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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第一章
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第5話 始まりの時

  それは確かに黒色だった。


俺達が見つけた時も、トウジが最初に拾いあげた時も。


もちろん俺に手渡された時も間違いなく、黒色だった。


ただ、俺が握りしめるまでは。


  痛みと共に落とした後は、自分の事で精一杯で、落としたそれを見る余裕が無かった。


もしかしたら、その時に…いや、何か仕掛けがあるのかも…


  そう思い、トウジの手から透明になったガラス玉を取ろうとした。


  「痛っ」


  まだ、右腕には痛みが残っていて、思うように動かせない。


  「やっぱり痛いんじゃないか」


  トウジが呆れ顔でそう言っている。


  「ちょっとだけな。でも大した事無いって」


  そう言いながら、今度は左手でそれを取りあげ、空にかざしてみた。


  「まぁ、何かおかしかったら、ちゃんと言うからさ、そんな心配するなって。未来の名医さん」


  かざした玉の中を見ながら俺はそう言った。


  「はいはい。分かったよ。じゃあ、もし、僕に何かあった時には、よろしく頼むね。未来の『シシカド隊長』さん!」


  トウジは呆れ顔のまま、笑いながらそう言った。


  俺達にはお互い違う夢がる。


大人になったら俺は、街の治安を守り、トウジは人を病いから守る。


  つまり、それはトウジは医者になること。そして俺は『シシカド』に入ることだ。


シシカドというのはこの街の治安を守ってくれている私営の護衛隊のことだ。


シシカドのお陰で、俺達は日頃平穏に暮らすことが出来ている。


  そんな、シシカドは俺達、男児の憧れの存在だ。


だからこそ、俺もいつか入隊したい。そう思っている。


  だからといって、誰でも入隊することが出来るわけではない。


何かしらの秀でるものを持っていなければならなかった。


今の俺にはそれがない。


それでも俺はいつか必ず入隊する、と俺は心に決めていた。


トウジもそれを知っている。


  「分かった。任せとけ」


  俺も笑いながらそう答えた。


  「で?さっきから何見てるのアンジ?」


  いつまでも透明のガラス玉を空にかざしている俺にトウジがそう聞いてきた。


  「いや、この玉の中に、なにか仕掛けがあるのかな…って、思ってさ」


  「まさか、そんな事あるわけ無いじゃないか」


  そう言いながら、俺の手からその玉を取り上げると、今度はトウジがそれを空にかざした。


  「…ほら。やっぱり…何も無いって」


  玉の中を覗きながらそう言った。


  「だよな。俺もそう思ったんだけど…念のためな」


  そう言った時、俺は、首の付け根の辺りに違和感を感じた。


熱い…もしかして…


  「ア、アンジ…あれ…」


ガラス玉の中を覗きながら、トウジが逆の手で東の空を指した。


  俺は、はっとなり、トウジが指した先を見る。


そこにはいつのまにか月が出ていた。


今夜は満月だ。


しかし、様子がおかしい。


月の外周が赤く光っている。


  「なんだ?あの赤い光は?」


  俺の問いに、トウジはなにも答えない。


もちろん答えようもないはずだ。


お互いそれは、初めて見る光景なのだから。


  「アンジ…もしかして、あれがアカツキなのかな?」


  俺は否定することが出来なかった。


しかし、認めたくもなかった。


  そう思って見ていると、俺達は更に驚く光景を目にすることになった。


なんと、その赤い光が月の外周から内側へ向かい、侵食し始めた。


外から内へ、徐々に赤く染まっていく。


 それが完全に赤く染まるまでに、さほど時間は掛からなかった。


  深紅に染まった月が空に浮かんでいる…なんとも言えない光景だった。


  「トウジ、多分あれがアカツキだ…」


  俺がそう言うと、


  「…そうだろうね」


  それを見ていたトウジも頷きながらそう言った。


  俺は辺りを見回す。



赤い月明かりに照らされているせいか、いつもと違う印象を受けた。



…気味が悪い。


しかし、


  「…なにも…起こらないな…」


  見慣れない景色が薄気味悪いだけで、特になにか変化が起こるわけでは無かった。


  「………本当だね」


  トウジも周囲を確認してそう答える。


  俺達は、安堵の表情で、お互いに顔を見合わせた。


  「じゃ、帰ろうか」


  「そうだね。帰ろう」


  なにも起こらなかったこともあり、俺達は急ぐことを止め、歩いて帰り始めた。


 しかし、俺達がその事を後悔するまでに、そう長くは掛からなかった。

 

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