第80話 感嘆と悲愴
『やっぱりすごいね、タイラさんは…』
日中の訓練の後に、トウジが掛けてきた言葉を、俺は今、思い出していた。
俺は、こんなに凄い人と毎日訓練をしていたのか。
それに、やはりというか、リョカさんも…。
「二人共、やっぱり強いね」
俺の隣にいた、トウジがそう呟いた。
「…だな」
俺はそれ以上言わなかった。
目の前では、先程からリョカさん達と、ジンキとホウキとの攻防が繰り広げられていた。
どちらも、一対一で戦っているが、
「リョカさん達が押してるんですよね?園長」
トウジがそう尋ねると、
「見ている限り…そのようだな」
園長はそう返事をした。
確かに、俺から見ても、リョカさん達が押してるようにみえた。
先程のリョカさんとジンキのやり取りを聞く限り、リョカさん達と対峙しているのは、コウエンの仲間のようだ。
つまりは、敵。
しかし、俺が知っている敵は、ヒトツキだけだったのだが、
「あいつらは、何者なんですか?」
気になって、俺は園長に尋ねた。
どう見ても、俺達と同じ容姿をした人間にしか見えない。
ヒトツキとは、明らかに違う。
全く違う。
「以前、お前達に話をした、過去の話を覚えているか?」
「もちろんです」
俺は頷き答えた。
「その時、『ヘイシ』という名前が出てきた事も、覚えているか?」
「…はい。忘れる訳がありません」
その名前は、きっと俺以上にトウジにとって、忘れることが出来ないものだと思う。
「そうか…これは、私の推測だが、奴等は、そのヘイシと同じ部類にあると思う。つまり、ヒトツキとは比べ物にならない程強いミツキではないかな」
「あれが…そうなんですか?」
「あくまでも、私の推測だがな」
「それにしては…」
「そう…あまりにも、力がない。いや、リョカ達が強いのかもしれんが…どうも、腑に落ちん」
園長は納得出来ない様子でそう話していた。
「ジンさんは、多分間違っていないと思いますよ」
そう言ったのは、ハクさんだった。
そして、こう続けた。
「話しの流れからして、彼らがコウエンの手下。ミツキであることは、間違いないはずです。ただ」
「ただ?」
園長が尋ねる。
「違うとすれば、あのせいでしょう」
ハクさんはそう言って、空を指差した。
その先にあったのは、暗がりに浮かぶ月だった。
「彼らは、あのせいで本来の力が発揮出来ないのではないですかね」
「そうか…そういうことか」
園長は、納得したように頷く。
「アカツキじゃないからってことですか?」
トウジがそう尋ねると、ハクさんは、
「きっと、そうだと思うよ」
と、答えた。
「じゃあ、リョカさん達、あいつらに勝てますよね?」
俺がそうハクさんに尋ねると、
「それはまだ分からない。けど、あの様子なら大丈夫じゃないかな」
何か含みを残したような返事が返って来た。
アカツキも出ていないのだから、何も問題ないはずなのに。
そもそも、アカツキが出る時は、色々な条件が揃うはずだ。
あの時計が止まり、街灯、家屋の照明が消える…
今日はそれがない。
何も心配ないはずなのに。
ハクさんは何を心配しているのだろう?
俺は一人、首を傾げる。
その時、
「クソ~~~ッ」
辺りに怒声が響き渡った。
その声を発したのは、ジンキだった。
「おいおい、どうした?急に叫んでなんかして?」
剣の手を緩めることなく、リョカさんがそう尋ねる。
「この私が、貴様…人間ごときに、手間取るはずないのだ!」
「はぁ~…現実を見ろよ」
ため息混じりにリョカさんが答える。
「まっ、もうすぐ終わるから、辛抱しろって」
「貴様ごときに、貴様ごときに~!」
防戦一方のジンキは、そう何度も繰り返した。
無言ではあるが、ホウキも同様の状況だった。
しかし、次の瞬間、状況は一変する。
それは、その場にいた皆が感じた。
皆、一様に空を見た。
「おぉ、コウエン様…」
ジンキは、感嘆の声をあげる。
「そんな、まさか…なんで」
俺にはそれが理解出来なかった。
あろうことか、月が赤く浸食され始めていたのだ。
辺りに変化はない。
いつも通りなのに…
ただ月だけが、アカツキへと変化しようとしていた。




