第3話 トウジの秘密
アカツキが出て来るまでの間、俺達はそのまま公園で待っていた。
特に何をするでもない。
たまに話しをしたりするが、それも長くは続かない。
それも仕方のないこと。
ほとんどずっと一緒にいるのだから。
お互いの事はよく分かっている。
今更取り立てて話す事もない。
トウジもそれは分かっているはずだ。
だから、あまり話しかけてこない。
彼もまた、沈黙をさほど苦痛に感じてはいないだろう。
ただ、俺は今、一つだけ疑問に思っていることがある。
隣を見るとトウジはまだ空を見上げていた。
いつもと変わらぬ月の浮かぶ空を。
「なんだよ。気持ち悪いなぁ」
視線に気付き、トウジがそう言ってきた。
「いや、別に」
慌てて俺は視線を前に戻し、そう答えた。
「アンジはわかりやすいんだよ。何か聞きたい事があるんでしょ?」
「そ、そんな事ねえよ。別に…」
とは言ったものの、実際は、ある。どうやってごまかそうか考えたが、
止めた。
素直にトウジに自分の疑問をぶつけてみることにした。
「なあ、トウジ」
「なに?」
「俺さ、気になってる事があるんだ。」
「だから、何を?」
「…昔から、悪い事、危ない事…まぁ、後から園長に怒られるような事って、だいたい俺がやろうって言い出して、トウジを無理矢理付き合わせてたよな」
「確かにそうだね。だいたいっていうより、ほとんど全部だけどね」
笑いながらトウジがそう答える。
「そうなんだよ。俺が悪い子。お前はいい子。皆そう思ってるし、実際そうだと俺も思ってる…」
「…話しが見えないんだけど?何が言いたいの?」
「じゃあ聞くけど、何で今日こうやって、『園を抜け出そう。アカツキを見て見よう』って言い出したんだ?普通、逆だろ?俺が言い出すような事じゃないか。なのにお前の方から言い出すなんて、どう考えても変だろ?何か…あったのか?」
予想していた質問と違っていたのだろうか。
トウジが驚いた表情をしていた。
しかし、それはほんのわずかな時間だけだった。
すぐにいつもの表情に戻ると、
「アンジと二人で、冒険してみたかったんだ…」
と、トウジは呟いた。
「何言ってるんだよ。今までだって、二人で散々色んな事やってきたじゃないか?」
「…そうだけど、これは、僕が見てみたい事、知りたい事なんだ。いつもみたいにアンジに誘われてやるんじゃなくて、アンジが僕に付き合って欲しかったんだ。…一人じゃ怖いから」
そこまで言うと、トウジはうつむいてしまった。
「まぁ、確かに今日はアカツキの夜だしな。さすがに俺でも一人で外に出てみようなんて思わないし、お前を誘えないもんな」
「ごめん。でも、付き合ってくれてありがとう」
トウジはうつむいたままだ。
「ま、いいさ、今まで散々付き合ってもらったんだから、たまにはな。でも、それだけか?外に出てみたかっただけなのか?冒険はアカツキを外で見る事で終わりなのか?」
「いや、違うよ…」
そこまで言うとトウジは暫く無言になった。
そして、顔をあげると、意を決して話しだした。
「僕の知りたい事は他にあるんだ。でも、僕の言う事…信じてくれる?」
「ああ。もちろん」
俺は頷いた。それを見て、トウジは話しを続けた。
「この前のアカツキの夜にね、…僕、見たんだ」
「見たって…何をだよ?」
「…わからない」
「お前が言ってることが分からないよ」
「だって、本当に分からないんだよ。ただ…」
「ただ?」
「…ただ、あれが人じゃないのは間違いないんだ」
「なんでだよ?」
「だって………顔が、無かったから…」
「…」
俺は、思わず絶句した。