第83話 譲渡
倒れているジンキの背中に亀裂が走る。
一つ、また一つ。その数は無数に増えた。
そして、次の瞬間。
ジンキの背中が大きく弾け、中から幾つもの光りが夜空へ飛んで行った。
『あれは、なんだろう?』
いや、そんな事よりも…、先程までの攻防からは、考えられないほど、あっけない幕切れにアンジ達は、ただただ驚くばかりだった。
「前に、アンジからは聞いていたけどさ、リョカさんて…ホントにすごいね」
驚きと感嘆入り交じった表情をしたトウジがそう声を漏らした。
それに対して、俺は、
「ああ」
と、短く返事をしただけだった。
実際にリョカさんが戦っている姿を見たのは、前の時を含めて二回目なのだが…
「やっぱりすごいや」
気付けば俺も、トウジと同じ様な事を漏らしていた。
前も、そして今回も、結局一撃で倒すなんて…
それに、あの赤い靴…
「ハクさん、リョカさんが履いているあの赤い靴は何ですか?」
と、俺より先にトウジがハクさんに尋ねた。
「ああ、あれね。あれは、『セキサ』だよ。覚えてるかな?」
「もっ、もちろんです」
「じゃあ、あれが、アカアシ…なんですね!?」
「そう、あれがそうだよ」
俺達は、顔を見合わせた。
トウジは、目を丸くして驚いていた。
きっと、俺も同じ様な顔をしていることだろう。
戦いを終えたリョカさんが、ゆっくりとこちらへ向かって歩き始めていた。
その事に気付いた俺は、再びリョカさんに目を移した。
…正確にはその左足にだ。
『あれが、アカアシ…俺の父さんが使っていた…』
「どうした、アンジ?」
気付けば、もう目の前にリョカさんが立っていた。
「ボーッとして。ちゃんと見てたのか?」
そう聞かれた俺は、慌てて、
「もっ、もちろんです!ちゃんと見てました」
「そうか」
そういうと、リョカさんはおもむろに、今まで履いていたアカアシを脱ぎ、
「じゃあ、もういいな。アンジ。これは、今からお前の物だ」
「…えぇっ!?」
驚く俺に、リョカさんはそれを投げ渡したのだった。
「確かに渡したぞ、アンジ」
「渡したぞって、無理です。リョカさん!俺には使えません。リョカさんが使って下さい 」
そう言って俺は、リョカさんにそれを返そうとした時、
「何言ってんだアンジ。使えないもなにも、俺は、お前の親父にそれをお前に渡してくれって頼まれてたんだ。使える使えないは、関係無い。それは、お前が持っておくんだ」
「でも…」
「それにな、アンジ。俺はもうそれを使えない。いや、本来の力を発揮させる事は出来ない」
「えっ?どういう事ですか?」
「…まあ、詳しい事はまた後でな。それより、ハク」
「なに?」
「これ…治してくれ」
リョカさんは、自分の左足を指差しそう言った。
不思議な事にリョカさんの左足の足首から下には包帯の様な物が巻かれていた。
そしてそれが真っ赤に染まっていた。
「あらら。また、今日は派手に…」
リョカさんに近付きながら、ハクさんはそう漏らした。
「いいから、早く、頼む」
「分かったよ」
そう言って、ハクさんはリョカさんの左足にそっと触れた。
「…これは」
ハクさんは、リョカさんの顔を見た。
「いいんだ。それより早く、ハク」
「そう…分かったよ。じゃあ、少し我慢してね…」
「ああ」
俺がいつもやってもらっているように、ハクさんは、リョカさんの患部に手をかざし、治療を開始した。
俺とトウジは、それをただ、じっと見つめていた。
その事に気付いたリョカさんは、
「お前ら、いつまで見てんだ。俺の方はいいから、あっち見てろ」
と、まだ戦っているタイラさんの方を顎で差した。
「しっかり見て、勉強しろ。生の戦いなんて、そうそう見れるもんじゃないんだからな」
「そうだよ。君達。こっちは大丈夫だから、気にしないで」
「あっ、はい」
「分かりました」
俺達は、慌てて視線をそちらへ移した。
すると、俺達から少し離れた場所で静観している園長の姿が目に入った。
ここでは、ばつが悪いので、俺達はそこへ移動した。
「…園長、タイラさん大丈夫ですか?」
俺がそう尋ねると、
「おお、アンジか。なに、心配無い。あれも、もうすぐ終わるぞ…。だから、お前達しっかり見届けるんだ。事の行く末をな」
「はい。そうします」
それ以降、その戦いが終わるまで、俺達は、一切口を開く事はなかった。




