第35話 部屋の中で
「リアン。アンジとトウジが帰って来たぞ」
中に入るなり、園長は奥の部屋に向かって声を掛けた。
すると、その部屋のドアが開き、一人の女性がこちらへ向かって小走りに駆け寄って来た。
「アンジ、トウジ!」
「リアンさん」
そう言った時、俺達二人は、リアンさんに抱きしめられていた。
「心配したのよ」
リアンさんに泣きながらそう言われ、
「ごめんなさい」
と、俺は謝った。
彼女は園長の奥さん…つまり、俺達の母親代わりだ。
いつも優しく笑顔を浮かべている彼女が今、大粒の涙を流している。
俺達はそれほど心配を掛けるような事をしたのか…
改めて自分達のした事を後悔した。
「本当にごめんなさい、リアンさん」
「いいのよ。あなた達が無事だってことが分かったんだから。…あなた達にも何かあったら…私…」
「えっ?」
リアンさんの言葉に俺は一瞬、固まった。
「俺達…『にも』?」
「リアン!」
俺が、リアンさんに尋ねようとした時、園長が大声で彼女の名前を呼び、首を横に振る。
「その子達は疲れているんだ。早く部屋へ連れて行って寝かせてやってくれ。アンジ、トウジ、今日はもう遅い。明日、ゆっくりと話そう」
そう言った園長の目も、部屋の明かりの下でよく見ると、赤く充血していた。
「…そうよね。…さあ、あなた達、部屋に戻りましょう」
そうリアンさんに促され、俺達は自分達の部屋のある二階へと続く階段をゆっくりと上った。
後ろからついて来るリアンさんの涙の訳が気になる。が、聞きたい気持ちをぐっと堪え、俺達は自分の部屋の前に立った。
「…疲れたね」
トウジが俺に向かってそう言った。俺も、
「そうだな。本当…疲れた」
と、答えた。
「…」
「…」
お互い言葉が続かない。
「それなら、早くやすみなさい」
リアンさんが優しく言ってくれた。
「そうだね。それじゃ、アンジおやすみ。リアンさんも、おやすみなさい」
トウジはそう言って部屋の中へ入っていった。
俺も、部屋の扉を開け、
「じゃあ、俺も。おやすみなさい、リアンさん」
「おやすみ、アンジ」
と、リアンさんと挨拶を交わし、部屋の扉を閉めた。
もちろん、昼間から部屋を空けていたため、明かりなどついていない。
しかも雨戸も閉めているので暗闇だ。
しかし、ずっと暮らしている部屋なので、大体感覚で分かる。
俺は、ベットがあるであろう方へ進む。
すると、それらしい物がすねに当たる。
俺はそのまま倒れるようにベットに転がった。
「明日か…」
そうつぶやいた後、いつの間にか俺は深い眠りについていた……
俺達が寝静まった事を確認した後、リアンは園長達のいる園長の書斎へむかった。
そして、扉の前まで来ると二つノックし、中へ入った。
部屋の中では園長と二人の男性がテーブルを挟んみ、無言のまま向かい合って椅子に座っていた。
「あの子達は?」
と、園長がリアンに尋ねる。
「ええ。もう寝てしまいました。よほど疲れていたのでしょう」
「そうか…戻ってきたそうそうすまないが、リアン。彼らに何か飲み物を持って来てくれないか?」
「ええ。構いませんよ。でも、この方達は…」
リアンはそう言いながらちらりと男達の方を見た。
「ああ、彼らか。彼らは私の古い知人だ。しかもアンジ達の危ない所を助けてくれたらしい」
そう園長に紹介された二人は、会釈をしながらリョカとハクと名乗った。
リアンも会釈を返し、
「そうですか。あの子達を守って頂きありがとうございました。それでは、何かお飲み物をお持ち致しますね」
と、言うとリョカが、
「出来れば熱いお茶をお願いします。…酔いを醒ましたいもんで」
と、苦笑いしながら言った。
つられてリアンも笑いながら、
「わかりました。熱いお茶ですね」
そう言って部屋を出ていった。
「大事な話しだから、な、ジンさん」
打って変わり真面目な顔で、リョカが言った。
「…そうだな。…しかし、どこから話せばよいのやら」
園長がそう言うと、
「それを決めるのは、俺達じゃあない。話すのもあなたなら、決めるのもジンさん、あなただ」
と、リョカが答えた。
「そうか…」
園長は一つ頷いた。




