第196話 招集
夕方、訓練を終えた後、夕食までの間、俺は一人で部屋のベットの上で横になっていた。
それが特別という訳ではない。
いつもの事だ。
そして、暫くした後に。
コン、コン……
と、部屋の扉をノックする音が聞こえてくるのも、いつもの事だ。
「はぁ~」
と、短くため息をついた後、「誰?」と、ドアの向こうに問い掛ける。
「僕だよ」
と静かに答えが返って来る。
続けて、
「入ってもいい?」
と尋ねてくる。
俺は首を傾げながら、ベットから起き上がり、扉の前へと向かう。
『変な事言うなぁ……』
そう思いながら、俺は扉を開き、
「もちろん。っていうか、どうした、トウジ?」
「いや、なんか機嫌が悪そうな感じがしたから……マズかったかなぁ……って、思ってさ」
「はぁ?別に機嫌悪くなんてないさ。気のせいだって、トウジ」
「そっか、なら、いいんだけど」
と、安堵の表情を浮かべた。
「それで?」
と、俺が改めて尋ねると、
「あっ、そうそう、園長にアンジを呼んでくれって、言われてね」
「園長が?」
と、聞き返すと、トウジは頷きながら、
「そう。園長が」
と返してきた。
そして、
「たぶんだけどさ、『あれ』じゃないかな?」
「何だよそれ?」
「もぉ、鈍いなぁ……アンジが壊した『あれ』の修理が終わったんじゃないの?」
そこまで言われて、俺は「あっ!」っと、手を打った。
怪我をした拳は、すぐにハクさんに治癒してもらった。
でも、壊れたコオロキは流石に誰にも直せなかったので、仕方なくここへ戻って来て直ぐ、園長に見せた。
すると、帰ってきたことに喜んで園長の顔が、一気に赤くなり、こっぴどく叱られた事を思い出した。
俺が悪い訳では無かったのに……
「でも、修理してくれたんだよな?」
俺がトウジに尋ねると、彼は首を傾げながら、
「『でも』の意味が分からないけど、たぶん、そういう事だと思うよ。だから、早く行こう、アンジ」
トウジは振り返ると、俺より先に階段へ向った。
俺は慌てて、
「おっ、おい、トウジ。なっ、何で俺より先に行ってるんだよ」
「別にぃ~。早くおいでよ、アンジ」
立ち止まらずにそう言い残し、トウジは、階段の下へと消えて行った。
「何だ?まぁ、いいや。えっと、……とりあえず…………」
俺は部屋の入口に立ち、中を見回し、一つ頷く。
「早く行こうっと」
ドアを閉め、階段を下りると、真っ直ぐ園長の部屋へ向かった。
扉を二つノックする。
「アンジです。入ります」
園長の返事を待たずに、俺は扉を開けた。
目に飛び込んできたのは、驚いた顔をした園長だった。
「はっ、……あっ、ああ、入りなさい、アンジ」
怒ってはいない。
ただ、驚いた様な声色でそう促された。
『流石にまずかったかな……』
「すいませんでした。入ります」
俺は改めて、一礼し、部屋の中へと入る。
園長はいつもの様に正面に座っている。
そして、向かって左にはリョカさんと、ハクさん。
右側には、トウジとソウジが園長の近くに立っている。
そして、その手前、俺の近くにはカイナとリンドウ。
それと、ナガレさんが一緒に立っていた。
「えっ、ナガレさんも?」
「何だい?私がいちゃいけないのかい?」
と言うと同時に睨まれたので、俺は慌てて両手で口を塞ぐ。
そして、頭を振りながら、
「別に、問題ないです。ありません。ごめんなさい」
と早口でまくし立てた。
「あんまりからかうなよ、ナガレ。それからアンジ、ナガレには俺達と同様に、お前達の補助をしてもらうことにした。それは、構わないよな?」
「補……助……」
リョカさんにそう言われたのだが、
「あの、リョカさん。それって、今までと何が違うんですか?」
と、一先ず当たり前のことを俺は、尋ねてみた。
今日、今、あえて言われた事に何か意味があるのか、そこが俺には分からなかったからだ。
「どうなんでしょう?」
リョカさんの目を見ながら再度尋ねる。
「……」
「……」
「何も、変わらねぇよ」
ニヤリとしながら、リョカさんは短く答えてくれた。
「そうですか……でも、まあ、改めてですね。ナガレさん。これから、またお世話になります」
俺は、ナガレさんに一礼する。
すると、トウジ達も俺の後に続いて同様に一礼した。