第45話 予感
~~某所~~
「シュウキ、シュウキはいるか?」
部屋の中で声が響く。
しばらくすると、部屋の扉をノックする音がし、その向こうから、
「シュウキでございます」
と、声が聞こえた。
「入るがよい」
そう言われた後、扉が開き、男が中に入って来た。
「お呼びでしょうか。コウエン様」
シュウキが入って来たそこはもちろん、コウエンの部屋に他ならない。
しかし、先程とは部屋の雰囲気が異なっていた。
夕刻にシュウキが訪れた時、この部屋は漆黒に包まれていた。
しかし、今は違う。
部屋の中、全体がほのかに赤く染まっていた。
窓のない部屋なので、その光は外部からのものではなかった。
そう、その光の発生源は部屋の中央にあるテーブルの上。
つまり、あの手の平大の水晶が発するものだった。
「…眩しいか?シュウキよ」
椅子に座り、その光を眺めたままコウエンはシュウキに問い掛けた。
「滅相もございません。いや、むしろ心地好く感じる程でございます」
シュウキは思うままに答えた。
「そうか…」
「それで、コウエン様。一体、何用でございましょうか?」
そう聞かれコウエンは、
「いや、用というのは、他でもない。外のことだ」
「外…でございますか?」
「そう外だ。後数時間もすれば、今宵のアカツキも終幕を迎える。そこでだ、シュウキ、お前にも外へ出向いてもらいたい」
「つまり、『エンセキ』の回収…でございますね?」
「察しがよいな。いかにもその通りだ。先に聞いたが、今宵は三地区に百五十…と申しておったな?」
「はい。おっしゃる通りでございます」
「数としては、申し分ない。が、それを回収するとなると、如何せん時間が掛かる。お前達と違い、『エンセキ』は日の光を浴びてしまうと…ただの石だ。せっかく集めた生気も、元の人間のところへ戻ってしまう」
「そうなる前に全て回収せよ…と」
「そうだ。無論、お前一人に任せる訳ではない」
そう言うと、コウエンはおもむろに席を立ち、扉の方を向き、
「ガクテイ、ジンキ。近くにおるか?」
そう声を掛けた。
間もなくして、扉が開き、男が大小、二人入って来た。
「呼んだか?オヤジ」
大きい方の男がいう。
「馬鹿者!コウエン様に何という口の聞き方を…申し訳ございません、コウエン様」
小さい方の男が慌てた様子で頭を下げ謝った。
「よいのだジンキ。ガクテイの口が悪いのは分かっておる。…だが、せめてノックぐらい出来んのか?」
と、言いながらコウエンはガクテイを睨みつけた。
「…悪かったよ」
「申し訳ございませんだろうが、馬鹿者!」
ジンキは再び、ガクテイを叱り付けたが、当の本人は気にしたそぶりもなく、
「で、一体何事だ?オヤジ」
それに対しコウエンも、気にした様子もなく、
「用というのは他でもない。『エンセキ』の事だ」
「なんだ、もうそんな時間か。面倒臭え」
「ガクテイ!貴様!」
悪態をつくガクテイにジンキの怒りは頂点を迎えようとしていた。
「騒がしいぞジンキ」
しかし、コウエンが叱り付けたのはジンキの方だった。
「…申し訳ございませんコウエン様」
先程までの怒りは一気に失せ、逆に青ざめた顔でジンキは頭を下げた。
「とにかく、俺達二人で回収してくりゃいいんだろ?いつものように」
ガクテイは何食わぬ顔で尋ねた。
「いや、今回は三地区あるのでな、このシュウキも連れて行け」
そう言われたシュウキは二人に向かって頭を下げた。
「こいつも一緒に?」
「そうだ。回収方法はお前達に任せる。よろしく頼んだぞガクテイ」
コウエンにそう告げられ、
「分かったよ、オヤジ。任せとけって。さ、行くぞ、お前ら」
「きさ…。では、失礼します、コウエン様。……ガクテイ!」
部屋を出て行きながら、ジンキはガクテイ再び叱り付けていた。
「では、私も、失礼します」
シュウキも頭を下げ部屋を後にしようとした時、
「シュウキよ」と、呼び止められた。
「はい」
「今日は何やら予感がする。…お前の兄弟が生まれるところをしっかりと見てくるがよい」
そう言われたシュウキは、頭を深くさげ、部屋を後にした。




