第197話 補助の術とコオロキ改
「なっ、何だよ、急に。改まっちゃって、ばっ、馬鹿だねぇ。そんな事しなくったって、手伝いくらいしてやるってんだよ。それに、先に、言っとくけど、私が出来るのは補助だよ。補助!補助の術が使えるだけだからね。あんまり高望みするんじゃないよ。いいね?」
顔を赤くしたナガレさんが、腕組みをしながら早口でそう念を押す。
「耳を良くするやつだろ?」
意地悪く笑い、自分の耳を指差しながらリョカさんがそう尋ねると、
「何言ってんだい。私の術は耳を良くする術じゃないよ!」
ふざけるリョカさんを睨み返し、
「私は、術の効果で『聴力』を上げているだけだよ、分かるかい?」
「つまり?」
「私が使えるのは、補助の術だって言っただろ?そのままさ」
ナガレさんはそう言うと、自分を指差し、
「私自身。または、他の誰か……」
そう言いながら、俺達をゆっくりと指差し、
「……の、身体能力を一時的に強化することが出来る……そんな術さ。あくまでも、一時的。一時的だよ」
リョカさんは、「へぇ~」と言いながら、数回頷いた後、
「身体能力ってことは、聴力以外でも……って事だよな?視力でも。嗅覚でも……だよな?」
と、尋ねると、彼女も頷き、
「その通りさ。それ以外でもいいよ。腕力でも、脚力でもね……」
「それを、誰にでも、出来るっていうのか?」
そう尋ねられると、彼女は首をひねり、
「誰にでも。そう、誰にでもね。ただし、一度につき一人だけだよ。一人だけ。二人も三人もいっぺんにって、いうのは無理だからね。それと、立て続けにも無理だよ。掛けた術の効果が切れてからじゃないと、次には行けないよ。忘れるんじゃないよ。いいね、リョカ?」
「いや、そこ、俺じゃなくって、アンジだろ……。なあ、ハク?」
納得出来なという表情を浮かべ、隣にいる親友に同意を求めたのだが、彼はゆっくりと首を振りながら、
「いや、ナガレは間違っちゃいないと、僕は思うよ。だって、君は、忘れっぽいからね」
「なっ、どういう意味だよ、ハク!?」
「ん?別に、深い意味は無いよ。まあ、とにかくさ、アンジ、それからみんなも、何かあった時には、ナガレにも意見を聞くようにするんだよ。いいね?」
「えっ!?」
ハクさんの言葉に違和感を覚えた俺達四人は、一様に顔を見合わせた。
「ハクさん、……まさか、いなくなっちゃうんですか?」
「何言ってるんだよ、カイナ。そんな訳、無いですよ、ね?ハクさん」
不安気な顔をしたカイナをなだめ、ソウジが尋ねた。
彼の表情もまた、強張っていた。
トウジも同様だ。
そして、きっと俺も。
俺の頭の中には、あの日いなくなってしまった、タイラさんの事が思い浮かんでいたのだった。
「どうなんですか、ハクさん」
俺がそう言った時、ゆっくりと右手を上げ、
「そろそろ、私も話して良いかな?」
と、園長が口を開いた。
「やれやれ、お前達の仲の良さは、よぉく分かった。しかしだな、少しだけ、私にも話す時間をくれないか?きっと、お前達が聞きたい答えにも繋がると思うのでな」
園長が、ゆっくりと俺達を見渡し同意を求めたので、みんな首を縦に振った。
「……そうか。それならば、話を進めよう。まずは、アンジ、こっちへ」
そう言いながら手招きをされたので、俺は歩を進め、園長の机の前に立った。
「アンジ、これを受け取りなさい」
そう言って、園長は、自分の足元から何かを取り出し、俺に手渡した。
「あっ!!園長!!これ」
赤く輝くそれは、
「新しい、コオロキだ。大分傷んでいたみたいだからな、あれじゃあ、使い物にならないだろう。それに……、同じ物では、この先の戦いでは不安が残るのでな……。改良してみた。とりあえず、大きさを確認してみてくれ」
「はいっ!!」
と、大声で返事をし、急いで両腕に装着してみる。
前の物と比べると、少し重くなった様な気がするのだが……
拳を握り、ゆっくりと内へ外へとひねりを加えてみる。
「園長、これ、腕の部分が厚くなりました?それに、拳の部分の水晶が小さくなったような……」
「その通りだ。良く分かったな、アンジ」
と、褒められたのだが、見たままの事を言っただけなので、それほど嬉しくは無かった。
「しかしな、どちらも以前とは比べものにならない位、強度は増しているからな、心配するな」
「はぁ、そうですか……ありがとうございます」
と、お礼を言いはしたのだが、
『園長は、えらく強度を気にしているなぁ……。何でだ?』
と、俺の中に疑問が残る。
「それでは、カイナ。アンジと代わりなさい」
「はい、はい、はぁい」
上機嫌な返事をしながら俺を押しのけ、園長の前に立つと、両手を前に差し出し、
「はいっ!くださいっ!」
と、満面の笑みを浮かべるのだった。