リーズ・ナブルと令嬢騎士
どうもアゲインストと申します
第二話です
よろしくお願いします
公爵家次女、『レティア=ラインホード』
御大層な肩書きは伊達ではなく、ラインホード公爵家はこの国でも大きな発言力を持つ大貴族だ。
覚えめでたく王家との婚姻を間近に控えた姉と違い、この次女様はなかなかお転婆として有名である。
「おい、話があるといってるだろう?」
御美しいご尊顔を不快げに軽く歪ませている。そんな顔するくらいなら正直話しかけてほしくないのでノーセンキューな絡みなんだが。
ほれ見ろ、後ろから来ていたあの人。
明らかにこの先に用があったはずなのに引き返していくじゃねぇか。一瞬にして身を翻したじゃん。危険を嗅ぎ付けたって顔じゃん。
正解だ馬鹿野郎。
「…これはどうもラインホード嬢。私のような平隊員のところにいったいどんなご用で?」
くやしい、それでも話しかけちゃう。だって無視したらもっと面倒なんだもん。ていうかどうして俺だと分かったんだ? 面識はそこまで無いはずなんだが。
まあ目星はついている。どうせ今回のことだろう。
ヘンブロ森林はその大きさと王都との微妙な距離感から、生存競争に敗れた魔物の出現に気を付けねばならない一方、奥の方にはちょっと冗談では済まないような存在がいたりする危険なところだ。
当然ちまちまと森の外に出てくる奴らを討伐するのが常駐部隊の主な任務なのだが、今回はそいつらでも手こずるぐらいに大量のゴブリンが森から出現していたのだ。
そして急遽派遣された部隊の隊長が、この女というわけだ。
「平民ごときが手間を取らせおって。生意気な」
「…ゴブリン掃討作戦でのことでしたらすでに上官よりお叱りは受けておりますが?」
「ふん、当たり前だ。貴様がおかしなことをしなければ私の部下が傷を負うことはなかったのだからな」
「自分の説明不足です。申し訳ありませんでした」
おかしな事とは失礼な。これでも数少ない俺の特技だというのに。
確かに俺の支援魔法は他とは少し違うが、そこまで嫌う事はあるまいに。そもそもいつもの奴らならそんなこともなかった。
「貴様がどう思っているかは問題ではない。我らは新設の部隊ゆえいち早く技量を高めるための此度の参戦であった」
いや、欲しいのは功績でしょうが。
「それがあのざまだ。いいか、良く聞け」
腕を胸のあたりで組み、その視線は極寒と錯覚するほどだ。態度からして上から目線であるのを殊更に体で表現してみせる。
なんとも言えんね、こういうのはいくつになっても辟易させられる。
「余計なことをしたお前には罰を受けて貰わねばならん。追って連絡するが覚悟しておけ」
「…仰せの通りに」
上位者に対する最大級の礼をして、この場を納めることにした。どうせもうこことはおさらばなのだから、できない約束でないかぎりいくらでも口約束してやるわ。
「……ふん、不甲斐ないクズめ」
最後まで侮辱し倒してさっさと去っていってしまった。面倒な相手に目をつけられたがこの除籍届を出してしまえばあんなのとこれ以上付き合うこともない。
廊下の先に姿が消えるまで頭を下げ続け、あの女が完全に気配を遠ざけるまで体勢を維持し続けた。
「……よし、いくか」
厄災は去った。
「おさらばおさらば……めんどくせぇ」
この面倒事にもそれで片がつく。
そう思いながらも、心労で遅くなってしまった足取りで目的地に向けて歩いていく。
そこは長年連れ添った連中がたむろしている、俺の愛しい愛しいクソったれな職場であった。
読了ありがとうございました
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