第39話 最悪な仮説
「それが事実だとするならば…あのアカツキを出現させているのは…コウエンさんだと、いうことですか?そして…倒すべき相手も?」
ハクは声を震わせながらそう園長に尋ねると、園長は苦悶の表情を浮かべながら、
「そうだ」
と、答えた。
「なんてこった」
そう漏らし、リョカは天を仰いだ。
自分の知らない所でそんな事が起きていたとは…
「…ジンさん、その後の事を教えて下さい」
ハクは努めて冷静に先を促した。
「ああ、分かっているとも。…ガクにその話しを聞いた私達は、あまりの衝撃にしばらくの間、放心状態になっていた。お前達以上にな。当然だとも。どれだけの間、私達が、苦楽を共にしたと思う?…その仲間を、…友を倒さなければならなくなったんだ。しかし、私達以上に、話してくれたガクはつらかっただろうな。あいつが一番コウエンとの付き合いが長かったからな。…それでもガクは、その場にいなかった、人々の為に…平安な夜を取り戻す為に…苦渋の決断をした。コウエンを討つと…そして、私達もそれに同意した」
話している園長は、とても苦しそうだった。
だが、リョカ達には彼に掛ける言葉が見つからなかった。
「それから数ヶ月の間、私達は、ただ闇雲にコウエンを捜した。しかし、見つけることが出来なかった。そして再び、アカツキが夜空に出現する時が来てしまった。もちろん私達は街の人達を守る為、ヒトツキらと戦った。しかし…『力』を失った私達には限界がある事に気付かされた。コウエンどころか、ヒトツキすら、退治することもままならなかったのだからな。もっとも、私には元々『力』など無かったのだけどな」
「いや、そんなことありませんよジンさん」
「ありがとう、ハク。だが、実際、その時私は何も出来なかったんだ。……それから更に数ヶ月後の事だった。私とセナの子…カイナが生まれた。その時ばかりは全てを忘れて喜んだよ。私達もやっと子をもつ親になれたことを…。そして、更に三ヶ月ほど経った時に、再びアカツキが出現した。その日の事だ。信じられないことに、カイナの首元にあのアザが浮かび上がったんだ。しかも、アンジやカナメにも同様のアザが同じ日に浮かび上がったらしい。…そう、私達は、再びアカツキに対する新たな『力』を手にしたのだ」
「待ってくれ。アンジとカナメにも?トウジは?トウジはどうだったんだ?ジンさん」
リョカにそう聞かれた園長は首を横に振った。
「いや、トウジには…トウジには、無かった。何故なのか?それは、私達には分からない。ただ、カイナが生まれ、『シキ』を使えた四人の子供…つまり、後継者が揃った事と関係あるのかもしれないな」
「受け継がれた『力』…だとすればトウジには、まだその『力』が受け継がれていない…という可能性もありますね」
「何言ってるんだ、ハク?」
意味深な発言をするハクにリョカは尋ねた。
「いや、例えばの話しだけど、四人揃う事で『力』が覚醒するとするだろ?ガクさん達の『力』はアンジ達に受け継がれ、世代交代をした。しかし、コウエンさんはまだ代替わりをしていないとすれば…」
「『力』は覚醒するが、トウジには、あのアザは現れない…って事か?」
「まあ、例えばの話しだけどね」
だが、確かに一理ある…そう思ったリョカは一人で考え込んでいた。
そして、ある事に気付いた。
「でもハク、あの四人はカイエンとの戦いの後、皆、一緒に『力』を失ったはずだろ?」
「そう…なんだよね。だからあくまでも例えばの話しさ」
「いや、あながち間違ってはいないかもしれないぞ。そこにガクが言っていたヘイシが絡んでいたとしたらな…」
二人の会話に園長が割って入った。
「なにしろあの時の私達も同じ仮説を考えたからな。だが、私達はもっと先まで…な。そう、ヘイシがコウエンにしたことが何らかのきっかけになり、再び全てが始動だしたのかも、と。もしそうだとすれば、前回よりも状況はかなり悪い…。お前達にも分かるはずだ。アカツキを生む事が出来、更にそれを滅ぼす『力』をコウエンは併せ持っていることになるからな…」