第32話 『エンセキ』
「ガラス玉……!」
思い出した。
公園の外で確かに拾った。
元々は黒く光っていたガラス玉。
そう、元は黒かったのだが、なぜか透明になってしまった、あのガラス玉!
二人で中を覗きあった後、最終的に俺が持って帰ることにしたのだった。
ここまで、帰って来る間にいろいろな事が起こり過ぎて忘れていた。
「もちろん、持ってるさ」
俺は慌てて、右手をズボンのポケットに入れ、それを取り出し、
「ほ、ほらな」
と、俺は、さも覚えていたと、言わんばかりにトウジに見せつけた。
「アンジ、それどうした?」
と、トウジより先に反応があったのは、リョカさんだった。
しかも、とても驚いた表情をしている。
「いや、だから、公園の外で拾いました」
「拾った?」
「はい、拾いました。二人で見つけて。な?」
俺は、トウジに同意を求めた。
「そうです。アンジの言う通りです」
トウジも頷きながら答えてくれた。
「そうか、拾ったのか。あ、いや、別に責めてる訳じゃないからな」
「だよね。そうだろうけど、リョカの口調じゃ、責められているように感じているだろうね」
「そんなこと無いだろ」
「いや、あるよ。そもそもリョカは、お酒が入らないと柔らかい口調にならないんだから」
「…そんなこと無い…だろ」
痛い所を突かれたのか、リョカさんの語尾が小さくなる。
変わってハクさんが、俺達に尋ねて来る。
「それで、それを拾ったのはいつだい?」
「アカツキが出るほんの少し前です」
「そっか。少し前だったんだ。と、いうと、辺りはもう暗かったんじゃない?よく見付けたね。『色』もついていないのにさ」
「いや…」
ハクさんにそう言われ、俺は、言葉に詰まった。
なぜなら、元々『色』はついていたのだから。
それを言って良いのだろうか。
「アンジ、僕はそれが何なのか、あらかたの予想はついているんだ。だから、僕の二つの質問に、はいかいいえで答えて欲しい。…いいね?」
まるで、俺の心を見透かしたように、ハクさんはそう言って来た。
「はい」
と、俺は従った。
「ありがとう。それじゃまず、アンジ、それは元々、黒かったよね?」
「…あ、はい」
「だよね。じゃ、もう一つ…」
ハクさんは一つ間をおいた後、続けた。
「それを透明にしたのは…アンジ、君だね?」
ハクさんはやはり何かを知っている。
そうでなければ、こんなに的確な質問が出来るはずない。
「…そうです」
俺がそう答えると、ハクさんは、リョカさんと視線を合わせ、お互い一つ頷いた後、
「そうか、ありがとう、アンジ」
と、言ってくれた。
しかし、俺が聞きたかったのは、その言葉では無かった。
「あの、ハクさん」
たまらず、俺はハクさんに尋ねる。
「このガラス玉に、何が起こったんですか?教えて下さい。お願いします」
俺はハクさんに向かって、深々と頭を下げた。
「もちろんさ。だから、頭を上げなよ、アンジ」
「ありがとうございます」
そう言って俺は頭を上げた。
「アンジ。本当はもう君も気が付いているんじゃないのかい?」
「…」
「でも、信じられないんだよね?」
「…」
「分かった。アンジ、君はほぼ、間違いなくシキの使い手の子供。言わば後継者だよ。まあ、誰の子供なのかは、分からないけどね。ただ、『エンセキ』…」
「『エンセキ』?」
「あ、そっか。あの黒い玉の事だよ。『怨石』…あれは闇の力で生み出された物なんだ。アカツキの光を浴びるとヒトツキが生まれるやっかいな物さ。でも、シキ使いの力を使えば…」
「どうなるんですか?」
トウジが尋ねる。
「浄化される。もちろんヒトツキも生まれなくなる。そして浄化されると、その『エンセキ』が、どうなるかは…君達が見た通りだよ」
俺は手の平にある『エンセキ』を見つめた。
『浄化』され色無く輝いている玉を。




