第69話 本
「大事なこと?」
「ああ、そうだとも」
「それは、一体なんだ?リョカ」
「なんだよ…分かんないのか?鈍すぎるぜジンさん…」
リョカさんはジンさんの返答に対して、呆れたようにそう言った。
「だから、一体なんだ?」
「全く…今までの俺達の話を聞いてなかったのか?」
「いや、もちろん聞いていたさ」
「だったら分かるだろ?俺達は、これからアンジ達を鍛える。…タイラは適当になんとかするだろう」
「適当って…」
口を挟もうとした、タイラさんを、リョカさんは手で制し、
「しかし、それが何の為か…ジンさん、分かるよな?」
「当たり前だ。馬鹿にするんじゃない。アカツキを終わらせる為、コウエンを助ける為だろうが」
園長は憮然として、そう答えた。
「なんだ、ちゃんと分かってるじゃないか」
「だから、それで私のやるべき事とは、何なのだ、リョカ」
「決まってるだろ?ジンさん。俺達にはあんたの力が必要なんだよ。もちろん、園長としてではなく、『ギシ』としてのあんたの力がな」
「ギシとして?」
「そうさ。いい加減気付いてくれよ。俺達はこいつらに、ヒトツキ共と戦う術を教える事はできる。だが…さすがに素手では無理だろ?つまり…」
「アンジ達に見合った、道具をこしらえろ…と、いうことか…」
園長の答えを聞いたリョカさんは、
「ま、そういうことだ、ジンさん」
と、園長の目を見ながら、答えた。
「全く…何を言い出すのかと思えば…そんな事、お前に言われなくとも用意するつもりだ。当然だろうが。…それと、タイラの分もな。少し時間が掛かるかもしれんが、良いな?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
と、タイラさんは、園長に対して頭を下げた。
「よし…じゃあ、一通りまとまった事だし、そろそろ」
と、リョカさんが言った時だった。不意にトウジが、
「あの…今更なんですけど…」
「どうした?」
「あの…実は、僕………その、アンジみたいに色々出来ないから……皆さんの足手まといにならないか心配で…」
「なんだ、そんな事か。心配するな。十分分かってる。だから、ハクに、色々教えてもらえ」
「でも…僕…ハクさんみたいに…魔法なんて使えないし…」
「大丈夫だよ。トウジ。無理せず、自分に出来る事から徐々にやっていこう」
そうハクさんが、トウジに優しく声を掛けたが、トウジはまだ不安そうだった。
すると、
「何、心配することないぞ、トウジ」
園長が、トウジに声を掛けた。
「お前は、部屋にある本は読んでるか?」
「本…ですか?」
「そう、本だ。読んでるか?」
「はい。読んでます」
「そうか、で?どれくらい読んだ?全部よんでしまったか?」
「いえ、まだですけど…でも、ほとんど読みました」
「中には難しいのもあっただろう?そう、手書きの物とか」
「ありました…なんてゆうか…とっても読みにくい文字でした」
「それも読んだか?」
「ええ、なんとなくですけど」
「そうか」
と、一言言うと、園長は頷き嬉しそうに笑顔を見せ、
「そうか…さすが、コウエンの息子だな。トウジは」
「どういう事ですか?園長」
首をかしげて、トウジが尋ねると、
「実は、お前に、言っていなかったのだが、あの部屋にある本は全てが医者になるための物ばかりではない。特に、お前がさっき『読みにくい』と言っていた本はな」
「そうなんですか?」
「ああそうだ。騙して済まなかった」
「じゃあ、あの本は一体…?」
「あれはな、お前の父が、コウエンが書いた物だ。そして、その中身は…『術』についての事らしい」
「えっ!あれは…そうなんですか?」
「そうだ。これは、嘘ではない。事実、そうコウエンが言っていた。お前の為に書いたと…。実は過去にあれを私も見せてもらったことがあるが…全く読めなかったよ。その時、コウエンが言っていた。これは誰もが読める物ではないと…ある種、特別な人間にしか読むことが出来ない…とな。きっとそれは、コウエンの血を引くお前の事だろうな、トウジ」
「…」
トウジは、驚きの余り声が出なかった。
「だったら、尚更、お前はハクに色々教えてもらうべきだな、良かったじゃないか、まかりなりにも先生がいて」
そう言って、リョカさんは、いたずらっぽく笑っていた。
「…そう、ですね。改めて、色々お願いします、ハクさん」
正気に戻ったトウジは、そう言って、頭を深々と下げた。
それに対しハクさんも、
「こちらこそね、よろしく」
と、頭を下げた。
「よし…それじゃ、早速、訓練といこうか。いいな?アンジ、トウジ」
リョカさんは、そう言って部屋を後にした。
俺達も、
「はい!お願いします」
と、勢いよく返事をし、彼の後に続いた。
たった二日。
この『たった二日』…いや、『一晩』の出来事で、俺達を取り巻く環境が、今までとは一変してしまったのは事実だった。




