16 ミッションついでに誘拐されよう
「そうだ、美味しいパン屋さんがあるの知ってるよ?一緒に行かないかい?」
「え!どこにあるの!?」
(そうやって子ども攫うんでしょ、常套手段だよねぇ~)
笑顔で男と話しているが、コノハはこの男をじぃーっと観察していた。
もちろん悟られないように。
だが、それも飽きてきた。
(子どもだからって……油断しすぎ)
この男、すごく分かりやすい。
「あっちの方だよ、いっしょ」
「あ、もう太陽があんなに低くなってる!早く帰んなきゃ!おじさん、バイバイ!」
コノハは男の声を遮って言うと一方的に別れを言って、くるりとUターン。
子どもらしく、たったか走った。
男はおそらく二十歳後半くらいだ。おじさんはきついだろう。
もちろん、おじさん発言を何も考えずに言ったのではない、挑発のためだ。
(これで私、攫われるかな~)
あいつを捕まえるために面倒だが、とりあえず攫われることにしたのだ。
面倒事嫌いのコノハがなぜ協力するかというと、あいつと話している時にギルドマスターの話を思い出したのだ。
『なんか最近、子どもが居なくなる事件が多発しているらしい。お前はまぁ、大丈夫だろうが、一応気をつけておけ』
後半の言葉にちょっと「貴方にとって私はどんな存在なのですか」と思わなくもなかったが、そこは忘れて。
十中八九、子どもを攫っているのはあいつの仲間だろう。
さすがに、子どもを見殺しには出来ないので、子どもを助けるついでにあいつの組織ごと潰そうと考えた。
組織ごと潰した方が後々楽なので。
せっかく向こうが、攫ってくれるのだ。これを使わない手はない。
一旦逃げたのはこうすることによって向こうがどうでるかを見るためだ。
「あ、来た来た」
考えている間に後ろから三人ほど彼女を尾行するものが現れた。
(概ね予想通り)
コノハは人通りの少なく細い路地に入る。
誘拐犯としては最高の状況だろう、ターゲットがわざわざ人の目の少ないところに行くのだから。
………そのターゲットがコノハでなければ。
(鬘は暴れても取れないようにしたし……、あ、マジックボックス捕られないように収納魔法に入れておこう……、これでいいか)
マジックボックスの性能がばれるのはごめんだ。
コノハにとって、攫われることより、ミッションである。
……ミッションは地味に行われているのだ。
自分がばれないようにしないとならない。
それが一番の目標。
(まぁ、頑張ろう)
こんな状況でもコノハはコノハだった。
……というか、竜を見た時もあまり動揺しなかったコノハが誘拐程度で動揺するはずがなかった。




