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RGB~時計の針が止まる日は~  作者: 夏のカカシ
第九章
188/211

第188話 不利的状況

「おい!返事しろよ!!」


 目の前で倒れたソウジに、俺は何度も呼び掛けた。


『また、俺は、目の前で仲間を……失うのか?』


 忘れたい過去がよみがえる。


「いや、だ……ソウジ…………おい、ソウジ!ソウジ!!!」


 我を忘れて何度も叫んだ。


 すると、


「勝手に、殺すなよ……アンジ」


 倒れた、ソウジから声が聞こえて来る。


 直ぐ様俺は、彼の隣へ駆け寄る。


 見下ろせば、しっかりとした視線を返してくる彼がいた。


「だっ、大丈夫か、ソウジ?」


 改めて俺がそう尋ねると、彼は呆れた様に、


「……この状態が、お前には大丈夫そうに見えるのかよ?」


 体を見渡し、ある一点で目が留まる。


 腹部から天に向かって伸びる狂人刀の刀身……


 先端は彼の下の地面に突き刺さっている様だ。


 周囲はおろか、刀の刺さった場所でさえ血痕が全くない。


『これが、狂人刀……』


 と、考えていると、


「バカアンジ……、とりあえず、抜いてくれよ……」


 静かな声と、それに似つかわしくない険しい表情でソウジは俺を促した。


 一つ頷くと、俺は折れた刀に両手を添えた。


「ソウジ。これ、やっぱ、一気に?それとも、ゆっくり……か?」


「一気に決まってるだろ。……さっさと、」


「せぇ~のっ!!」


 と、ソウジの『一気に』という言葉だけを聞き入れ、俺は言葉通りに勢いをつけ、一気に真上に刀を引き抜いた。


 そして、そのまま刀は遠くへ放り投げた。


 何処へ行ったのかは、その時気にしていなかった。


 それ以上に、ソウジの傷が気になったからだ。


 彼の体に目を向け、その場所を確認する。


 服が破れはしているのだが……


「傷……無いぞ…………ソウジ。痛みはあるか?」


 彼の顔を見ながらそう尋ねると、


「いや、痛みはない。痛みはないが、クラクラしてる」


「クラクラ?」


「ああ、めまいって、言っても分かんないよな。めまいがした事ないだろ?アンジは」


「あっ、ああ。悪い分からない……でも、何で……」


「あの刀に、俺の血を抜かれたからだろうさ。今の俺は生きているが、立ち上がれない。つまり、戦闘不能状態。この戦闘ではもう役に立たない男……ああ、何やってるんだ、俺……」


「それだけしゃべれりゃ十分だな、ソウジ」


 顔色は、やはりまだ優れないがもう大丈夫だろう。


 彼の脇から立ち上がり、そのまま背を向けた。


「後一本……本当は、ソウジの分だけど、仕方ない、俺が片付けてくるからな。後で文句言うなよ。ソウジ?」


 振り向かずにそう伝えると、


「……ああ、頼む。アンジ。悪い」


「いいさ……」


 俺に背を向け、先程から一切動かないスミに向かって両手を構えた。


「イッ!!」


 構えた右の拳に痛みが走り、思わず声が漏れた。


 装飾が壊れ、隙間から血がにじんでいる。


『右手も、コオロキも使えそうにないな……』


 使用出来るのは、左手のみ。


 ソウジも参戦出来ない。


 一方のスミは、放心状態?の様だが、まだ狂人刀が一本と、半ばで折れたもう一本を両手に持っている。


『………………どう考えても、不利……だよな。どうしよう』


 スミがまともに動き出したら、勝算はないに等しくなるだろう。


 右手に持たれた狂人刀……


 今のお互いの向きのまま、あの刀に打撃を加えようと思ったら、右側から攻撃するしかない。


 しかし、…………俺が今、使えるのは左の拳……


『仕方ない……側面に回って…』


 一定の距離を保ったまま、俺はゆっくりと、円を描くように右手の方へと進む。


 スミは動かない。


 しかし、彼の側面まで来た時だった。


「小賢しい……」


 その言葉と同時に、彼の右手に持った狂人刀が、俺の鼻先に向かって伸びて来て、そこでピタリと止まる。


「一度ならず二度までも……しかし、それも、ここまでだ」


 右手は動かさず、スミは体ごとこちらを向き、折れた左手の刀を俺に見せつけた。


「折れはしたが、充分だ……」


『充分だ?』


 スミの言った意味が分からない。


 しかし、次の瞬間その言葉の意味を、俺は理解する事になる。


 一度、目の前にあった刀がスミの手元へ引かれた。


 しかし、直ぐ様その刀が俺の胸元を目掛けて伸びてくる。


 慌てて、左の拳でそれをいなす。


 が、スミはそのまま手首を返し、刀を切り上げる様に力を込めてくる。


 その刀を俺は左手を持ち上げ、空へと流した。


 ところが、スミの攻撃はまだ終わらず、がら空きになってしまった左胸を目掛けて、折れた刀を突き出して来た。


 俺は、痛みを堪え、右の拳で体の外へはじき出した。


 すると、再び右の刀が……


 とにかく俺は、スミの攻撃を弾き、そしてかわし続けたのだが、


『なんでだよ……。止まらない……しかも、早い……』


 徐々に、俺の手が、スミの攻撃に対して遅れ始める。


 そして、スミの右の刀から繰り出された一撃を受けた時、俺はとうとう後方へ弾き飛ばされてしまった。


 背中を強打し、一瞬息が詰また。


「……終わりか?」


 刀を下ろしながら、スミがそう呟いた。


「終わりかと聞いているのだ……」


 こちらへ向かって、彼はゆっくりと歩き始めた。


 俺は背中の痛みを堪え、立ち上がり、両手を再び構えた。


「まだ、……まだに、決まってるだろ……」


 肩で大きく息をしながら、俺はそう答えた。


「そうか。だが、」


 次の瞬間、再びスミの攻撃で俺は後方へと飛ばされ、再び背中を強打した。


「そろそろ、限界の様だな……」


 スミはゆっくりとした歩調で再びこちらへ歩み始めた。


 何とか立ち上がった俺の目の前まで来ると、


「なかなか楽しめたぞ……。だが、満足出来るほどでは、なかったがな……」


 そう言いながら、スミは右手の刀を高々と振り上げた。


 俺は、その振り上げられた刀を見上げていた。


『クソッ……』


 自分の体が思う様に動かない事に俺は苛立つ。


 そして、これで終わりかと諦めかけた、その時だった。


「止めろぉ~~~」


 と、叫ぶ声が聞こえて来た。


 俺も、スミも声のする方へ目を移す。


 そこには、こちらへ向かって駆け寄って来る、トウジの姿があった。


「ト、トウジ……」


 怯えた様子もなく、力強い眼差しをしたトウジ。


「こっちへ来るな」と、彼を制止することも出来なかった。


 そしてトウジは、俺とスミから距離を取った位置で立ち止まると、


「アンジから離れろ!!ここからは、僕が……、僕が相手だ!!」


 そう叫びながら、トウジはロクジョウコンを振りかざしたのだった。


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