リーズ・ナブルと上司と話す
どうもアゲインストと申します
第三話となります
よろしくお願いします
今日は午後六時にもう一話投稿いたします
支援部隊。
それは戦場で起こる様々な事態に対応するために結成された部隊である。
簡単に言えば雑用部隊だ。
当然の如く扱いは悪い。
戦うことを前提とした部隊ではないので、前線で戦う兵士や騎士、後衛の魔法士にはとことん下に見られている。
まあ炊き出しとか積極的にやってたし、そもそも戦闘に参加するような部隊と思われていなかったということもあるだろう。
「…はぁ~」
そしてここが、そんな日陰の部隊である俺たちの兵舎だ。
全体的にボロい。
狭い敷地を何とか活かすために増築を自分たちで行い、イビツな建造物と化している。
そんな建物の中でもマシな外装をしている隊長室へと俺は足を進めていたのだった。
「失礼します」
数度のノックの後、室内から聞こえてくる声に従って扉を開ける。
掃除は行き届いているはずなのだが、何となく埃臭いような風が体に当たり少し不快な気持ちが込み上げる。家主の性質が滲み出ているのだろうかと邪推してしまう。
「…ぁあ、君か」
この上司を一言で言えば不衛生。
ヨレヨレの軍服、ボサボサの髪、落ち痩けた目元が実に不健康である。たぶんこの人風呂にも入ってないぞ。なにやってんだあいつら、留守は任せたはずだぞ。
「またですか」
「…あはは……まあね」
『プライオス=オルスデッド』は元は真面目な男であったと聞く。
派遣争いに巻き込まれた結果、閑職に追いやられてこの支援部隊へと流されてきたそうだ。
それ以来この部隊を率いてきたが、それでこうなってしまってはどうにもならん。また籠りきりで書類整理などしていたのだろう。
「ハナセに世話を任せたはずですがどこに?」
「ええと…はは、ごめん」
「…またですか」
逃げ出したなあの野郎。面倒だからといって投げ出していくとは、これで何人めだ。
こういう人だというのは周知のことだというのに、この人の負担を軽減すればそれだけ自分達が楽に動けるはずだというのに。
いくら雑用部隊であっても、働く以上は仕事をやり易くすればよいものを。
「…お気をつけください。あなたは俺たちの上官なんですから」
「ははは…」
それでも言わねばならないことはあるのだが。
「後で奴らに言っておきますが、その前にこれを」
「ん?」
指示書を差し出して内容を確認してもらう。上司はそれを読み進んでいくうちにただでさえ悪い顔色が青くなっていく。
「こ、この内容は…!?」
ガタンと音を立てて立ち上がる上司。
「リーズ君いったいなにをしたんだい!!」
「騎士に怪我人を出しました。結果的に」
「嘘ぉおお!! なにやってんの!?」
うわぇあああああ!!!
などと、とてもではないが貴族が出すようなものではない驚愕の声を出して狼狽える彼の姿にそこまでかと思ったりする。
「いやいやいや無理だって! 君が抜けたらこの部隊崩れるんだけど!?」
「何を仰いますか。俺程度が抜けたぐらいでそんなことになるわけ無いじゃないですか」
「いやいやいや何言ってんの!? まともな人材は君と私の二人しかいいないじゃないか!」
「さらっとご自分をまともと言わないでください。あなたは仕事しかできないでしょうが。この生活力皆無のダメ男が」
「辛辣っ! なんて辛辣なんだリーズ君!!」
まったく、そもそもここにまともな人間なんていないでしょうが。
「いいですか。ここにはそんな上等な人間なんていません。あなたも俺も含めて全員です」
ですが。
「あなたにしかこの部隊を任せられないんですよ」
「リーズ君…」
滅多に見せない真剣な顔をしてみせればほろりと表情を崩す上司。ちょろい。
「俺はここを去りますが、ここでのことを忘れたりはしません。―――お前たちも分かったな」
「ほえ?」
その呼び掛けに反応して、扉の外に待機していた出歯亀どもがそろそろと室内に入ってくる。申し訳なさそうにしている奴らの中に憮然とした態度の奴やマジかよ、みたいな顔をした奴もいる。みんな支援部隊の部下や上司だ。
「…本当に行っちまうんですか?」
「その通りだハナセ。しかしよくも顔を出せたなこのサボり野郎」
「あちゃ~!」
それを今言いますか、というハナセを周りの奴らが睨む。食事は出していたようだから全くやっていなかったわけではないだろうが、サボりはサボりだ。
「任せるぞ」
「え?」
だが、こいつぐらいしか後を任せられない。俺の下について学んだことはそれなりにあるだろう。それを活かしてなんとかしていってくれよ。
改めて、全員を見渡す。
長年付き添った奴や、そこまで馴染みがない奴もいる。みんなここに流れてきた訳ありどもだ。
「全員に告げる。俺はここを去るが、故なきことだ。気にせずいつも通り過ごしてくれ。第二部隊はハナセに任せる、よく従うように。総隊長の世話もハナセに一任する。
そして最後に」
一人一人、しっかりと目を見て話す。これで最後だと思うと、なんだ、少し真面目な気持ちになってしまうな。平民時代では思いもしなかったことだ。他人のためにと考えることなどな。
「お前たちは誇りなどなくここにいるのかもしれない。それはそれで構わない。ただ、仕事に関してだけは誇りを持っていてくれ。自分の成すことがどれだけちっぽけでもだ。
しっかりと足元踏みしめろ。一歩の僅差で勝て。最後に勝てばいい。
それが妥当な、俺たちの戦い方だ」
「全隊員、第二部隊元隊長―――リーズ・ナブルに敬礼!!」
プライオス総隊長の号令で、その場にいた隊員が全て敬礼を行った。俺もそれにならい、敬礼を返す。
いい顔だ、みんな。その顔が出きるならこれからも大丈夫だろう。
「リーズ君。これを」
プライオス隊長が差し出してきたのはサインのされた除籍届と、もう一枚の紙だ。
「君にせめてもの贈り物だ。これがあればどこにいってもそれなりの評価を貰えるだろう」
それは軍人としての功績を記したものだ。小さいものだがそれなりに重ねてきた実績がそこにある。
「ありがたくいただきます。プライオス=オルスデッド総隊長、あなたに感謝を」
「こちらこそだリーズ・ナブル。君の名を忘れない」
ここでやるべきことはこれで終えた。
隊員たちを背に、俺はこの場所から姿を消した。
次は人事部だ。
読了ありがとうございました
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