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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第九章
191/211

第191話 未知の感情

 眉間の辺りに鈍い痛みが残っている。


 そして、左右の脇腹にも……


『何故だ……』


 目の前にいた小僧と、あの術を使っていた眼鏡……


 後は、あっちに転がってる奴か。


 空いている左の掌で、眉間を触り確かめる。


『何が一体……』


 そのまま、脇腹へと手を移動させる。


 あの一撃で、あの小僧の息の根を止めるはずだった……


 だった……いや、間違いなく止めていた。


 奴に手ごたえを感じなかった。


 二本目の狂人刀を折られた時が、最高だった……


 あんな小僧にゾクゾクさせられた…………


 あの眼鏡の小僧も同様だ。


 あれほどの術、味わえない……


 この盗人達の体を借りて活動してきた中で、今日ほど満足出来た日など無かった。


 残る刀は……俺だけだ…………


 折られた刀には、同情も、憐みも、怒りも、悲しみも……感じない…………


 ただ、これから先、俺の分け前が増えただけの事……未来永劫…………


 楽しむ時間を独り占め出来る……はずだった。


 だが、


「チッ!!」


 彼は短く舌打ちをした。


 眼鏡の術は段々と弱くなる……、あの小僧も……、もっと楽しめると思ったのに、期待外れも甚だしい……


 二人に対する、いや特にあの小僧に対する『怒り』を込めて刀を振り下ろそうとした。


 だが、その時だった。


 俺の、この体の眉間の辺りを目掛けて何かが飛んで来た。


 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ


 と、内に響く音と痛みに邪魔をされ、あろうことか俺は刀を一瞬止めてしまった。


 結果、あの小僧にその隙を突かれ、今のこのざま。


 数歩後退した隙に、奴も距離を取っている。


 だが、気にすることでもない。


 いや、むしろ好都合……


 小僧と眼鏡……二人仲良く並んでいやがる。


 自然と口元が緩んでくる。


「なんと、並んでくれたのか?二人共、そろそろ終わりにしようか……」


 そう声を掛けると、二人が再び臨戦態勢に入った。


『無駄な事を……』


 やれやれと頭を振り、右手に持つ刀を下ろし、二人の元へ駆け出そうとした、その時だ。


「ヘイブグランッ!!!!」


 という叫び声が、あの眼鏡の小僧から聞こえた。


 足を止め、前方を確認すると、確かにあの眼鏡の持つ杖の先端が黒く光っていた。


『あいつ、まだ力が残っていやがったのか!!』


 奥歯をかみ締め、杖の先端を注視する。


 体中のアンテナを張り巡らせる。


『さっきと違う言葉を叫んだな……何だ?どこから、何が来る!?』


 先端の光が収まった。


 しかし、周囲に目を配るが、特別何も襲ってこない。


『なんだ?……変化が………無い?』


 ふふっ、と笑い、


「おやおや、どうした?失敗か?」


 と、わざとらしく尋ねてみる。


 そして、ゆっくりと歩みを進めながら、


「残念だったな。どんなものかと、俺も期待していたのだが…」


 そこまで言い掛けて、再度自分の周りに目を移す。


「なんだ?……うす暗……い?」


 空は晴れている。


 それなのに、俺の周囲だけ丸く円を描いた部分だけが、まるで曇天の空の下にいるかのように暗くなっていた。


 そして更に、その範囲が徐々に狭くなってきている事に気付く。


 左へ、右へ、後ろへ、と移動しても変わらない。


 つまり、中心となっているのが俺だと分かった。


「眼鏡……一体、何をした?………我に、何をしたぁぁぁっ!!!!!」


 その叫びに、奴は答えない。


 いや、もはや、考えまい。


 あの眼鏡と、小僧を倒せば、全て終わる事。


 右手の刀を握り締め、間合いを詰めるべく、右足を一歩踏み出そうとした。


『……な、ん、だ?』


 右足が思う様に持ち上がらない。


 それだけではない。


 体が下へ、下へと押されている様な感覚がある。


「クッ………」


 そして、円が小さくなるにつれ、それは強くなり、立つこともままならなくなってくる。


 下へ下へ……………


 円は小さく小さく…………


 あっという間に、その円は、俺の体の周りだけになった。


 その頃には片膝を地面につけ、更に刀を地面に差し、何とか上体を起こしているという状態だった。


 押し潰されないように、必死に耐えているだけだ。


 当然、あいつらに近づくことなど、もう出来ない。


 ……………いや、


 近付くことは、出来た。


「スミ……」


 小僧が俺に声を掛けてきた。


 俺が動けずとも、やつらは自由に動けるらしい。


 身長も立場も逆転し、俺は今、見下ろされている。


『動け………腕……………どこでも………いい。少し…………で、いい…………やつらの、…………血を……………』


 俺が狂人刀を持ち上げようと必死になっていた時、不意に小僧の口から、


「これで終わりだ」


 と、聞こえた。


 見れば、既に左の拳を握りいつでも繰り出せる状態になっていた。


 その狙いの先にあるのは、………俺だ。


『止めろ………』


 声に出して叫ぶこともままならない。


『止めろ、止めろ、止めろ……………!』


 背中に冷たい何かを感じる。


『止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、やめろぉぉぉぉぉ~~~~~~!!!!』


 それが、何かは分からない。


 分からないまま、俺は………………


 グゥワキィィーーーン!!


 激しい音が聞こえた。


 そして、意識が徐々に薄れていく………


 それだけではない。


 力が…………この体を、支える事がもう出来なくなってきていた………


 俺の体は力なく、前のめりに倒れ始める。


 そんな俺の目に、最後に入ってきた光景は、小僧の振り抜かれた拳によって、真っ二つに折られてしまった『俺』の姿だった。


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