さん当家に恥を掻かせるわけにはと張り切られておいでで、久々に腕が鳴るなどと」
「よい、もうやめよ。式典ではともかくこのような場でお前のそんな態度を見たくはない。いつものと差がありすぎて気分が悪いわ」
「……すいません。なんか染み付いちゃってて、条件反射みたいになってたみたいです」
だめだ、耳の奥から『女王様とお呼び』とか聞こえてくる。これ絶対違うこと教え込まれているぞ。
震えが残る手で顔を揉み解せばそれなりに落ち着いて元の調子になんとか戻ってくる。
「…それで、わざわざ呼びに来ていただけたのは何かご用だったからでは?」
この人が俺を呼びに直接くるということは、それだけ重要なことだと思うのだが、いったいなんなんだろうか。
「…この後の式典では多くの貴族が参加することとなっている。事態をよく知らぬような輩もいるだろう」
「あー、娘の男避けになってほしいってわけですね」
「頼めるな」
「勿論です」
そりゃあこんな好機はないわな。ただでさえ王族に連なろうかって人が家族にいるんだ。その妹と縁を結んでおきたいと考える奴らは存在するだろう。
その防波堤を俺に頼みたいということなのだ。
「友達が困るような事態は避けたいですしね」
「…もっと頼めるような者がいればよかったのだが、私もいつも側にいてやれるわけではなくてな」
「構いませんよ。女性のエスコートは男の誉れというやつらしいですし」
「…くれぐれも気をつけろ。娘が騎士というのを快く思わん連中もまだいる。今回の件でいらぬ手出しがあるやもしれん」
「そこらへんはまあ、適当にやっときます。指一本触れさせませんよ」
その俺の台詞に納得したのか、軽く頷いて同行を促してくる。
身を翻した彼の背中についていき、式典が開催されるであろうホールの手前のところに到着した。
「…ここでリティアを待っていろ。他の者と違って着替えに時間が掛かる。直にクラーグが連れてくるだろう」
「承知しました」
ちなみにクラーグさんは俺にマナーというトラウマを仕込んだあの執事だ。あの人実は使用人たちを束ねるすごい人で、マルチな才能でどんな場面にも対応できる万能執事なのである。
その片鱗を俺は見たはずなんだが、やっぱり思い出せなくて脂汗が出てくるのだどうしてだろう。
「…私は先にいくが……」
「ん? 何か他にありますか」
言い淀んだ内容が気になり聞き返したのだが、そのままこちらの姿を上下に見回される。
「…変わるものだな」
「そりゃあ…ねぇ?」
あんたの指示でもあるんだけど、これ。
そのなんとも言えない視線に、俺は手を広げてみせて応える。
今の俺はいつものボロい服装から、この式典に参加しても問題ないくらいには整っている格好をしている。
ほとんど一日で縫い上げたらしいこれは今まで着た服の中でダントツの着心地のよさをもっており、動きに全く支障がない。
色合いも俺の髪の色に合わせた落ち着いたもので、派手さはなくともしっかりとした作りであることが随所からわかるような、藍色のものとなっている。
「…まあいい。それでは頼んだぞ」
「お任せください」
この人の念押しにきっちりと返答し、式典の場へと姿をくらましていくダグラス氏。
俺も俺で入場の邪魔にならないように控えていれば、人の波の中からしばらくして目当ての人物を遠間から発見するのだった。
クラーグさんを背後につれた、外とは違った格好をしたリティアがこちらに来るのが見えてきたのだった。
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