第62話 会話
入口の扉が閉まり、部屋で一人になった後も、コウエンはずっと考え込んでいた。
もちろん、先程知り得た事についてだ。
「十年…」
彼は、誰に言うでなく、一言呟いた。
十年…それは、ミツキが八人になるのに要した時間のことだった。
側近として使えるミツキ。
それが揃うのに十年費やした。
シュウキではないが、幾度不出来なミツキを消したことか…
思い起こしながら、コウエンは口元に笑みを浮かべた。
今までのことを嘲笑うかのように現れたあの男…
あのホウキという者の中には確かに幾つかの生気を感じた。
しかし、その核となる所には、たった一つの生気しか存在していなかった。
「たった一つ…たった一人分の生気でミツキが生まれようとはな…」
しかし、そのたった一つが普通ではない、特別な物だということをコウエンは感じとっていた。
たぶん、それは、シュウキ達には分からない。
きっとコウエンにしか分からないだろう。
だからこそ、先程は、口外しなかった。
「あの街に居るのだな、シキの子達よ…」
『シキ使い』…それは、我々の存在を消滅させることが出来るいまいましい力の持ち主達…
つい先程までは、そう思っていた。
だが、今は違う。
奴らは、我々に必要な存在となったのだ。
「奴らはまだ後、三人いたはず…」
口元の笑みが大きくなっていく。
「ミツキが生まれると同時に、シキ使いが消える…一石二鳥とは、正にこの事か」
それに、先程ホウキに試した『あれ』も、問題無さそうだ。
「今回は、大いに収穫あり…か。…それよりも、…先程からうるさいぞ。…シキの力に触れて、目が覚めたのか?…まあよい。いずれにせよ、もはや、お前が出てくる場所など、どこにも無い。既にお前の体は私の物だ…消えよ。そして、指をくわえて見ているが良い………誰にも邪魔はさせぬ。間もなくこの世は、私の物になる」
目に見えない誰かにそう言った後、部屋中にコウエンの高笑いが響き渡った。
一方、部屋の外には、青ざめた顔をしたシュウキの姿があった。
扉の前から数歩進んだところで、立ち止まっていた。
中の話を聞くためではない。
コウエンとの会話を、彼は思い出していた。
『まさか…あの出来事が知れていようとは…』
彼は、改めてコウエンの力を思い知らされた様に感じていた。
『だが…』
「想定内だな…」
そう呟いた時には、既にいつもの顔色へと戻っていた。
「何か?」
と、隣にいるホウキが、問い掛けた。
「いや、なんでもありません。独り言ですから、気にしないで下さい」
と、シュウキはいつもの口調で答えた。
「そうですか」
ホウキもそれに従う。
その様子を見て、シュウキは、コウエンが彼に何かしたことを確信した。
「コウエン様は、あなたに何をされたのですか?」
「…?」
ホウキは、不思議そうに首をかしげた。
「いや、なんでもありません。忘れて下さい」
本人が気付いているわけがないか…
シュウキは、つまらない質問をしたことを後悔した。
「では、参りましょうか」
そう言って、どこかへ向かおうとした時、
「おい、シュウキ。こんなところで何してる?」
と、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「これは、ガクテイ殿。実は、コウエン様に部屋に来るように言われて…今、話が終わったので出てきたところでございます」
「何?親父に?」
「左様で」
「ふん。そうか」
「それよりも、先程は、お疲れ様でございました」
シュウキはそう言うと、彼に向かって一礼した。
だが、ガクテイは、鼻を一つ鳴らすと、
「なんだ?嫌みか?別に疲れてなんかいねぇよ。それに、お前みたいな手柄立ててねぇしな」
「いえ、別に嫌みを言っているつもりなど、毛頭無いのですが…そう聞こえてしまったのであれば、お詫び申し上げます」
彼は、ガクテイに対し、再び頭を下げた。
「…気に入らねぇんだよ、その態度…」
頭を下げているシュウキに向かってガクテイはそう呟き、ガクテイは何処かへと消えていった。
「…気に入らないのは…お互い様ですよ」
シュウキは小声でそう呟いた。
「何ですか?」
隣にいるホウキが、再び問い掛けた。
「なんでもありません。では、我々も参りましょう」
そう言って、
シュウキは、ホウキを連れ立て、何処かへと消えていった。




