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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第一章
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第8話 黄色い刀

  「おい、あんた。頼みがある」


  ヒトツキの前で刀を構えて立ったタイラは、後ろを振り向かず、背後の男に声を掛けた。


  「な、なんですか?」


  声を震わせながら、男は問い返す。


  「俺達が、あんたらを助けてやる。だからお願いだ。頑張って壁際まで下がってくれ」


  「俺…達?をですか?」


  他の二人はもう死んでいるはずなのに、自分達三人を助けると言われ、男は困惑して問い返す。


  「質問は後だ。とにかく下がれ!」


  タイラに語尾を荒くしてそう言われると、男は言われるがまま、尻餅をついた状態で後退りをして壁際まで急いだ。


  「よし。そうだ。もう少しの辛抱だから、そのままそこで、動かないでくれ」


 タイラは、頭だけチラリと後ろを振り向き、男にそう言った。


 男も無言で頷いたが、その時にはすでにタイラの頭はヒトツキの方を向いていた。


  目の前にいるヒトツキを倒さない限り、後ろの男も倒れている二人も助けられない。


 もちろん自分達も生きて帰れない。


 タイラは刀を構えたまま、ヒトツキを睨む。


  一方、ヒトツキはというと、お構いなしとでもいうように、微動だにしなかった。


 ただ、頭だけは男からタイラの方へと向きを変えていた。


 どうやら標的を変えたようだ。


  両者が睨み合っていたその時、不意にヒトツキの口元が動きだした。


 例の管の伸びる前の予備動作だ。それを見たタイラの手元に力が入る。


  『来る!』


  タイラがそう思った時、ヒトツキの口元からタイラの胸元目掛けて、それが伸びて来た。


  素早くそれをかわすと、今度はその管を目掛けて刀を振り下ろした。


  乾いた音と共に、切れた管はタイラの足元へ落ちる。


  残った管は、ヒトツキの口元へと戻っていった。


 しかし、痛みを感じている様子では無かった。


  「痛みは無しか。まぁ、そうだよな。分かってるさ。じゃあ、これはどうだ?おい、お前達、準備はいいか?」


  ヒトツキを囲んでいた四人は互いに顔を見合わせ頷いた。


  「いつでも大丈夫です。隊長」


  そのうちの一人が、タイラに返事をした。


  「よし。じゃあ、俺が合図したら、いつもの頼む」


 そう言いながら、タイラはヒトツキへ切り掛かっていった。


 タイラの振るう刃は幾度となくヒトツキの体を切りつけた。


 多少傷を負わすことが出来ているが、どれも致命傷には至っていない。


 しかも、やはり痛みを感じている様子もない。


  だか、タイラに焦りは無かった。


 詰めた間合いから元の位置まで一旦後退し、呼吸を整えると、


  「さあ、準備運動は終わりだ」


  そう言うと、手に持っていた刀を地面に突き刺した。


 そして右手で左の腰にさしていたもう一つ鞘から刀を抜き手に取る。


 その刀身は先程までのものと比べると指一本分ほど細く、拳一つ分、長い。


 なによりそれは、黄色い光を発していた。


  「覚悟しろよ」


  右手でそれを握り、そう言いながら、ゆっくりと左手を肩の高さまで上げると、ヒトツキを指さした。


  「よし!照射開始だ!」


  その言葉が合図となり、ヒトツキを囲んでいた四人は、一斉に手に持っていたなにかのスイッチを入れた。


 すると、それは家の明かりに似た光を発し、ヒトツキを照らし始めた。


 どうやら手に持てる投光器のような物らしい。


 普通の人がそれで照らされても、ただ眩しいと思うだけだろうが、ヒトツキには違うらしい。


 四方から照射され、激しくけいれんしている。


  「さすがに苦しそうだな。やはり『明かり』は苦手か。なら、すぐに楽にしてやる」


  タイラは両手で刀を握りしめ、再びヒトツキとの距離を詰めた。


  「二人の『生気』…返してもらう」


  そう言うと、タイラはヒトツキの胸元へ刀を突き刺した。


 先程までは傷一つ負わせることが出来なかったはずなのに、いとも簡単にそれは刺さった。


  ヒトツキは更に激しく痙攣していた。


 が、暫くするとそれは止み、全く動かなくなった。そして、その体から二つの白い霧のようなものが倒れている二人の体へそれぞれ一つづつ入っていった。


  タイラはそれを確認し、ヒトツキの体から刀を抜いた。


 すると、ヒトツキの体にひびが入ったかと思うと、あっという間に粉々になってしまった。


  「よし、お前達もういいぞ」


  タイラの合図で四人が照射を止めた時だった。


  少し離れたとこで物音がした。シシカドの五人が同時にそこへ目を向ける。


  子供が一人尻餅をついた状態で怯えながら路地の奥を見ていた。


  その子供がアンジだということを、もちろんタイラは知らなかった。

 

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