第72話 解消
「やっぱりすごいね、タイラさんは」
いつの間にか、トウジが俺の隣に立っていた。
「大丈夫?今日も、だいぶ打ち込まれてたみたいだけどさ」
笑みを浮かべ、そう尋ねるトウジに対して、俺は少し、苛立った口調で、
「…大丈夫な訳無いだろ。あれだけやられて…痛いさ」
と、答えた。
「大体、あの人は仮にも、元シシカドの隊長だぞ?歯が立つ訳無いじゃないか。それくらい分かるだろ?」
「まぁ、確かにそうだけどさ。でも、アンジ」
「何だよ」
「アンジもかなり強くなってると、思うよ」
「…はぁ?何言ってるんだよ!俺は、全く歯が立たないんだぞ?あれだけ気持ちいいくらい、打ち込まれてる姿をみて、一体どこが強くなってるって言うんだよ…慰めはやめろよ」
「アンジこそ、何言ってるのさ?」
トウジは、きょとんとした顔をして続ける。
「そもそも、アンジがまともに訓練を始めてどれくらいか分かってる?まだ半年だよ?それに、君の相手がタイラさんだってことも、もちろん分かってるさ」
「だったら…」
「だから、凄いんじゃないか!思い出してみなよ、始めた頃をさ。訓練が終わった後は、決まってハクさんに治療してもらってたでしょ?」
「まぁ、確かに…」
そう言われれば、確かに訓練を始めてからつい最近までは、ハクさんに毎日治療してもらってから帰っていたことを俺は思い出した。
「でしょ?それなのに、今はどうなのさ?ハクさんの力が必要なほど、タイラさんにやられてる?それとも、タイラさんが怪我しないようにって、手加減してくれてるの?」
「そんな訳無いだろ!」
「そうでしょ?そんな訳ないよね?じゃあ、何でなのか…分かるでしょ?アンジ。それは、アンジが強くなってきたからじゃないの?少なくとも、半年前とは比べ物にならないくらいにね」
「まぁ…確かに…」
「だから、自信持ちなよ、アンジ。心配ないって」
「トウジ…」
お前は、俺の心が読めるのか?と、言い掛けて、そこで言葉を飲み、
「ありがとう。心配してくれて」
とだけ、伝えた。
すると、トウジは、笑顔を浮かべ、
「別にいいよ。長い付き合いだもん。アンジの考えてる事くらい分かるよ」
と言った。
「だよな」
そう、だから俺はさっき、あえて言葉にしなかった。
トウジがそう言うと分かっていたから。
「ところで、アンジ。今日はどうする?寄って行く?」
と、トウジが別の事を俺に聞いてきた。
寄って行く場所、もちろんそれは、決まっている。
「…いや、今日は止めとこう」
「あっ、そっか。今日は夜もあるんだったね」
「ああ」
「じゃあ、今日は真っ直ぐ帰ろう」
「いや、別にトウジだけ行って来てもいいぞ?」
「ん~、いや、僕もまた今度にするよ。やっぱり、あそこは二人で行かないと、…なんかね」
「そっか。そうだよな。じゃ、帰ろう」
そんなアンジとトウジのやり取りを、少し離れたところでリョカ達三人は見ていた。
「で、実際のところどうだ?タイラ」
「何がですか?リョカさん」
「今の、あいつらのやり取り…聞こえただろ?」
リョカはタイラの方へ首だけ回し、
「アンジだよ。アンジ。お前から見て、あいつは上達してるか?」
と、続けた。
「アンジですか」
タイラは、一度リョカと目を合わせた後、アンジの方へ視線を移した。
「あなたと同じ考えだと思いますよ…」
「俺と?」
「はい」
「それじゃ、答えになってない…お前はどう感じているのかを聞いてるんだよ。常に手合わせしている、お前のな」
「そうですか。じゃあ…『血』ですかね。さすがは、ガクさんの息子…といいますか、上達は早いと思います。あの子自身が杞憂する事は…何もないかと思いますよ…。ただ、彼に何処までを望むかだと。言えるとすれば、今はまだ、せいぜいヒトツキの一歩手前…と、いったところじゃないですか?」
「そうか…ってことは、まだまだひよっこって事だな」
そう言って、リョカは、意地悪そうに笑みを浮かべ、アンジを見つめた。




