第59話 覚悟
「いや、だから、違うってば」
ハクさんは、自分が魔法使いであることを、あくまで否定した。
「でも…」
俺が更に、続けようとすると、
「いくら言っても無駄だぞ、アンジ。こいつは、それを認めないからな」
やれやれという素振りで、リョカさんが言う。
「俺も何度ハクにそう言った事か…」
「だって、違うでしょ?」
ハクさんは、やはり否定する。
「なっ?いつもこうだ。だから、諦めろ。こいつは、医者でもない、魔法使いでもない。ただ『ある種の知識を持った人』だ」
俺の肩を軽く二度叩きながら、リョカさんはそういった。
「わ、分かりました」
と、俺は、とりあえず頷いた。
「でも、ハクさん?」
「なんだい?トウジ」
「ハクさんは、一体どうやって、その『知識』を得たのですか?それに、その石も」
トウジの疑問は、俺も思っていたことだった。
普通に暮らしていて、得られる物事ではないはずだ。
「気になるかい?」
「それは、もちろん」
俺と、トウジは同時に頷いた。
「アンジ、それに、トウジ」
「はい」
「いいかい?この世界にはまだ、君達が知らない事が、山のようにある。良いことも、悪いことも。そして、不思議なこともね。…僕が持っているのは、その中の一つに過ぎない。それに、僕よりすごい人達なんて、沢山いるんだよ。君達はそれを、自分達の目で確かめるんだ。いいね?」
「…はい」
と、俺は返事をしたものの、なんだか、うまく答えをはぐらかされたような気がした。
すると、突然、
「そうだ!」
と、トウジが大きな声を出した。
「どうした、トウジ?」
驚いて俺が、尋ねると、
「ハクさんの力で治してもらおうよ!」
「何言ってるんだよ、今治してもらったじゃないか」
「違うよアンジ。君じゃなくて…」
そう言いながら、トウジは、上を指差した。
『上…?』
………そうか!
俺は、トウジの言う意味が理解出来た。
ここには、俺以外にも、治療を必要としているやつがいたんだ。
「ハクさん」
「なんだい?」
「実は…、ハクさんのその力で、治してもらいたいやつが、もう一人いるんです!」
「もう一人?」
「そうです、もう一人。…お願い出来ますか?」
「ん~、どうしようかなぁ」
「お願いします」
そう言って俺は、頭を下げた。
そして、隣ではトウジも。
「別にいいさ、なぁ、ハク。一人も二人も変わらないだろ?」
「簡単に言うね、リョカは」
呆れ顔でハクさんは、そう言った後、
「でも、いいよ。やって上げるよ」
と言ってくれた。
「あっ、ありがとうございます」
頭を上げ、俺達は礼を言った。
「で、どこにいるんだい?」
「二階です」
「二階?」
「はい」
「その人の名前は?…もしかして、…カイナのことかい?」
「はい、そうです」
俺がそう答えた時、ハクさん達の顔から笑顔が消えた。…いや、そもそも、
「カイナのこと、知ってるんですか?」
俺より先に、トウジが二人に質問する。
「まぁ…な」
と、リョカさんが答えた。
「だったら、尚更、お願いします。彼女を、カイナを助けて下さい。ハクさん」
俺達の、願いに対し、ハクさんは、首を横に振り、
「すまない。残念だけど、僕には、今の彼女を助ける事は、出来ないんだ」
その返答に、俺は、動揺した。
「助ける事が…出来ない?何故ですか?俺は治してくれたじゃないですか!なのに…カイナは…」
「ハクさん、理由を教えて下さい」
トウジが、そう尋ねると、
「理由…ね」
ハクさんは、そういうと、ちらりとリョカさんの方を見た。
それに対し、リョカさんは頷くと、ハクさんの替わりに口を開いた。
「アンジ、お前はこれから俺達が話す事を受け入れる覚悟はあるか?」
「覚悟、ですか?」
「そうだ」
答えるリョカさんに笑顔はない。
とても冗談を言っている雰囲気ではなかった。
俺は、暫く返事をしなかった。
覚悟を決めなければ聞く事が出来ない答えとは、一体なんなのだろうか?
胸の中に不安が広がる。
「トウジ、お前はどうだ?」
リョカさんは、同じ質問をトウジにもした。
「…」
彼も答えなかった。
「…お前達、聞く気になったら、ジンさん…いや、お前達の、園長の部屋へ来るんだ。そこで、話してやる。…強制はしない。聞く勇気がなけりゃ、来なくていい。……行くぞ、ハク」
リョカさんは、ハクさんを促し、席を立った。
「…別に一人でもいいぞ。お前達」
そう言い残し、二人は部屋から出て行った。




