第44話 イズルの苦悩
「…驚かせてしまったかな?」
「驚くもなにも、…それは驚きますよ」
「そうだな。確かに、当然の反応かもしれないな」
「いや、そもそもその『ゴシキ』ってのは、五つあるんだろ?しかも、それがアカツキを消す為に必要な武器…その内の四つしかない、要するに不完全な状態でカイエンと戦ってたってことか?」
リョカが呆れたように園長に言った。
「そうだな。確かに不完全だったと言えるかもしれないな。しかし、そうする他なかった。…それでも、私達はやり切ったではないか。お前達の力も借りてな」
「けど、何で揃ってなかったんだ、ジンさん?そのイズルって人はどうしていなくなってしまったんだ?まさか、逃げたのか?」
「逃げた…か、まあ、当たらずとも遠からず…というところかもしれないな」
「何?本当に逃げたのか?しかも、その時逃げた奴をあんた達は、おじさんは捜しているっていうのか?…どうかしてるだろ」
「リョカ!口が過ぎるぞ!!」
と、園長はリョカを一喝した後、
「私達は、イズルが消えたあの時、彼の行方を…捜さなかったのだ」
「何故…ですか?」
そう問い掛けるハクの方を向いて園長は、
「彼の心中を察したからだよ」
「どういうことですか?」
「先程も言ったように、彼はカイエンとコウエンの弟だ」
「それは、さっきも聞いたぜ?」
「黙って聞くんだリョカ。よいか?皆を巻き込んだあのカイエンとの戦い…。私達はコウエンと共に平穏な日常を取り戻すために戦った。しかし、よく考えてみろ。カイエンとコウエンは元は血を分けた兄弟。闇に染まった兄を救う為の戦いでもあったというこだ」
「だったら、尚更じゃないか?コウエンさん達と一緒に戦うべきだろ?」
「はたから見れば、そう思える。だが、イズルにしてみればそう簡単に割り切れる話しではなかったはずだ。それにな、彼に与えられた試練は、とても辛く、苦しいものだった。…彼は二人の兄と違い、魔術が使えなかった。代わりに体術に優れていた。…カイエンが暴走し始めた時、彼らの父、タイガはコウエンとイズルを呼び寄せた。ガク達もな。そして、タイガは、コウエン達に『力』を授けた。無論、カイエンを止める為にな。しかし、それがイズルを苦しめることになった」
「逃げたくなる程?一体どんな事だよ」
「それはな…タイガがイズルに授けた『力』のせだ…そしてそれは、二つある。一つは他の四人と同じ、『ゴシキ』を扱う『力』。そしてもう一つ。タイガは彼に魔術を使える『力』と、たった一つだけ術を授けた。一度しか使えない、イズルしか使えない唯一つの術…それは…」
「…それは?」
「それは…」
「それは?…もったいぶらないで早く教えてくれよジンさん」
「それはな、彼の周囲に居る『術者』の命を絶つ事が出来る。…というものだった」
「…なんだ、カイエンを止める為だろ?いかに兄貴だとはいえ、他に方法がないならそりゃ、仕方ないんじゃないのか?」
「待ってリョカ。今、ジンさんは『カイエンの…』って言わなかったよ」
「それがどうした?」
「…分からないの?」
「だから、何がだよ」
「…コウエンさんも死んじゃうって事だよ」
「はあ?何でだよ?何でコウエ…!」
そこまで言い掛けたリョカは何かに気付き、園長の顔を見る。
「そうだリョカ…」
園長は頷き、
「イズルの術は周囲の『術者』の命を絶つのだよ…カイエンだけではなく、もう一人の兄、コウエンもな…同じ『術者』ゆえに」
「…それが、イズルさんが居なくなった理由ですか?」
そう尋ねたハクに対し、園長は、
「…彼は多いに悩み、苦しんでいたのは確かだ。そして、そのまま姿を消した事も、事実だ…」
と、静かに答えた。
「…何でだよ。コウエンさんは関係ないだろ?あの人は、逆にあいつを、カイエンを止めようとしてたんだろ?なのに何で…」
リョカの怒りはイズルに対するものではなかった。
もちろん園長達でもない。
その『力』を授けたタイガに対するそれだった。
園長もそれは、分かっていた。
「何故か…。彼らの父、タイガは既に亡くなっているのでな、今となっては真意のほどは分からない。だが、彼はこうなる事を予知していたのかもしれないな」
「どういうことですか?」
「…同じ術者、コウエンもいずれ道を踏み外す事があるかもしれない、とな」




