第7話 化け物とシシカド
悲鳴を聞いた俺達は、すぐさま通りへと目を戻した。
悲鳴をあげていたのは、二人の内の一人だった。
もう一人は悲鳴をあげた方を見て絶句している。
俺達もそれを目の当たりにして、言葉を失った。
悲鳴をあげた男の人の胸には細い管の様な物が刺さっていた。
その管は、あの得体の知れない生物から伸びていた。
人でいえば、丁度口の辺りだろうか。
その状態で、一人と一体はどちらも微動だにしなかった。
ただ、その細い管だけは男の人の体から何かを吸い取る様に脈打ち、その生物の方へとそれを運んでいるようだった。
暫くすると、その脈打ちが止まった。
そして、その管が男の人の体から抜かれた。
それと同時にその男の人は仰向けに倒れてしまった。…そのまま動かない。
死んでしまったのだろうか。
一方、管の方は、みるみる間に短くなり、その生物の口元へ消えてしまった。
「どういうこと?あの人死んじゃったの?」
トウジが怯えながら俺に聞いてくる。
「わからない。けど、そうかもしれない。」
そもそもあれは何なんだ?
どこから来たんだ?
もしかして、アカツキのせいなのか?
街の中で、家の外でこんな事が毎回起こっていたのか?
そうこう考えている時、また叫び声が、聞こえてきた。
その生物が、残りの一人の方へと、一歩づつ歩み始めた。
徐々に距離が埋まって行く。
男の人は恐怖のあまり、動く事も出来なくなっていた。
ただひたすらに、助けを求め、泣き叫ぶばかりだった。
俺達にはどうすることも出来ない…
と、その時、通りの向こうから、誰かが走ってくる足音が聞こえた。
それも複数だ。
「まさか…まだ増えるのか?」
俺はそう呟き、トウジの方を見た。
トウジは、目を強くつぶり、有り得ないというように顔を横に何度も振った。
足音が段々大きくなって来る。俺達は身を寄せ合いながら現状を見守る。
俺達の不安は杞憂に終わる事となった。
そこへ現れたのは紛れも無く、人だった。しかも五人。
それにあれは…
「タイラさんだ」
俺は思わず声が出た。
あの集団の先頭にいる人。
間違いない。
見間違うはずがない。
なぜなら、あの人は俺の一番の憧れの存在。
シシカドのタイラ隊長だ。
と、いうことは、あそこにいる人達も皆シシカドの隊員ということか。
俺は安堵のため息を一つついた。
だが、
「いつもと違うね」
同じ疑問にトウジも気が付いたらしく、同意を求めてきたので、俺は無言で頷いた。
そう、シシカドの皆は一様に白く(赤い月明かりのためはっきりとは判らないが)、ひざ元まで長い長袖の上着を着用していた。
普段のそれは確か藍色だったはずだ。
それに表情も険しい。
近寄れる雰囲気がまったくなかった。
俺達は無言で戦況を見つめた。
一人と一体は対峙したまま、頭だけシシカドの方を向いていた。
「おい。大丈夫か?」
タイラ隊長が、その男の人に声をかけた。
「お、お願いだ。た、助けてくれ」
返事になっていない。が、そう答えるのがやっとのようだ。
「もちろんそのつもりだ。で?ヒトツキは何体いるんだ?」
「…は?」
質問の意味が分からず、男の人はそう言った。
「あの化け物は何体いるんだ?一体か?」
再度質問され直すと、男の人は何度も首を縦に激しく振った。
「よし。そうか、分かった」
そう言うや否や、タイラ隊長は走りだし、左手に持っていた鞘から刀を抜くと、一人と一体の間に割って入り、そのヒトツキと呼ばれた化け物と対峙した。
他の四人もヒトツキの周りを囲む様に急いで陣取る。
一体何が始まるのだろうか。