第85話 安堵と緊張
アカツキが消え元の景色が戻ったのだが、その場にいる誰もがその事を喜んでなどいなかった。
ただ一人を除いては。
「アンジ、タイラさん…勝ったんだよね?」
「ああそうだな」
「でも…ホウキ、生きて帰っちゃったね」
「…」
「どうしてだろう。何で、あのジンキみたいにならなかったんだろう…」
首を傾げながら、トウジは俺に質問してきた。
が、
「…」
俺には、なんとも答える事が出来なかった。
「ねえ、アンジってば!」
何も喋らない俺にしびれを切らしたトウジは、
「園長、どうしてですか?」
と、側にいた園長に答えを求めた。
しかし、
「…」
園長もまた、無言で返したのだった。
だがそれは、俺とは違う理由での事だった。
良く見ると、園長の体は小刻みに震えていた。
トウジもそれに気付いたらしく、
「園長?大丈夫ですか?」
「…」
「え…ん長?」
そうトウジが尋ねた時だ。
「タイラァ~~」
そう言って、園長は突然タイラさんの方へ向かって走り出した。
その声に気付き、タイラさんがこちらへ振り向き、自分の方へと駆け寄ってくる、園長に驚いていた。
そして、次の瞬間。
園長はタイラさんを抱き締めていた。
皆はその光景に唖然とする。
しかし、園長は気にする様子もなく、タイラさんを強く抱き締めていた。
そして、
「タイラ。ありがとう。良く…やってくれた」
そう言って、大粒の涙を流したのだった。
「い…痛いです、ジンさん」
その言葉で、園長は我に返り、
「ああ、すまんな。興奮してしまってつい」
と、言ってタイラさんから離れたのだった。
「どうしたんですか?園長」
俺達は二人の元へ駆け寄り、園長にそう尋ねた。
「お前達、分からないのか?」
園長がそう聞いてきた。
「だから、何がですか?」
トウジはそれを質問で返した。
「見えなかったのか?あのホウキから出ていった光を…」
「あっ!」
園長の言葉に俺達はあることを思い出し、声を上げ互いに顔を見合わせた。
「良くやってくれた。タイラ…これで、カイナが…カイナが……」
園長はそう言って再び涙を流した。
「いや、まだ分からないですよ。ジンさん。ヤツはまだ生きていたんですから」
と、タイラさんは複雑な表情をしながら園長に答えた。
確かに、光がひとつホウキの体から飛び出したのは間違いなかった。
しかし、あれがカイナの物かどうかは、誰にも分からなかった。
しかし、
「いや、あれは…間違いなくカイナだ。私には分かる。分かるのだよ…思い込みなどではなく、感じたのだよ。あの光にカイナの存在を…」
「…そうですか」
タイラさんもそれ以上は何も言わなかった。
『カイナが帰って来る』
その会話を聞いていた俺は、自然と顔がほころんできた。
それはトウジも同じだった。
「もうあいつらに嘘付かなくていいんだな」
「…そうだね」
そう言って俺も抱き合って喜んだ。
と、その時、
「お前達気を付けろ!」
離れた場所からリョカさんがそう叫ぶ声が聞こえてきた。
ジンキ達もいない、この状況で一体何に気を付けろというのだろうか…
俺達はそんな気持ちでリョカさんの方へと振り返った。
しかし、叫んだ本人はこちらを見ていない。
全く違う場所をにらんでいた。
「えっ!?」
トウジが驚いたように声を上げた。
彼もまた、リョカさんと同じ場所を見ていた。
「どうしたって言うんだ?トウジ」
トウジは答えず、指差した。
その先を目で追うと…
「あっ!」
そこにはジンキの崩れた体があった。
もちろん、それだけで驚く訳がない。
いつの間にか、その側に見たことのない人影がまた一つそこに増えていた。
人なのか…?
それとも…。
皆の顔から笑顔が消え、再び緊張が走る。
離れていて顔も良く見えない。
が、どうやらジンキの事を見ているようだった。
俺は、その人影から目を離し、入り口である門を見た。
…開いている事を期待して。
だが、その期待は容易に裏切られた。
門はしっかりと閉じたままだった。
ということは、あの人影…あれは…人ではないという事だ。




