第33話 帰還
「俺が、シキ使いの子…俺が…」
「アンジ!アンジ!」
呆然とする俺の肩を揺らしながらトウジが声を掛けて来た。
「どうしたの?大丈夫?」
その顔は心配そうだ。
「あ、うん。大丈夫」
「そっか。よかった。…でも、すごい話しだね。アンジがシキの後継者だなんてさ」
心配していた表情から一転、今度は嬉しそうな表情をトウジは浮かべている。
その顔を見て、俺は先程の悲劇を思い出した。
俺は…
「ハクさん。本当に俺が、後継者なんですか?」
「まあ、ほぼ間違いないと思うよ」
「俺に…そんな力があるんですか?」
「論より証拠。その手の中にあるじゃない」
「でも、俺………」
「どうしたのさ?」
俺は…トウジを…
「さっきの事は気にするな」
そう言ったのは、リョカさんだった。
「でも…俺に力があるのなら」
「それは、今分かった事だろ?さっきは状況が違う。お前は何も知らない。ただの無力な子供だ。それに、たとえ力があってもその使い方を知らなければ、無いのと同じだ。あの状況でお前に出来る事は何も無かったんだ。…もう終わった事だ。お前にとって大事なのはこれからどうするかだ。同じ事を繰り返したくないだろ?」
「…はい」
「よし、じゃあ、とりあえず、早くお前達の住んでる所に戻ろう」
と、リョカさんが言うと、ハクさんが、リョカさんの顔を見ながら、
「驚いた…」
「何が?」
「素面のリョカがあんなまともなことを言えるなんて…いや、まだ少し残っているのかな?」
「おい、ハク…あんまり人を馬鹿にするなよ。俺だってたまには…」
「で?トウジ、園まで後、どれくらいかな?」
「えっ?あ、後少しです。そこの角を曲がったら…見えました。あれです」
トウジが指差した先には、俺達が暮らしている園があった。
「いや、俺の話しを聞けって」
ハクさんはリョカさんの言葉が聞こえていないふりをして、
「そういえば、聞くのを忘れていたけど、君達の園長さんの名前はなんていうのかな?」
「おい、ハク」
「アンジ、園長さんの名前は?」
「あ、園長の名前ですか?ジンですけど…」
リョカさんの事を気にしつつ、俺はハクさんの問いに答えた。
「ジン?ジンだと?」
そう言ったのはリョカさんだった。
「はい。そうですが」
リョカさんが何に驚いているのか分からなかったが、俺はそう返事をした。
「ジン…か。まさかな、いや、しかし…ハク?」
「まあ、同じ名前の人なんて、沢山いるからね」
「…だよな」
「でも、この子達の暮らしている、あそこの名前…リョカもちゃんと聞いたでしょ?」
「ああ、聞いた」
「僕も、あの時は別に何とも思わなかったけどね。園長がジンで、園の名前が『ガクエン』…そして、この子がいる。偶然にしては出来過ぎの様な気がするね」
「だな、まあそれも会えば分かる事…か」
一体、この二人は何について話しをしているのだろう。
俺が園長の名前は『ジン』だと伝えただけなのに。
気にせず、俺とトウジは歩を進め、
「リョカさん、ハクさん、着きました」
俺達は門の前で立ち止まり、二人に告げた。
門の向こうには広い中庭があり、その奥に横長で二階建ての建物がある。
あれが俺達の暮らしているところだ。
窓から部屋の中はうかがえない。
当然だ。
外の様子が見えないように全て雨戸が閉められているのだから。
「ここが、君達の家…なんだね」
「はい。そうです」
「結構、大きいな。一体何人で生活してるんだ?」
「えっと、園長と僕達みたいな子供が十五人いるんで、皆で十六人ですね」
「そうか」
と、リョカさんは建物を見ながら言った。
「中に入れてもらってもいいかい?」
「あ、もちろんです。どうぞ」
と、俺はハクさんに答え、閉ざされていた門を開けた。
『やっと、帰ってきた…』
そう胸の内で思いながら。




