第6話 悲鳴の先に
いつもと雰囲気の違う街並みを見ながら俺達は並んで歩き始めた。
赤い月明かりに照らされた通り、木々、そして建物。
通りの街灯は全て消えている。
そして、家の中から漏れている光も一切ない。
もちろん、普段ならそんなことあるはずもない。
今日が特別なだけだ。
いや、今日じゃない。
アカツキの夜だからこそだ。
園でもそうだ。
この夜に限っては、雨戸をしっかり閉めるように園長に言われてきた。
そして、決して明かりを消さないように、と。
散々そう言われて来たが、
「別に大したことないじゃないか…。帰ったら園長に言ってやろう。な、トウジ」
ふて腐れながら、トウジの方を見てそう言った。
「そうだね。でも、窓の外がこんな色だったら、気持ち悪くて眠れないよ」
「それもそっか」
トウジの答えは、もっともだった。
確かに眠れない。
だから、雨戸は閉めた方が良いのだろう。
しかし、
「なんで、明かりは消しちゃ駄目なんだろうね?」
俺の疑問を見透かすかのように、トウジが俺に聞いてきた。
「さぁ…」
俺は首を傾げて、そう答える事しか出来なかった。
雨戸だけでは、駄目な理由が他になにかあるのだろうか。
分かるはずもない理由を考えながら歩いている時だった。
帰る方向から、誰かが叫ぶ声、いや、悲鳴が聞こえた。
俺達の足が止まる。
「…今、なにか聞こえなかったか?」
「うん。聞こえた」
俺の問い掛けにトウジがすかさずそう答える。
なにかの聞き間違いかと思い、再度耳をすましたが…、やはり聞こえる。
しかもそう遠くない距離のようだ。
「なにかあったのかな。トウジ、行ってみよう」
「えっ。でも、危なくないかな?」
「大丈夫だって。近くまで行って、物陰から見てれば問題無いさ。それに、あっちに行かないと俺達帰れないし。ずっとここにいるわけにはいかないだろ?」
「それは確かにそうだけど………じゃあ、見えるとこまで近づいて、ちょっと見たらすぐ帰ろう。僕、やっぱり怖いよ」
トウジの言った言葉には恐怖の色が浮かんでいた。
きっと以前の事が頭を過ぎったのだろう。
俺はそれを理解し、「そうしよう」と、短く答えた。
そして、俺達は再度歩き始めた。
しかし、その速さは期待と不安が入り混じり、先程までよりも速くなっていた。
聞こえてくる声が次第に大きくなってくる。
どうやら男の人のようだ。
俺達の足はどんどん速くなっていった。
そしてついに、その声が、はっきりと聞き取れるところまで近づいた。
辺りを見渡し、人が一人通れる程度の狭い路地を見つけると、俺達は、そこに身を潜めた。
そして呼吸を整えながら通りの声のする方へ目を移した。
そこには男の人が三人いた。
だが、一人はうつぶせに倒れていて、全く動かない。
もしかして、死んでいるのだろうか。
そして、残りの二人は尻餅をついた状態で「こっちへ来るな」「助けてくれ」と、各々叫びながら後退りしていた。
俺は、二人の視線の先へ目を移す。
そしてガク然とした。
二人の目の前にいるそれは…ヒトではなかった。
もちろん、動物でもない。
それは、例えて言うなら、木彫りの顔の無い操り人形のような物が一体そこに立っている。
かといって、操っている人がいるわけではなく、むしろ、意思を持って動いている様に一歩、また一歩二人の所へ近づいていた。
「アンジ、あれだよ」
震えた声でトウジがそう呟いた。
「あれって…まさか」
その先は聞きたくない。だが、俺はトウジの目を見て確認する。
「この前の夜にお前が見たのはあれなのか?」
震えが収まらないまま、一度だけ頷き、
「間違いないよ」
と、言ったその時、通りの方から今までよりも、さらに大きな悲鳴が聞こえた。