第99話 7つの影
エスカよ、貴様は何処まで予見出来ていたのだ…
コウエンの表情には、怒りが満ちていた。
他に誰も居ない部屋の中。
コウエンは一人、頭の中を整理していた。
久し振りにわが家へ戻って来た主を、シュウキ達は出迎えた。
もちろん、両手の事は伏せていた。理由は伝える必要が無いからだった。
しかし、報告は受ける必要がある。
部屋へ戻った後、シュウキに昨日までの主要な出来事を報告させた。
が、その中に問題があった。
ジンキが消されていた。
しかも、ホウキのエンセキも一つ破壊されていた。
念のためにと、ホウキの中に入れていたもう一方のエンセキが、こんなにも早く役に立つとは思いもしなかった。
先日のエスカの件といい………
人間ごときに何たる様だ。
現状で、ミツキを増やす事は難しい。
だが、ヒトツキを使って『生気』を集める事は出来る。
それは、シュウキがアカツキを出せる事が分かったからだ。
コウエンの口元が緩む。
あの日。たった一度、術を唱える時に立ち合っただけで、よもや習得しているとは、正直驚かされた。
人間同様ミツキの能力も個体により様々だという事か。
シュウキをきつく叱りはしたが、あれは使える。
コウエンは一度目を閉じ、そのまま思案する。
暫く経った後、目を開けシュウキを呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
シュウキがそう尋ねると、
「うむ。シュウキよ、ミツキ全員にここへ集合するように伝えよ。今直ぐにだ」
「承知しました」
理由を聞く事もなくシュウキは一礼し、直ぐさま部屋を後にした。
そして、数分の内にシュウキとその他のミツキが集合した。
その影は7つあった。
もちろん、明かりが無いため顔は見えない。…人間には。
「集まったようだな。さて、周知の事とは思うが、同胞のジンキが人間によって消滅された。ジンキにはガクテイと共にエンセキの回収に当たっていたが、それも変更を余儀なくされてしまった」
「全くだ。人間ごときによ。やられるなんて、ジンキもヤキがまわったな」
「そうだな、ガクテイ。相方がいなくなって寂しいか?」
そう聞かれたガクテイは、
「はっ。そんな事ある訳ないだろ。まぁ、…ジンキをやった奴は、ただじゃすまさねぇ」
「そうか。それは、頼もしい限りだ。だがそれは暫く我慢してもらうぞ」
「何だって!直ぐに行かせろよ!」
納得出来ない様子で、ガクテイがそう叫ぶと、
「黙れ、ガクテイ。命令だ。それとも…私の命令が聞けないか?」
と、コウエンは言い放った。
その言葉はとても冷たく、殺気が込もっていた。
部屋の空気が張りつめた事を感じたガクテイは、
「分かった。従う、従うよ。指示があるまで手出しはしねえ」
と、慌てた様子でそう答えた。
「分かればよい。では、話しを戻そう。これから当面『エンセキ』の回収は、シンロウとホウキ。それと、シュウキとバコウで行う。よいな?」
そう尋ねられた四名は、一様に頷く。
「ちょっ…」
ガクテイは異を唱えようとしたが、
「よいな?」
再びコウエンが、そうガクテイの方を見据えてそう尋ねると、彼は無言で頷いた。
「よし、ガクテイよ、心配するな。お前にも仕事はある。それとジャオツ、お前にもな。まあそれは、後程個別で伝える」
「珍しいことで。私にも仕事があるのですか?」
ジャオツと呼ばれた影がそう答えると、
「そうだ」
と、短くコウエンは言い続けて、
「話しは以上だ。一先ず、ジャオツだけ残り、後は解散せよ」
そう告げられ、皆一礼し、部屋を後にしようとする中、
「コ、コウエン様」
「何だヨウボ?」
ヨウボと呼ばれた影が、コウエンに近付き、
「お、俺は、何したらいいですか?」
と、尋ねた。
「ヨウボ!お前の仕事は決まってるだろうが!」
ガクテイが、声を荒げてそう言い放つと、
「よさぬか、ガクテイ」
「だってよ…」
「よいから下がれ。質問には私が答える」
そう言われ、ガクテイは、渋々退室した。
「ヨウボよ。お主の仕事はいつも通り、皆の武器を整備せよ。あの仕事はお主以外に任せられぬ大事な仕事だ。よいか?」
そう説明されたヨウボは、
「は、はい。分かりました」
「そうか」
「で、でも、コウエン様」
「何だ」
「そ、外で、あそびたいです」
「…そうか、いいだろう。だが、仕事はしっかりと頼むぞ、ヨウボ」
「は、はい。分かりました。あ、ありがとうございます」
そう言うと、ヨウボはお辞儀をした後、部屋を出て行った。
『やれやれ…あれも個性か……』
コウエンは言葉には出さず、ヨウボの後ろ姿を見つめながらそう思った。
『まあよい。それも含めて上手く使えるのはこの私だけだ。………エスカよ、貴様の思い通りになど私はならんぞ…………決して…………………』
コウエンは一人、力強く頷くのだった。
そして、部屋に残ったのはコウエンとジャオツだけとなった。




