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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第九章
192/211

第192話 功労者

「ふぅ~~」


 と、大きく息を吐いた後、左の拳を顔に近付け確認する。


 多少傷が増えているが、右手ほど損傷はないようだ。


 拳を下ろし、視線を正面へと移す。


 大きな男が力無く、うつ伏せに倒れていた。


「……もう、いいよね?」


 何の事かは分からないが、


「ああ、もう大丈夫じゃないか?」


 俺がそう返事をすると、


「分かった」


 トウジはそう言うと、両手で持っていたロクジョウコンを下ろした。


 つまり、今やっと彼は術を解いたという事になる。


 そして、俺と同じ様に、目下の男を眺めていた。


「死んでる……の?」


「いや、まさか、気を失っているだけさ。だって、俺達が戦っていたのは、あくまでも『狂人刀』だからな」


「…………そう、だよね。もう、人に戻ったんだよね、この人……」


 俺が狂人刀を折った時、あの気持ちの悪い赤い眼が消えて行くのが見えた。


「ああ、多分な」


「そっか」


 そこまで言うと、トウジは、「良かった」と、言いながらその場に座り込んだ。


 俺は、「ああ」と、言いながら座るつもりがふらついて、その場に大の字に倒れてしまった。


『やっと、終わった……』


 空を見上げ、感慨にふけっていると、


「アンジ、大丈夫?」


 と、心配そうな声でトウジが尋ねて来た。


 俺は動かずゆっくりと、「大丈夫」、とだけ答えた。


 暫く呼吸を落ち着かせた後、


「それにしても、あれ、一体何だったんだ?何で、急にスミの動きが止まったんだよ、トウジ?」


 気になっていたことを振り返り、トウジに尋ねてみた。


「へへへっ。あれね、敵の動きを止める……っていうか、敵だけ動けなくする術なんだって。相手にだけ何倍っていう重力を掛ける術って、お父さんの本に書いてあったんだ。……初めてだったんだけど、……うまくいって良かった」


 それを聞いた俺は、飛び起きる。


「ちょっ、ちょっと待てよ。じゃ、あれ、ぶっつけ本番だったって事かよ!?」


 トウジは申し訳なさそうに、


「うっ、うん。ごめん。でも、まあ、よかったでしょ?」


 結果だけ見れば、確かに。


 お陰で今こうして、落ち着いて会話が出来ている。


「はぁ~~~。そうだな。よかったよ。トウジがいてくれて」


 俺が笑って見せると、彼も笑って答える。


「違うでしょ!」


 と、割って入る声が背後から、急に聞こえてくる。


 振り向かずともその主は、


「どういう意味だよ、カイナ?」


 そう尋ねると、


「はぁっ?まるで、トウジが一番…って感じの話してたから、違うでしょって、言ってるのよ!!」


 すごい剣幕でまくし立てられた俺は、


「えっ、えっと……じゃあ、あっ、俺だ。だって、なっ?俺がほとんど片付けたからな?」


 と、隣のトウジに同意を求めると、慌てた様子で、


「そっ、そうだね、やっ、やっぱり、アンジはすご…」


 と、そこまで言うと、また、


「ちぃ~~がうでしょうが!!」


 カイナはまだ、怒ってる。


「じゃあ、ソウジだね?ソウジだよ、アンジ。だって……そうだよね、あんなになるまで…」


 残るのは、それしかない。


 トウジの意見に激しく同意していたのだが、


「何でそうなるのよ!!!!」


 と、更にカイナの怒りは激しくなる。


 俺とトウジは顔を見合わせる。


『ダメだ。分からない!!』


 仕方なく、俺は恐る恐るカイナに尋ねた。


「カイナ……お前は、いったい誰が一番活躍したと思ってるん、……だ?」


「私」


「そう、カイナは誰が…」


「だぁかぁらぁ~~、わぁ~たぁ~~~しっ!!って、言ってるでしょ!!」


「…………………はっ?」


 俺も、トウジも呆気にとられ、他に言葉が出なかった。


「いや、カイナ。お前、戦闘に加わってなかっただろ?なあ、トウジ?」


「うっ、うん。そうだったと、思うけど……」


「だよな、ほら、カイナッ!!お前な訳無いだろ!!」


 何だか無性に腹が立ってきた。


「何言ってるの、アンジ。私も、戦ったわよ」


 得意気に言うカイナ。


 俺はため息をつき、


「あのなぁ」


 と、その時、トウジが「あっ!!」と、かぶせて来た。


「分かった。あの時だ。アンジ」


「はぁ?」


「ほら、さっき、僕が最後の術を使う前。アンジがやられそうになった時だよ」


 俺は、急いであの時の状況を思い出す。


「ああ、あの時がどうした?」


「ほら、あの人、途中で動きが止まったでしょ?」


「あ~~~~。確かに……、んっ?えっ?まさか」


 カイナの顔を改めて見る。


「やっと分かった?あなた達が今、ここで、ゆっくり出来ているのも、あの時、私が、こう」


 そう言いながら、スリングショットを引く動作をして見せる。


「マジ……かよ」


 確かに、スミにあの一瞬の隙が生まれていなかったら、俺も、トウジもこうしていられなかったかもしれない……


「だったら、お前が、一番だな。なっ?トウジ?」


「そうだね、カイナのお陰だよ」


 俺達がそう言うと、カイナは満面の笑みを浮かべ、


「だよね!」


 それを聞いた俺とトウジは、その笑顔につられるように笑った。


 ちょうどその時、リョカさん達も合流した。


 ハクさんによるソウジの治癒が終わったらしい。


「それで?お前ら、何の話をしてたんだ?」


 リョカさんに尋ねられ、俺達は事の経緯を話した。


 最後にカイナが得意気に、


「リョカさんもそう思うでしょ?」


 と、尋ねた。


「いや、違うな」


「えぇ~~~っ!!じゃあ、だれよ!!」


 また、カイナが不機嫌になる。


 気にせずリョカさんは自分を指差し、


「それはな、今回の一件をお前達に任せた、この『俺』が、一番さっ!!」


 と、誇らしげにそう言い放った。


 俺達は、いつもの様に言葉が出ない……


 向こうで、ソウジに肩を貸しているハクさんが、呆れる様に首を振っていた。


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